翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部十話 〜同人の世界へようこそ 前編その1〜



「えーと。これで衣装は完成したね」
「うん。それにしても本当に直子ちゃんって作業の速度が速いよ。だって型紙を作って断裁、縫製にかかった時間って正味で24時間とかかっていないから、直子ちゃんが本気でやったら1日で完成したかもね。まさか治子ちゃんも私達と一緒に参加してくれるなんてね……」
「まあ。本当なら秋山の兄貴を誘おうとして、彼と一緒に治子さんも入ったようなものだったしねえ。つかさちゃん」
「う……。ごめん直子ちゃん」
「まあ、私は別に良いんですがね。でも、つかさちゃんが大変になるだけだしね。それにしても、私が関羽、つかさちゃんが張飛、治子さんが馬超ですか……。あと、趙雲と黄忠がそろったら蜀の五虎将軍せいぞろいだね。それにしても、治子さんが恋姫バサラの大ファンだったとは……」
「うん。ボクも驚きだよ」
 そんな訳で私たちは作った衣装に袖を通して、鏡の前で一通り回って問題が無いかどうか調べていた。
「私の方は問題ないわ」
「ボクの方も問題なかったよ」
「私も大丈夫。それにしても得物がもてないのがつらいわね」
「まあ、しょうがないわよ直子ちゃん。規定で長物や武器の持込は禁止だからね」
「そう。そろそろ。荷造りしないと間に合わなくなるよ」
 そんなわけで私たちは必要な荷物を手早くかつ精密にカバンに詰めていた。
「いちばーん。ってまだ。二人ともつめ終わらないの」
「ううう〜凄いのだ〜」
「くっ。直ちゃんは化け物か……」
「酷い言われようね。二人とも、服の畳み方に問題があるのよ。もっと無駄なスペースを削るようにたためば収まるわよ。ほらこうやってこうすればね」
「「「へー。凄い〜。なるほどこうやってこうすればいいのね。参考になったよ」」」
 とまあ、そんなこんなで荷造りを済ませた私たちはいよいよ出発の段となった。純一も同行することになった。
「それにしても、つかさちゃんが単車の免許を持っていたなんてね」
「それをいったら治子ちゃんもだよ」
「そうね。荷物をしっかりと固定したし、そろそろ行こうか。で、純一君は誰の後ろに乗りたいのかな」
「そうだよ。もちろんボクだよね。純一君」
「そ、その、俺は深山さんの方がいい」
「え、私がいいの。でも、無理ね。私のマシンに初めての純一君を乗せたら多分、小便ちびって気を失いかねないわね」
「うん。確かに。直ちゃんのマシンは乗らない方が無難ね。私は自分の経験から言うわ。純一君私の後ろに乗るといいわ」
「ええ。憧れの店長とタンデムなんて感激ものっす」
「うー。治子ちゃんに美味しい所取られた……」
「まーまー。つかさちゃん。拗ねてないでそろそろ行こうか」
 そんな訳でお互いに荷物の固定を確認した私たちはそれぞれ装備品を取り付けてエンジンを始動しようとしたが、私はそれを止めていた。
「ん。どうしたの。直子ちゃん」
「もしかして、ぶるったの」
「ん。違う。此処でエンジンをかけたら楓ちゃんがおきちゃうから押して此処をでて少し行った所でエンジンを掛けないとね」
「確かにそうね……」
「ボクも直子ちゃんの意見に賛成だワン」
そんな訳でバイクを押して寮を出て、ある程度の広い場所でエンジンをかけようとした時、一台のバイクが入ってきた。
 「おや、直子、治子。お久しぶりね」
「ん。その声は蝉代さんじゃあないですか。ひさしぶりっす。本店で活躍していたのにどうして此処へ」
「ん。留美さんから電話があって、なんでも治子が初めて”コスプレ”となるものをやるらしいから写真機に収めてくれって。ついでに私も衣装を作らされて行く時に持って行ってそこで着替えたら判るって言われてね。それにしても直子も一緒とはどんな事が起こるのか楽しみだよ。ところでそちらの女性は……。私は坂上蝉代」
「ん。ボクは榎本つかさ。よろしくなの。蝉代さん。留美さんから頼まれたって言ってましたね。留美さんは参戦するんですか」
「ん。今回は参加は見送らせてもらうって言っていたわね」
「そうですか。それは残念だワン」
 私たちが和やか雰囲気をかもしだそうとしていたところに意外な人がやって来た。
「ねえ。そろそろ行かないと危ないのでは」
「ん。そうね。ってあら。どしたの直ちゃん」
「ん。バイクが三台こっちにやってくる。一台はカタナ、後の二台はCBR1000RRとZZR1100か、勇蔵に勇希と疾風がくるね」
「でも、なんで、そんなのが判るの」
「ん。だって、私のV−maxと排気音の癖が似ている。そう、とある特定の人が手がけた独特のエンジンの鼓動……」
「そうね。私達のマシンは自分で再生、強化改造をしたけれど、師事した人はみんな同じ人だから、その鼓動は似ていて当然ね」
「そういうこと。おーい。此処だよ〜」
 私は赤いフィルムを張った懐中電灯を点けて3人を誘導していていた。
「いよう。直子」
「やあ。勇蔵。久しぶりだね」
「はあ〜。やっぱり血を分けた姉妹よりも男なのね〜」
「ああ、勇希。それに疾風も二人とも此処へ来るなんて珍しいね」
「ん。まあね。ところで直子もイベントに参加するんでしょ。どうなるのか楽しみと不安で一杯だよ」
「ええ。勇蔵の誘いでね。何でも、日本中のその手のヲタ達が来るらしいから早めに行っておかないといろいろとやばい事になりそうよね。ねえつかさちゃん」
「ん。そうだね。じゃあそろそろ行こうかだ。ワン」
「ところで、直子。治子さんと蝉代さんはわかるんだけれども、もう一人は誰かしら……」
「ああ、紹介がまだだったわね。こちらは榎本つかささん。で、この二人は深山勇希と白菊疾風の二人だよ。つかさちゃん」
「宜しくなのだワン。深山ってことは勇希ちゃんと直子ちゃんって姉妹なのかしら」
「ん。姉妹と言うか従姉妹の関係ね」
「あ、あの……。ところでそろそろ行きませんか」
「おっと。そうだったわね。じゃあ行こうか純一君……」
「ねえ。直子……。治子さんの後ろに乗っている男の人ってもしかして治子さんの恋人なの……」
「ん。違うね。もっとも彼自身は治子さんを慕っているみたいだけれど、治子さんってあのとおり朴念仁だからなかなか進展していないみたいね。で、つかさちゃんも乱入してきてかなり面白いことになりそうね」
「直子……。あなたも悪ね……。どうせ、あんたが焚き付けたのでしょ」
「うんにゃ。私はやっていないわよ。まあ、たまたま近くにいてそれを見届けることができるだけだけどね。もっとも、刃傷沙汰になるようなら私は全力で止めるけれどね」
「ふーん。それじゃあそろそろ行かないとね」
「そうだね。治子さんの方は準備OKかしら」
「ええ。私の方はOKよ」
「ボクもOKだワン」
「勇蔵。私たちはいつでも出撃可能だよ」
「そうか。じゃあ僭越ながら俺がトップを取る。直子達は着いてきてくれ」
「ん。わかった。素人を後ろに乗せているからせいぜい70が限界速度ってところかしら」
「そうだろうな」
 私と勇蔵が打ち合わせをしているところに治子さんがやってきていた。
「ちょっと、見くびらないでよね。もっと出るわよ」
「あの、治子さん。私たちが言っている数字ってマイル換算での数字だけれどね。70ってのはキロ換算だと112だけど、出せる?」
「問題ないわ」
「そう。それじゃあ私たちも飛ばすわよ。じゃあ勇蔵そういうわけだから行こうか」
「そうだな。あー。つかさちゃん、もしはぐれたら君が治子さんを誘導してやってくれ」
「ん。わかったワン。私のニンジャは伊達じゃあないわ」
 そんな訳で私たちはそれぞれの単車に乗り込みエンジンを始動させていた。ここで、それぞれのマシンを紹介しておくわね。
 私はV−max。もっとも、ノーマルではなく、ボアアップにボルトオンターボ、ブレーキ、サス、フレームなども改造しているから殆どオリジナルマシンに近いわね。で、蝉代さんはハーレーである。彼女がいうには本当は陸王が欲しかったが、陸王がハーレーのライセンス生産品ということが判ってハーレーをレストアしたわけで。ちなみに彼女の乗っているのはソフティルクラシックを愛用しているわね。で、治子さんはVFRに乗っている。なんでも憧れのナナハンマシンを探していたらそれしかなかったらしい。
 で、勇蔵はカタナ。勇希と疾風はCBR1000RRとZZR1100それぞれ、独自に改造しているマシンね。まあ、私もそうだけど彼らもまた自分でスクラップからパーツを集めて一台に仕立てたからそのマシンの癖などをしりつくしている人たちだ。
 最後につかさちゃんはニンジャである。まあ、見た所プラグコードなどが色分けされているからある程度は手を入れているみたいだけど、実際の性能は未知数ってところかしらね……。
「勇希。勇蔵。疾風。治子さん、つかさちゃん。蝉代さんじゃあ行こうか。それと、トラックには近づかない方が良いわよ。特に左に曲がろうとしている間に入って巻き込まれたらあの世行きだからね」
「そうね。あとトレーラーの横も危険な領域だしね」
「そういうこと。じゃあエンジンを始動させて、あったまったら行こうか」
「うん」
 そんな訳で私たちはそれぞれのマシンの心臓に火を入れ暖機運転を開始し、そして5分後私たちは目的地にむけてそれぞれ出発していた。

 一方 同時刻……別の場所では……

「ふふふ。お姉さまが東京に行くのね……。それもオタの集まりに行くなんて……。お姉さま。私がお姉さまを元の道に連れ戻してさしあげますわ。そしてフフフフ……」
「ちょ、ちょっと美春ちゃん。まだ早いんじゃあないかしら……」
「いいえ。朱美さん。手ぬるいわ。さやかの手紙によると、同僚の坂上とかいう女の人もお姉さまを狙っているって言うじゃあないの。此処はなんとしても先行してお姉さまを奪還しないと。朱美さんも治子お姉さまのことがすきなんでしょ」
「ギク。そうだけれど……」
「なら、問題は無いはずよ。それに店の方もお休みだし問題ないわ」
「そうね。たしかにそうだわね」
「へえ〜。あんた達面白そうな話をしているわね。抜け駆けしようったってそうは問屋が卸さないわよ。第一、今から東京にむかうとしても移動手段はどうするのよ」
「「ぐう。そうだったわね」」
「でしょ。だったらアタシも連れて行きなさいよ。そうすればあたしの車を出してあげるわ」
「美春ちゃん……。背に腹は変えられないわ……。此処は貴子さんの要求を呑むしかないわよ」
「そうですね。此処まできたらライバルが一人増えた所で変わらないですからね……。さやかと落ち合ってからどうするか考えないとね……」
 そんな訳で美春達もまたオタの聖地へと出撃していった。
 みんなのそれぞれの想いが交錯しつつ夜は白々と明けつつあった。そして、狂乱と興奮に満ちた祭りが始まろうとしていた。

(続く)

あとがき
 ども、霜月天馬です。今回はそれぞれ、いろいろな思惑をのせていました。ちなみに、蝉代さんが言っていた「陸王」について解説ですが、実際にそうでした。もっとも、「陸王」というメーカーは戦後も生き延びましたが、高度経済成長にともなって
後発のメーカーに押されて結局倒産したメーカーです。戦前から戦後に掛けて一番大排気量バイクを販売していたことには変わりないですが……。


管理人のコメント

 夏コミに参戦する事になった一同。今回は移動前の準備編です。が、いろいろ暗躍する人々もいるようで。
 
>まさか治子ちゃんも私達と一緒に参加してくれるなんてね……

 留美やつかさ、ともみとの付き合いが長いので、治子(耕治)は結構同人馴れしています。


>私が関羽、つかさちゃんが張飛、治子さんが馬超ですか……。あと、趙雲と黄忠がそろったら蜀の五虎将軍せいぞろいだね。それにしても、治子さんが恋姫バサラの大ファンだったとは……

 趙雲は当てはまりそうな人がいませんが、黄忠は千尋を誘うと似合うような気が……巨乳キャラですし。ここでふと雄蔵に貂蝉をやらせるという怖いネタが思い浮か(殴)。


>「うん。確かに。直ちゃんのマシンは乗らない方が無難ね。私は自分の経験から言うわ。純一君私の後ろに乗るといいわ」

 この世界、治子もバイク持ってたのか……しかも後で車種が分かりますが、結構渋い好みですね。
 
 
>「ふふふ。お姉さまが東京に行くのね……。それもオタの集まりに行くなんて……。お姉さま。私がお姉さまを元の道に連れ戻してさしあげますわ。そしてフフフフ……」

 この美春黒いです。
 
 
>「へえ〜。あんた達面白そうな話をしているわね。抜け駆けしようったってそうは問屋が卸さないわよ。第一、今から東京にむかうとしても移動手段はどうするのよ」

 そして貴子も参戦。しかし、設定上は四号店と五号店は隣町にあるらしいので、移動中に遭遇しそうですね(笑)。
 これで舞台はいよいよ会場に移るわけですが……この面子がからむとまた一騒動ありそうですね。


戻る