翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 第三話 〜グランドオープン〜


『ジリリリリリリ』
『パシ』
 私は寝床の中から鳴り響いている目覚まし時計のスイッチを押してそして文字盤を覗いていた。
「おきるか。ん〜」
 時計の針が示している時刻は0720。今から準備をすれば十分に間に合う時間だ。私はすぐさま着替えをしつつ今日の開店に向けて気合を入れた。
 それから30分後準備を終えた私は部屋の扉を開け、寮の玄関先で楓ちゃんと出会っていた。
「あ、なあこお姉ちゃんおはよう」
「あ、楓ちゃんおはよう」
「おはようございます。直子さん」
「あ、トキ子さんおはようございます」
「ええ。いよいよ。開店ですね」
「そうですね。いよいよ始まりましたね。それじゃあ行って来ますね。オープンしてから数日は目の回るような忙しさになるかと思うと気合入れて仕事しなきゃね……」
「そうですか。では、暇なときに私も楓を連れて店に行って来ますよ」
「ええ。そうですか。ではいってまいりますね〜」
 そんな会話をしつつ私は寮を出ていた。
 そして、店内にて……。
「こほん。えーと。いよいよこの店もオープンを迎えるわけですが、この店が成功するもしないも貴方達スタッフ達の働きにかかっているわ。みんなの奮闘を期待するわ。では私からはこれだけね。じゃあ充君あとよろしくね」
「む、俺も店長と同じ意見だ。お客様に対しては一期一会だ。二度は無いと思え。その覚悟で接客をしてもらおう。では各自所定の持ち場へ」
 そう言って私たちはそれぞれ指定された持ち場へと散らばっていった。なお、私は通しのシフトなので営業時間が勤務時間でもあるわけだ。なお、この通しは私以外には店長、マネージャー、御堂さんの4人である。
 あと、八重樫さんは午前、久我原さんは午後のシフトである。今日の私の持ち場はキッチン作業であった。
「さて、気合を入れて食器を洗うぞ」
「深山。初日で大変だろうが頼むぞ。それと先日は助かったよ」
「判りました。マネージャー気合を入れてやらせてもらいますよ」
「うむ。判った。頼んだぞ」
 そう言って彼はフロアの方へと消えていった。本当ならば私もフロアでウェイトレスをしたかったが、まあ店長が私がこちらの方がOKと判断した以上私はやるだけだね。
 私がそう思う暇も無く皿が次々に皿が舞い込んできていた。私は残り物をディスポーザーに捨て、洗剤の入っているシンクへ皿を入れ、スポンジで汚れを落として洗浄かごへ皿をセット。そして一定量に達したらそのカゴを洗浄機にセットし洗浄機を動かす。その間に次の洗浄機の準備とまあ、かなり忙しい作業になった。
 まあ、調理長は以前豪華客船のチーフをしていた人でリストラを食らっていたところをオーナーに拾われた経歴を持った人で、凄い段取りが良い作業をしていた。私はその作業を阻害しないように皿を所定の位置へ並べていた。
 そして、昼間のピークタイムを過ぎた頃……。
「あ、深山さん。この野菜を切っておいてくれ」
 調理長からキャベツ4カゴ分を渡されていた。
「わかりました。切り方はどんな切り方でしょうか」
「ああ、ハンバーグやトンカツ、ポークソテーの付け合せに使うから千切りで頼む。切った野菜は其処のザルに入れておいてくれ」
「わかりました」
 私はすぐさま手を洗ってアルコール消毒した後、中華包丁を手にすばやく的確にキャベツを千切りにしていった。スライサーを使えば楽だけれど、それだと味が落ちるとかいう料理長の主張らしく
 この系列店ではみな手で切っているわけだ。まあ、3号店でも、2号でも仕込みを手伝っていたからぜんぜん問題ないけれどね。それから20分後
「料理長。千切りあがりましたよ」
「なに。もうできたのか。早いな。でも、使えるかどうかみてみないとな。どれどれ……」
「……」
「あの、料理長。まずかったですか」
「いや。そんな事はない。どれもこれもすべて糸のように細くなおかつ同じ幅に切ってあるので驚いただけだ。この歳でこれだけ正確かつすばやく切れるとはな。まあ、とにかくご苦労これからも頼むよ」
「はい」
 と、まあ料理長にほめられたりもしていた。そして……
「深山。休憩に入ってくれ。メニューにあるものを食べてかまわんが申告してくれ」
「わかりました。では休憩に入ります」
「おや、深山君休憩かい」
「そうですよ。あの、其処の食材貰ってかまいませんか。賄いを作りたいので」
「ああ、それはかまわんぞ。何を作るつもりだ」
「ん。其処にドビソースがあるからそれでハヤシライスを食べようと思いまして」
「ハヤシライスか。メニューには載っていないメニューだな。ついでにこのひき肉でワシがメンチカツを作ってやるよ」
「あ、助かります」
 そんなこんなで今日のメニューはハヤシライスとメンチカツの2品と相成った。
 そして、食事をかねた休憩時間が終わり、再び私は厨房で食器と格闘を再開した。まあ、休憩後の仕事の量は昼間以上に忙しかったことを此処に明記しておく。
 そして、時間は閉店時間を迎えていた。食器がすべてこなくなった事を確認し、シンクの水を抜いてそしてシンクに着いている油汚れなどをスポンジで擦り落とし、そしてその周りの水拭き、ごみ出し、洗浄機の
 水抜きと電源のカットと言った厨房関連の閉店作業をすべて終えて事務所へと向った。
「深山か。今日はご苦労さん。明日も頼んだぞ」
「あ、マネージャー。お疲れ様です。ゴミだしと洗い場のクロージングは終えてあります。それでは私はこれで失礼します。店長とマネージャーはまだ帰らないのですか」
「ああ。今日の売り上げの集計と本部への報告が残っているのでな」
「そうですか。ではこれで失礼します」
「明日も頼むぞ」
「はい。ではこれで」
 そんな訳で私が更衣室で着替えていた。そして着替えを終えた私が引きあげるべく更衣室を出てみると……。
「あら、直ちゃん」
「あ、治子さん。お疲れさんです」
「ええ。お疲れ様。もう、仕事終わり」
「ええ。終わりましたよ。治子さんはもう終わりですか……」
「うーん。まだ、もう少しかかるわ。じゃあ、直ちゃんまた明日ね」
「ええ。それではこれで……」
 そんなこんなで5号店初日を無事に終えた。私はパイロットへの道は諦めてはいない。それに向って努力あるのみだね。でも、治子さんへの義理もあるから私は私なりに店に貢献できればいいと思いつつ、寮へと歩いていた。

(続く)

あとがき
 3話これで完成です。さて、今回の料理長のネタは料理漫画の元祖ともいえる「包丁人味平」ネタを使ってみました。
 
 
管理人のコメント
 今回は開店日の話。普通に「PiaGO」の話になっているので、そろそろ「つば夢」らしい展開も見たいところです。
 
>「そうですね。いよいよ始まりましたね。それじゃあ行って来ますね。オープンしてから数日は目の回るような忙しさになるかと思うと気合入れて仕事しなきゃね……」
>「そうですか。では、暇なときに私も楓を連れて店に行って来ますよ」

 とは言っても、トキ子は仕事を手伝ってくれるわけではないので、普通にただのお客さんです(笑)。
 
 
>本当ならば私もフロアでウェイトレスをしたかったが、まあ店長が私がこちらの方がOKと判断した以上私はやるだけだね

 裏方にベテランを入れるというのは、実は正しい判断です。ゲーム的には千尋や美森はディッシャーが苦手なキャラですし(笑)。
 
 
>調理長は以前豪華客船のチーフをしていた人でリストラを食らっていたところをオーナーに拾われた経歴を持った人

 霜月さんも言っていますが、「包丁人味平」ネタで、主人公味平の父親が出演。
 原作はなかなか面白いマンガです。明らかに料理人として間違った超人的調理法の連発で、グルメ漫画と言うのは原点からしてこうだったのかと思います(笑)。
 
 
>ハヤシライスか。メニューには載っていないメニューだな。

 ファミレスでハヤシライス無しと言うのは結構珍しいような……そうでもないか?
 
 といったところで、無事開店日も終了。父親としては、治子がちゃんと店長してるのが嬉しいところです。


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