翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 第九話 〜アジアンフェア開催〜


「皆さん。今日からいよいよアジアンフェアが始まります。メニューなどいくつか変更されているので各自間違えないようにしてください。そして、みんなでこの店を盛り上げましょう。それでは接客5唱和を始めます」
「「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」」
「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」
「「「「「「「少々おまちください」」」」」」」
「「「「「「「お待たせしました」」」」」」」
「「「「「「「申し訳ありません」」」」」」」
 いつもの、接客唱和を終えた私たちは配置表に従いそれぞれの場所へと散っていった。私は知らなかったが、治子さんと彼が面接官として、このフェア専用の補充要員を入れていたと聞いた。二人の名前は、西園寺美湖さんと高屋敷瑞希さんの二人だ。西園寺さんは寮に入らなかったが、高屋敷さんとは寮で何度か顔を合わせていた。まあ、メイドをやっていると聞いた時は私は少し驚いたわね。で、フェアが新しくなったので私達女性従業員のコスチュームも様変わりした。
 千尋さんはSバージョンを、あやの、美湖の二人はKバージョンを、香苗と美森と私はCバージョン、治子さんと瑞希はMバージョンをそれぞれ選んでいた。まあ、本来ならばわたしはKを使うはずだったけれど、美湖と私のキャラがかぶると言う理由で急遽私はCバージョンを使う事にした。
 そんなこんなで、いよいよ店は開店時間を迎えようとしていた。なお、私は今日の配置はウェイトレスである。
 まあ、ひさびさのフロアだから少し緊張するけれどやるだけね。
「いらっしゃいませ。Piaキャロットへようこそ。何名様でしょうか」
「4名だ。ねえちゃんかわいいねえ」
「かしこまりました。おタバコは吸いますか」
「ああ」
「ではこちらの席へどうぞ」
 と、私は流れるような動作で客を空いている席まで誘導し、オーダーを取り、出来上がった料理を所定の場所まで持っていくといういつもの作業を流れるように行っていた。で、ある程度余裕ができてフロア周りを見てみると……。
「あ、あの……。も、もうしわけありません。オーダーを確認しますね。生春巻き2つとチンジャオロースサンド1つに生ジョッキ2つですね」
「そうだ」
「それではしつれいします」
 そんなやり取りを私はみていた。どうやら高屋敷さんはフロア系はまだまだのようね。それにしても純一君も上手にフォローしていたね。まあ、彼女については私も可能な限り指導しないとね。もっとも、私は純一君と違ってスパルタだけれどね。
 昼のピークを過ぎてもまだ、お客の入りはかなりあった。まあ、ピークに比べれば少し落ち着いていたけれどね。で、午前の人間が終わって午後のシフトの二人が入れ替わりに入ってきていた。
「おはよう。直子さん」
「おはようございます。深山さん。あの、ご指導のほど宜しくお願いしますね」
「ああ。おはよう。久我山さんに西園寺さん。それにしても二人とも制服が似合うわよ。まあ、西園寺さんの制服が似合っていて良かった。それじゃあ私は休憩に入るから」
「はい。お姉さまと一緒に働けるなんて夢のようです〜」
「ああ。直子さんも頑張れ」
 そんなこんなで私はいつもよりもかなり遅い食事兼休憩を取る事となった。なお、今日のメニューは料理長特製ケバブである。
 私はチリソースを手にとって美味しく食っていた。
「いやはや。深山君の食いっぷりはたまらんね。作る側としては嬉しいものだ」
「でも、このケバブってソース次第で味が変わるから良いですよ。今度はヨーグルトで食べてみようかな」
「今度、地中海フェアをやる時はこの料理をメニューに入れてもらうように働きかけようかね」
「絶対にそうするべきですよ。もっともソースはお好みに合わせて用意した方がいいと思いますね」
「そうだろうな。っと。そろそろ午後の仕込みをしなきゃいかん」
 私も時計を見つつ料理をパクついていた。
 そして休憩時間が終わる頃には夜のピークが始まろうとしていた。
 私はウェイトレスとして、迅速かつ正確無比に仕事をこなしつつ、他の女の子達のフォローも行っていた。
「大丈夫。西園寺さん」
「ええ。大丈夫ですよ。有難うございます」
「いや、無理して倒れられても困るからね。君はこのフェア用に補充されたキャンペーンガールだからね」
「はい。ご指導よろしくおねがいします」
「ああ、基本は研修で学んだ通りだから、あとはいかに効率よく回すかが問題ね。おっと、おしゃべりは此処まで。お客さんだ」
 そんなこんなで私もまた新人を率いながらウェイトレスの仕事をテンポ良くかつ正確無比にこなしていた。キッチンの方もまあ、それなりに回っているようだし少し安心して仕事に熱中していた。
 そして閉店時間になり、私たちはフロア周りや周囲のゴミだしや掃除を終えて更衣室で着替えようとした所で意外な二人と出会っていた。
「お疲れ様です。あ、深山さんご指導有難うございました」
「おつかれ。直子」
「ああ、お疲れ、美森、西園寺さん」
「あら、深山さん。私のことは美湖でいいですわ」
「そう。美湖は高校生なの」
「ええ。そうですが。そういえば深山さんは学生さん?」
「いや、正式の社員だよ。私の所親が居ないから高校を出るのがやっとだったしね。教師からは国立を狙えるだけの学力があったけれどね。でも、今年こそ航空学生試験合格してやる」
「公務員試験」
「まあ、特殊公務員ってやつですね。防衛軍のパイロット養成施設の入隊試験ってやつです。ところで話は変わるけれど、なんで美湖は此処にバイトに来たの。欲しい物を買いたいから金を稼ぐ目的とか」
「まあ、そんなところですね」
「そう。あまり遅くなると電車が無くなるし、両親達も心配するだろうから早い所引き上げた方がいい。それに明日も仕事だからね。戸締りは私がやっておくから二人はもう引き上げて良いわよ」
「じゃあ。あとはよろしく直子」
「それでは。おやすみなさい」
 そんなこんなで二人と別れた私は厨房でガスの点検を行っていると、フロアの方から明かりと妙に艶めかしい声が聞こえていたので、私は不審に思いつつフロアに通じる扉の方から様子を覗いてみると、其処では意外な二人が肉弾戦を繰り広げていた。
「直ちゃモガァ」
「しっ、店長。静かに二人に気付かれてしまう」
 後ろからやって来た治子さんの口を手で覆って二人に気付かれないように静かにさせていた。で、私は治子さんと小声で話をしていた。
「いやはや。まさか北川君と千尋さんがああなるなんてねえ……。それにしても店であんな事するなんて……」
「店長。私たちは何も見なかったことにしましょ」
「ん。なんで」
「だって。愛する二人を引き裂くなんて野暮もいい所ですよ。うわあ。北川君って結構凄い……」
「もしかして、愛しの雄蔵君とのラブラブの日々を思い出しているわけ」
「ま、そんな所です。うー。こんなの見せ付けられちゃったら、私もムラムラしてきちゃったよ」
「直ちゃん……落ち着いて……」
「そうね。後のことは二人に任せて私達も帰りましょ」
「そうね。じゃあ一緒に帰ろうか直ちゃん」
 そんな訳で私達二人は寮へ向う道の途中でとある人物と意外な形で出会うこととなった。
「ほう、じゃあ。貴方はコスプレをするのか」
「うん。それにしても立川君だったっけ。貴方のことは有名よ」
「ほう、そうなのか」
「うん。だって、あの大庭詠美や、猪名川由宇、千堂かずき先生がまだ有名になる前からのファンなんでしょ。それに千堂先生がピンチだった時にもいろいろと手を打ったらしいじゃあない」
「なぜ。それを」
「んふふふ〜。コスプレイヤーの情報網を舐めちゃあ駄目駄目よ〜」
「ん。雄蔵……それにつかさちゃんどうして……。もしかして……」
「まて、直子。俺は彼女から直子のことを聞いていただけだ」
 雄蔵の言葉に私は拳を解いたけれど、まだ怒りは開放はしていない状態のまま彼の話を聞いた。
「ふーん。私のところにいこうとして道に迷って燃料切れになって、道を尋ねようとしたら偶然出合ったところ、イベントで知り合った人で次の夏のイベントについて話をしていたと言うわけね……」
「そうだ。別に直子の事を嫌いになったわけでもなんでもないぞ」
「そう。雄蔵。夏のイベントって何時かしら」
「8月の15、16日だが直子も来るのか」
「ええ。その日はお店はお休みですから。そうでしょ治子さん」
「ええ、15日から4日間は夏休みと研修を兼ねて休業する事が決定しているし、それに研修は17からだから問題ないわ」
「そういうわけなんで。雄蔵私もそのイベントに連れて行きなさい」
「にゅふふふ。そういうことならボクが直ちゃんをコーディネイトしてあげるのだ。直ちゃんボクの所へきてくれないかしら」
「わかった。あ、雄蔵。これ私の部屋の鍵ね。それから道は治子さんについていけば問題ないから」
「おう、判った」
「ええ。それじゃあ雄蔵君着いてきて」
 と、まあ、私はつかさちゃんの所へと連れて行かれた。で、いつも思うんだけれどやっぱり採寸って何度やってもなれるものじゃあないわね。
「むー。それにしても直ちゃんのスタイルって羨ましいよ。だって試しに計測してみたら上から93、56、87って羨ましいくらいに良いじゃあない。私にも分けて欲しいくらいだワン」
「うーん。毎日牛乳飲んでいるだけだけどねえ」
「ふーん。にゅふふ。これだけスタイルが良いなら、キワドイ衣装も問題ないわね……。って言いたいけれど傷痕があるんだよねえ」
「まあ、傷痕が残ってしまいましたが、引っかからなかったら今頃あの世に行ってしまってましたよ」
「そう。にゅふふ〜。直ちゃんってゲームはするわね」
「まあ、大部分はゲーセンでのプレイですがね。あと、家庭用もするかな」
「ふふふ。それじゃあ『恋姫バサラ』に出てくるキャラの衣装をボク作っているからそれに出てくるキャラの衣装を用意してあげるわね〜」
『恋姫バサラ』このゲームは一人の武将に対して複数の兵士と敵方の大将を倒せば勝ちというゲームで私も時々ゲームセンターで遊んでいるゲームだ。なお、三国志の武将がなぜか女性として登場しているのがポイントである。
「もしかして、つかさちゃんがつくっている衣装って張飛の衣装かしら……」
「そうだよ。直ちゃんなら関羽なんてどうかしら……」
「ん。良いわね〜。私は異存はないわよ」
「じゃあ、直ちゃん明日から一寸てつだってくれると嬉しいね」
「ん。判った。じゃあ明日からまたつかさちゃんの所へいくね。まあ、遅くなるけどその辺は勘弁してね。いっそのこと純一君もさそったらどうかな。つかさちゃん」
「な、何言ってるのよ」
「ん。この前何があったかなんて私には判ったわよ。純一君を撃墜するつもりなら、コックピットを撃たないと他の人に彼を横取りされちゃうわよ。彼を慕って居る人って結構居るからね」
「うー。やってみるんだワン。やるだけやってみて駄目なら諦めもつくしね」
「そうそう。その意気よ。それじゃあ今日はこの辺で失礼するね」
「うん。いろいろ有難うだワン」
 そんな訳でつかさちゃんと別れた私は自分の寮へと戻ってみると。そこにはトキ子さんと雄蔵が会話している風景が目に入ってきた。
「あ、トキ子さんただいま戻りました。もしかして、雄蔵の奴何かしたのかしら」
「あ、直子さんお帰りなさい。いえ、別に何も無いですわ」
「あうう。ママ〜怖いよ〜」
 楓ちゃんの様子を見て私は何があったか一目で理解し、楓ちゃんの目線に降りて彼女に語りかけていた。
「大丈夫よ。このお兄さん、見かけは怖いけれど、根は良い人なんだから」
「雄蔵。待たせてしまったみたいね。所で、治子さんはどうしたの」
「ああ、治子さんなら、すぐに部屋に戻ってしまってな。それで直子を待つことにしていたんだが、それを管理人さんに見咎められてな」
「そうでしたか。トキ子さん、彼なら大丈夫よ。実は私の彼氏なのよね……。私に会いに来たのは良かったけれど燃料切れで立ち往生したから一宿一飯の礼をしてあげようと思ってね。それに久々にラブラブもしたいしね……」
 それを聞いたトキ子さんは流石に人妻というか母親の勘で私の様子を察した様子だった。
「そうだったのですか……。それは失礼しました。じゃあお二人ともごゆっくり〜」
「凄い人だったな。直子とは違った意味で迫力があった」
「まあ、あの人は母親ですからね。まさに母は強しといった所ね。じゃあ着いてきて」
 そんなこんなで私は雄蔵を部屋へと案内してあげた。まあ、その後私達がどうなったのかは各人の想像に任せるとしましょう。

 翌日……
「腰が……、夕べはちょっとハッスルしすぎたかしら……。あら、千尋さんおはようございます」
「あら、直ちゃんおはよう。夕べは直ちゃんも楽しんでいたみたいね……」
「ふふふ。千尋さん夕べは北川君の若いエキスを絞っていたみたいですね。で、彼どうでした」
「な、なんで……それを」
「ふふふ、まあ、スリルを求めてあんなところでヤルのはいいんだけど、もう少し人気のない所でやるか声を控えるべきね」
「上に報告するのかしら……」
「ん。少なくても私はそんなことはしませんよ。それをねたに強請ることもね。だって、愛する二人を引き裂くなんて野暮はしたくないからね。それと、治子さんも見ちゃっているわよ。まあ、私も治子さんもこの件についてはとやかくは言わないと思うけれどね」
「そう、そろそろ潮時かしらね……」
「もしかして、千尋さん何か悩みでもあるのかしら」
「なんで判るのかしら」
「ん。あのシーンを見ていてナンと言うか刹那の快楽を追い求めていると言うかそんな感じに見えたからさ」
「はあ〜。やっぱり直ちゃんには敵わないわね〜。そこまで見抜かれているなんてね。その通りよ、私には婚約者が居るわ。始めは婚約者が浮気をしていたから見返してやろうとおもって、秋山君を狙おうとしたけれど、彼はなびかず逆に北川君が近づいてきたから体を使って誘惑したのよ」
「で、婚約者の方から千尋さんに対して干渉し始めた訳ね」
「そう言う事」
「そう。少なくても北川の奴は千尋さんについては本気だと思うよ。あとは貴方しだいね。まだ時間があるなら考えて見る事ね」
「ありがとう。直ちゃん」
「ん。別に良いわよ。それじゃ今日もお互いにヘマしないように仕事しましょ」
 そんなこんなで今日もまた仕事が始まろうとしていた……。
(続く)


管理人のコメント

 純一がつかさに食われたりして色々大変な人間模様の五号店ですが、直子は余裕です。
 
>皆さん。今日からいよいよアジアンフェアが始まります。

 原作でもそうでしたが、結構フェアって切れ目無くやってるようです。まぁ、現実のファミレスもそうなんですが、Piaキャロットみたいに制服まで変わるところだと、結構大変なような。
 

>「4名だ。ねえちゃんかわいいねえ」
>「かしこまりました。おタバコは吸いますか」

 ビジネスライクですね、直子(笑)。
 
 
>防衛軍のパイロット養成施設の入隊試験ってやつです。

 この世界、自衛隊じゃなくて防衛軍なんですね……ゴ○ラでも上陸してきそうです。
 
 
>私は不審に思いつつフロアに通じる扉の方から様子を覗いてみると、其処では意外な二人が肉弾戦を繰り広げていた。

 読者としてはそう意外でもないというか、あーあ、やっちゃった、と言う感じですが。
 

>「ん。雄蔵……それにつかさちゃんどうして……。もしかして……」
>「まて、直子。俺は彼女から直子のことを聞いていただけだ」

 久々に雄蔵登場。って、つかさと知り合い……まぁ、そうなっても不思議ではない(オタクつながり)話ではありますが。
 
 
>『恋姫バサラ』

 うわ、やりてぇ……
 
 
>「そうだよ。直ちゃんなら関羽なんてどうかしら……」

「恋姫無双」と同じデザインだとすれば納得。個人的には男勝りの馬超でも似合いそうな感じです。


>「あうう。ママ〜怖いよ〜」

 そりゃ泣くよ(笑)。
 
 
 さて、次回は恐らく夏コミ会場あたりが舞台になるのでしょうが、田舎育ちの直子にはあの巨大イベントはどう見えるんでしょうかね?


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