翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 第四話 〜休日のひと時〜


「るーるん。うーん。ピカピカに磨くわよ〜」
私は愛車のV−maxの整備をしていた。まあ、道具もないからオーバーホールなどの重整備はむりだけれどね。
「あれ、なあこおねえちゃん。何しているの」
「ん。バイクをみがいているのよ。楓ちゃん危ないから離れていて」
「ん……」
 そう言って楓ちゃんは興味深そうに見ていた。私はその視線が多少気になっていたが、すぐに気持ちを切り替えて、バイクの排気管やフロントフォーク、ホイール、エンジンなどをウェスや歯ブラシにピカールを付け艶が出るまで徹底的に磨き上げ、そのあと、ピカールを拭き取り、錆止めのオイルを薄く塗るという作業をしていた。もちろんブレーキ系には油脂類は一切付けないようすることも忘れなかった。
 そして1時間後……。
「ん。っと。これでよし。うーん。我ながら惚れ惚れするような出来栄えだね。ってまだ居たの楓ちゃん」
「うん。なあこお姉ちゃんがやっている姿が面白そうだったから」
「楓ちゃんはバイクに興味があるのかな」
「うん」
「じゃあ乗ってみるかい」
 私はそういって彼女を抱きかかえてシートに座らせてあげた。そのときの彼女の表情はかなり嬉しそうにみえたね。
「楓〜。ご飯よ〜。どこにいるの」
「あ、ママ〜」
「あら、深山さん。楓どこにいるか判りますか」
「ん。楓ちゃん。楓ちゃんならここに居ますよ。私がバイクを磨いていたときから面白そうに見ていたわね。興味を持っているみたいだったから、一寸乗せて見たけれど楓ちゃん大分このバイクが気に入った見たいね」
「そうでしたか。ご迷惑をおかけして」
「ううん。別に迷惑じゃあなかったわよ。まあ、エンジンが動いていないときで良かったよ。これが動いている時だったら大変な事になっていたわね。動いている時の排気管ってものすごく熱くなっているから触ると火傷するしね」
 私はそういいつつ彼女をバイクから丁寧に降ろしていた。
「楓。直子おねえちゃんにお礼を言いなさいね」
「うん。なあこおねえちゃん。ありがとう」
「いえ、いえ。どういたしまして」
 そんなやり取りをしつつ私は広げていた道具を片付け始めていた。まあ、頭の中では今日のお昼何を食べようか考えていたけれどね……。
「で、結局こうなるのね」
 私は部屋でカップめんを食いながらテレビを見ていた。まあ、チャンネルは国営放送のニュースと天気予報なんだけれどね。
『今日、午前9時前後。横須賀市の港湾現場でクレーン作業中に事故があり作業員一人が落ちてきた吊り荷に巻き込まれるという事故が発生しました。作業員の藤井 冬弥さん28歳が落下した鋼材にはさまれ病院に運ばれましたが、まもなく死亡しました。警察では原因を追究するべく事情聴取を行っているところです』
 とまあ、テレビからは痛ましい事故現場の映像が流れていた。私はその時特にこれといった感情も無くタダ無為に見ていただけだった。しかし、その事故にあったはずの人間が後の私の人生に大きくかかわっていく事になるとはそのときはまったく判らなかったわ。
 それからやく10数分後……
 私は食事を終えて腹ごなしに出かけようかとおもい鍵と財布と免許証と携帯をもって寮を出ていた。
「あ、直子さんお出かけですか」
「ええ。駅のほうへ行こうかとトキ子さんもお出かけですか」
「ええ、買い物に行こうと思いまして。もしよければ途中まで一緒に行きませんか」
「それは良いですね。ではそうしましょう。あれ、でも。楓ちゃんは」
「あの子は今お昼寝しているところよ」
 そんな訳で私達は駅前の商店街へと歩いていた。そして駅前で私はトキ子さんと離れて一人で駅前をうろついていた。
「うーん。この辺のはずなんだけれどなあ〜。あ、君一寸道を聞きたいんだけれどいいかな」
「ん。もしかして私」
「うん。あのね。この辺にPiaキャロットっていうファミリーレストランがあるって聞いたんだけれど良かったら教えてもらえないかな」
 私は、髪の短い女性に声を掛けられた。別に拒む理由も無かったので私は二つ返事で答えてた。
「ええ。良いわよ。なんだったら案内してあげようか。私も其処に行こうと思っていたからね」
「嬉しい。それじゃあおねがいするわ。あ、私は榎本つかさ。貴方は」
「私。私は深山直子。よろしく榎本さん」
「うん。じゃあ行こう深山ちゃん」
 そんな訳で私は彼女を店へと連れて行った。まあ、それがあんなことになるなんてねえ……。
「いらっしゃいませ。って直ちゃんじゃあない」
「あー。治子ちゃん。あいたかったよ〜」
「ああ、つかさちゃん。来てくれたのね。あ、直ちゃんも居たのね。丁度良いわ直ちゃんも着てくれないかしら。北川君、私彼女達と少しフェアについてやり取りするんで後はお願いね」
「そうですか。では」
 そういって彼はフロアの方へと消えていった。
 で、私たちは事務室へとつれていかれた。
「あの……。店長。何故私も」
「実はね。7月の末から夏のフェアを行うよていなのよ。で、そのフェア用の制服のデザインと製作の助っ人として、彼女を呼んだわけ。それに直ちゃんも洋裁はできたでしょ。勇ちゃんから聞いているんだからね」
「まあ、確かに18人分を5日間で作ったこともありましたからねえ。治子さんは……洋裁は……ムリね」
「ぐ……直ちゃん痛いところ突くわね……。で、どうかなつかさちゃん。つかさちゃんがノーといえばこの企画はお流れ。フェアそのものはやるけれど制服は今のままで行う事になるわ。まあ、私がいくつかデザインしてみたスケッチが有るけれどどうかしら」
 そう言って治子さんは鉛筆書きのスケッチを何枚かをつかささんに渡していた。で、彼女の反応は……。
「うー。治子さんずるいのだ。ボクがこの手のことに目が無い事を見越して呼ぶなんて。わかったワン。引き受けるんだワン。私はここに住んでいるから店が終わったら此処に来て欲しいんだワン」
「うーん。ありがとう。つかさちゃん」
 私はあずささんの様子と彼女の様子を見て治子さんの事情がなんとなくだけれどわかってしまった。まあ、判ったところで結論を出すのは彼女なのだから私にはどうにも出来ないしね。
「ああ、治子さん。それじゃあ私はこれで」
「ええ。直ちゃん。ありがとうね」
「いえ、私も微力ですが協力しますよ」
 そんなこんなで私は治子さんと別れてつかさと呼ばれた女の子と一緒に町のほうへと歩いていた。
「そう。治子さんとは2号店の頃からの関係だったんだ。じゃあ日野森さんと一緒なんだね」
「そうだよ。ところで、深山ちゃんは治子ちゃんに信頼されているみたいだけれどどうしてそうなったの、もしかして、本店のさやかちゃんや4号の美春ちゃんのように治子ちゃんにぞっこんだとか」
 つかさちゃんのその言いに私は一瞬引いたが、すぐにとりもどして答えた。
「ん。それは無いわ。すくなくても治子さんに対して尊敬の感情は有りますがそれ以上の感情は無いですから。でも、日野森さんといい、つかささんと言い、留美さんと言い。治子さんもてもてなのね」
「うーん。そうかもしれないのだ。でも、ボクはもう治子ちゃんのことは好きだけれど、友人関係でいいかなと思っているのだワン。とてもじゃあないけれどさやかちゃんたちにはボクじゃあ勝ち目がないのだ。それに深山ちゃんのスタイルをみているとますます自身をなくしてしまうよ」
「そ、それは……」
 私はそれを聞いて絶句していた。まあ、私のスタイルってかなりいい部類に入るからねえ。まあ、私の周りにはもっと凄い人が居るからあまり感じなかったけれどねえ……。
「あ、深山ちゃん。ありがとう。此処で良いわ。えーとこれ私の連絡先ね。それじゃあ頑張って制服をつくろうね」
「ええ。私も協力しますよ。それじゃあ私はこれで」
「うん。深山ちゃんも仕事がんばってね〜」
 そんなこんなで私は彼女と別れて駅前の商店街をあるいていた。時計をみると17時前後だった。まあ、今ならスーパーにいけば食材が安く手に入と思い、私は駅前にあるスーパーへと足を運ぼうとしていたのであった。

(続く)

あとがき
どうも、霜月天馬です。今回は休日編というわけで書いてみました。ちなみにここで流れていたニュースの人物が外伝へとつながっていく訳です。


管理人のコメント
 忙しい直子も、たまには休日を楽しみます。でもやっている事は女の子にしては色気のない事ばかりなようで……
 
 
>私は愛車のV−maxの整備をしていた。まあ、道具もないからオーバーホールなどの重整備はむりだけれどね。

 あったら自分でオーバーホールするのでしょうか。やりそうですが。
 
 
>「で、結局こうなるのね」

 ここで自分で凝った何かを作っていれば良いのですが、一人暮らしだと男女問わずこんな物かも(笑)。
 
 
>その事故にあったはずの人間が後の私の人生に大きくかかわっていく事になるとはそのときはまったく判らなかったわ。

 実際のところ、外伝が今後の話にどう関わってくるのか予想がつきません。楽しみですね。
 
 
>「嬉しい。それじゃあおねがいするわ。あ、私は榎本つかさ。貴方は」

 つかさ登場。てっきり治子を追ってきたんだと思ったんですが……
 
 
>そのフェア用の制服のデザインと製作の助っ人として、彼女を呼んだわけ。

 違いました。この世界では五号店に留美がいないので、服飾系のキャラとしては彼女が適役ではあります。かずみも接点無さそうですし。
 
 
>ボクはもう治子ちゃんのことは好きだけれど、友人関係でいいかなと思っているのだワン。

 おや、こっちの世界ではつかさは一歩引いているんですね。まぁ、あずさとかに比べるとキャラ的に弱いのは確かですが(苦笑)。
 
 
 と言ったところで、結局お店に関わる形で暮れて行く直子の休日。とりあえず、今回の話でどんな制服が採用される事になったのかが楽しみですね。


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