翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 第八話 〜打ち上げ風景〜


「お疲れ様〜」
「お疲れ〜。それにしても千尋さんの制服姿は圧巻ですねえ。このスタイルだからこそ猫バージョンが映えるのだけれどね」
「んふふふ。深山さんにそういわれるとはねえ。でも、スタイルなら私よりも深山さんの方が良さそうに見えるんだけれどねえ」
「まあ、確かにスタイルだけならそうでしょうね。でも、私では猫バージョンは無理なんで」
「ん。どうして。スタイルでは私よりもあるのにスタイルが問題じゃあなさそうね」
「それは……。見れば判りますよ」
 私はそう言って着替え始め制服の上着を脱いだ時に彼女に背中を見せた。それを見て彼女も納得したようだ。
「そういう訳ね。たしかにその痕があったら猫バージョンは無理があるわね。でも、その天使バージョンの衣服も中々セクシーよ。悪魔バージョンもよかったけれどね」
「そうですか。そう言ってもらえて嬉しいわ。もっとも、悪魔の方は臨時の措置でしたからね。ところで、アジアンフェア用の衣装はどうです。気に入ってもらえた」
「ええ。気に入ったわ。インドの民族衣装をモチーフにしたって言っていたわね。デザートフェアの猫タイプが気に入っていたから少しさびしい気分ね。はあ〜こういうときはお酒に限るわ。深山さんも付き合う」
「そうですか。それを聞いて私達も頑張った甲斐がありましたよ。いいですね。と言いたいところですが、治子さん、いや店長と飲む約束しているので今日は一寸無理ですね」
「あら、つれないわね〜。北川君と一緒に飲むとしようかしら」
 そんなこんなで私は着替えて更衣室を出ていた。其処には制服姿の治子さんとばったりと出会った。
「あ、店長おつかれさまです。少し買出しに行ってから店長の部屋に行きますね」
「ええ。おつかれさん。頼むわね」
「はい。それでは私はこれで」
 そんなこんなで私は照明が落ちた店を後にし、商店街へと歩いていった。スーパーで日本酒一升ビンで数本とおつまみなどを適当に買って寮へともどり、治子さんの部屋へと私は向った。
『コンコン』
「はいはい」
「あ、直ちゃんいらっしゃい。買って来たのね」
「ええ。ついでにおつまみとお惣菜もいくつかね」
「うーん。さすが直ちゃんね。抜かりないわ。つかさちゃんに秋山君も来ているわよ」
「あ、あの〜。治子さん。お邪魔でしょうか」
「あ、秋山君も来なさいよ。女だけで飲んでもいいけれど男の子が居ないとさびしいからね〜」
「は、治子さん……」
 彼が呆然としている様子を見た私は彼に耳打ちしてあげた。
「秋山君。こうなったら諦めてこの状況を楽しんだ方が良いわよ」
「深山さん……。わっかりました。こうなったら俺もハッスルするぜい」
「きゃー。逞しい〜。ボクそういう男の子好きよ〜」
「じゃあ。そんな訳でフェアの制服製作終了を祝ってかんぱーい」
「「「かんぱーい」」」
『んぐぐぐんぐ。ぷは〜』
「やっぱりお酒は『美少年』に限るわね〜」
「そうですか。個人的には『美少年』よりか『大酒』の方がすきなんですがね。って治子さんペース速すぎるって」
 私は彼女を止めようとしたけれど、こうなった治子さんは私でも止めようが無いから放置する事にした。
「ん〜。純一君はまだまだ未熟。あらひに好意を持っていても今のままじゃあ全然駄目駄目よ〜」
「治子ちゃん。ペース速すぎよ〜。はあ〜こうなったら放置しておく方が良いわね。ところで純一君っていったわね。ボクは榎本つかさだよ」
「そういえば、つかさちゃんとはピアキャロットの2号店で知り合ったのよね〜。2号店にはあずさも居たわね。そして留美先輩とつかさちゃんはコスプレ仲間だしねえ〜」
 治子さんの一言に私は反応していた。
「へえ〜。つかささんって留美さんの後輩だったのね。私留美さんの元でも働いていたけれどね」
「じゃあ。深山ちゃんって治子ちゃんと留美さんの二人に師事していたことになる訳だね」
「まあ、そうなりますね。ところで飲みましょ。もっとも明日に響かない程度にね」
「そうね」
 そんな訳で私とつかさちゃんの二人はお互いに手に取った茶碗に『大酒』を注いで飲んでいた。一方、純一の方は……。
「くっくう。確かに俺はまだ未熟だよ。でも、今に見ていろ。きっと見返してやる。今日の俺よりも明日の俺の方が強いんだぞ……畜生……んぐんぐ」
 一人歯噛みしながら杯を重ねていた。私はそんな彼の姿をみて無言で酒を注いでやった。
「ほれ。まあ飲むといいよ。明日の俺は今日よりも強いか。確かにそうね。貴方の心の中には燃え盛る炎が燃えている。その炎を消さなければきっと彼女もわかってくれると思うよ。だから今は飲んで明日の活力をつけなきゃね」
「深山さん……。ありがとう」
「別に、励ますつもりで言ったわけじゃあないけど、彼女の事を支るだけの器を持った男になりな」
 私はそう言って彼に強力な酒を注いでお互いに飲みあっていた。
 そして数十分後……
「うーんもうらめ。おやふみなひゃい……」
「私ももう駄目……」
 私と治子さんは仕事疲れと寝不足が重なってものの見事にダウンしていた。
「あらら。治子ちゃんに深山ちゃんともに寝ちゃったわね。まあ、こうなったら朝まで起きないわね」
「店長もいろいろ重圧があったのだろうね。それに深山さん励ましてくれて有難う」
 と、まあ、彼が決意を秘めているところで妙な目をしたつかさちゃんがいた。まあ、ものの見事に酔っ払っている状態でだ。
「んふふふ〜。ね〜え〜ん。純一く〜ん。あなた実は気になる人って治子ちゃんなんでしょう。ボクには判っているんだから〜」
「はあ〜。ばれちゃいましたか。彼女の心遣いに感動して彼女に一目会いたいと思って面接に来たけれど、それが店の店長だったとはねえ。でもまあ。治子さんと一緒に仕事が出来るなら今はそれで十分っす」
「そう。純一くんって結構純情なのね。でも、そういう男の子ってボクも好きだよ。で、治子ちゃんの為に私が一肌脱いであげよっか……」
「え、それって……どういうこ……ムグ」
 酔った勢いでつかさちゃんは彼を押し倒していた。
「据え膳食わぬは男の恥。据え膳食われぬは女の恥。ボクは何も気にしないから……教えてあげるわ。女の子の事を……」
 とまあ、どたばた劇があったみたいなのだが、治子さんは完全に眠っていたのでどうなったのか判らなかったけれど、私はその時寝ぼけ状態だった。で、翌朝妙につやつやしたつかさちゃんとげっそりした純一君をみて、夕べ何があったか確信したわけ。まあ、彼がどのような決断するかは私が干渉する事じゃあないし、干渉する気もないからね。
 それにしても、彼は誰をえらぶことになるのかしらねえ。まあ、誰を選んだとしても血の雨とは行かないけれどかなりの修羅場にはなりそうね……。まあ、彼の甲斐性に期待するけれど、いざとなったら私が仲介しないと駄目かもね。
 特に女の嫉妬ほど厄介なものは無いからね……。
(続く)

管理人のコメント
 前回までデザートフェアでしたが、何時の間にかアジアンフェアが始まっている五号店です。
 
>私はそう言って着替え始め制服の上着を脱いだ時に彼女に背中を見せた。それを見て彼女も納得したようだ。

 忘れてる方もいるかもしれませんが、直子は背中に大きな傷があります。もったいないな……
 
 
>「あら、つれないわね〜。北川君と一緒に飲むとしようかしら」

 原作では千尋は純一(主人公)狙いなのですが、ここでは北川君狙い。意外なカップリングなので成立すると面白いです。
 
 
>「あ、秋山君も来なさいよ。女だけで飲んでもいいけれど男の子が居ないとさびしいからね〜」

 治子からすれば特に他意のある言葉ではないんでしょうが……
 
 
>「ほれ。まあ飲むといいよ。明日の俺は今日よりも強いか。確かにそうね。貴方の心の中には燃え盛る炎が燃えている。その炎を消さなければきっと彼女もわかってくれると思うよ。だから今は飲んで明日の活力をつけなきゃね」

 この場合「彼女」とは誰の事なのやら……
 
 
>「うーんもうらめ。おやふみなひゃい……」
>「私ももう駄目……」
 
 この二人が先にダウンすると言うのは珍しいパターンですね……治子は本来弱いのでこれで正しいんですが、「つば夢」ではなんか酒豪っぽいので(笑)。
 
 
>「据え膳食わぬは男の恥。据え膳食われぬは女の恥。ボクは何も気にしないから……教えてあげるわ。女の子の事を……」

 つかさーっ!?
 
 
>それにしても、彼は誰をえらぶことになるのかしらねえ。

 千尋の狙いが外れたと思いきや、つかさにロックオンされる純一……修羅場確定ですな。哀れ……
 これであくまで治子狙いで行ったら死にフラグ立ちますね(笑)。
 
 と言う事で、純一の状況がやべえのにオラなんだかワクワク(殴)。


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