翼持つものたちの夢

霜月天馬

外伝


「大変だ。藤井が巻き込まれた・・・」
 某所の港湾現場で落下してきた鋼材から仲間を庇って、自分がその巻き添えを食って瀕死の重傷を負ったのであった。
『これが報いか・・・。まあ、自分の心の弱さ故に恋人を傷つけた愚か者が、最後に人を助ける事が出来ただけでも良しとするか・・・』
 同僚達の声を聞いたのを最後に俺の意識は遠のいていった・・・
 彼の名前は藤井 冬弥。高校時代から付き合っていた森川 由綺との関係をむすんでいた
 が、彼女が芸能界入りをしてからすれ違う日々が続き、そして大学で知り合った澤倉 美咲に心引かれ、付き合うようになり、そして彼女に憧れていた親友との断絶。
 全てに絶望した彼は傷が癒えると同時に二人の前から逃げるように姿を消し、自らを鍛えなおそうと、数年間傭兵として従軍した後に除隊し、二人とは違った場所に住み、そして、その土地でこの事故にあったわけである。
 
来栖川電工中央研究所 第七研究開発室HM開発課 第13実験室


「ん・・・ここは何処だ・・・。右手は動く、左手も動くな。足は・・・問題ない動くな。それにしてはどうも胸の辺りが重く感じるのは気のせいかな・・・」
 俺は寝台に寝かせられていた身体の上半身を起こして胸元を見て絶句していた・・・。
 そこには本来ならば無いはずの膨らみがあり、意を決して腰布を取ってみると本来あるべきものが無かった・・・。

「気がついたようだな。君は運が良い。本来ならば霊安室行きになっていたところだったが、担ぎ込まれた所が来栖川系列の病院だったから助かった」
「あんたは誰だ。この身体になった原因を詳しく説明してもらおうか。事の次第によっては殺る」
 俺は咄嗟に置いてあった医療用のメスを取り、男の喉元に刃を付きつけていた。
「わ、わかった。落ち着いてくれ。私の名前は長瀬源五郎だ。君の身体を修復した人間だ」
 俺は長瀬源五郎となのるオッサンからこの身体になった経緯を聞いた。専門外のことが多く内容はあまり理解は出来なかったが、どうやら身体障害者の治療目的としての義体の研究用のサンプルを探していた所、俺にめぐり合ったと言う事のようだ。
 俺は、その辺は理解したが、何故に女性の身体になってしまった理由を言っていなかったので俺は更に問い詰めることにした。

「話はわかった。助けてくれたことに関しては感謝する。何故女性のボディなのか知りたい」
「それは、義体のベースとしてセリオタイプのボディを採用してるからだ。それから君には残念な事だが既に藤井 冬弥と言う人物は死んだことになっている」
 俺はそれを聞いて愕然としたが、手に持ったメスは辛うじて落さなかった。
「なんだと・・・。つまり、もう人としては生きられない訳か・・・。」
「それは表向きのことだ。君の経歴を調べさせてもらったが、なかなかの経歴の持ち主のようだな。もし、我々の条件を飲んでくれるならば戸籍やその他のことを全てこっちで用意する」
「条件もなにも、既にこっちの方が完全に負けだろうが、とにかくその条件とはなにか言ってくれ」
 まさに、イカサマポーカーに付き合わされたプレイヤーのように、既にテーブルについた時点で自分の負けが決定していたようなものであった。
 そして彼から、条件を聞いた俺は意外な条件であったので驚いていた。
「それだけで良いのか。その条件ならばかまわないが、契約はしっかりと書面で用意してほしい。それが俺の条件だな」
「そうか。協力してくれるか、それでは私達もできる限り協力しよう。セリオ君来たまえ」
「およびでしょうか長瀬主任。ところで、主任の隣にいる女性は・・・」
「ああ、セリオ。この娘はHMX−15AG・・・いや。既に開発コードで言うのはなんだな。そうだな、君の名は藤井 冬美さんだ」
「長瀬博士。意外といい名前をつけてくれるじゃあないの。始めまして、藤井冬美です。ところで貴方の名前は」
「私はHMX−13セリオです。これからしばらくの間、貴方の身の回りの教育を担当させていただきます」
「そうですか。ありがとうございます。セリオ教官」
 俺はかつての癖で直立不動でセリオに礼を上げていた。
「あ、あの・・・。教官は要らないですよ」
「そうですか。ではこれからよろしくお願いします。セリオさん」
「は、は、は。こりゃ我々はとんでもない掘り出し物を拾ったのかもしれないな・・・」
 長瀬主任がそのときつぶやいた一言は実に的を得ていた。

 それから数ヶ月後・・・
『バキ、ボカ、ドコ』
「あんた達、本当に実戦経験をつんだプロのSP。丸腰の私に手も無くやられるとは、それも一対五の変則的な状況でだよ。これじゃあ訓練にならないわね」
「冬美さん。訓練相手が弱いのじゃあなくて、あなたが強すぎるだけですよ。では私があなたの相手をいたしましょうか。それに、あなたのことを聞いて綾香お嬢様が手合わせしたいとのことで」
 私はそれを聞いて少し考えるしぐさをして、一言言った。
「セリオが相手をしてくれるのはうれしいが、お嬢様が手合わせしたいという案は却下だね。私と手合わせしたら、下手すれば死ぬことになるよ。格闘技のチャンプといっても一定のルールでやる試合と命をやり取りをする格闘とは本質的に違うから・・・」
「随分と、あたしのことを過小評価してくれるじゃあないの」
「あ、綾香お嬢様。どうしてここに」
「ん。セリオの後を追ってきたらこの場所にたどり着いただけよ。ところで、さっき言っていたのは誰かしら。貴方ね名前は」
 私はその声にとっさに返事をしていた。
「私は藤井冬美。私が名のったのだから、あなたも名乗るのが筋じゃあないかしら」
「確かにそうね。あたしは来栖川綾香。さっきセリオが言っていた。お嬢様といったところかしら」
「で、そのお嬢様が私と手合わせしたい訳ね。半端な覚悟でやるつもりならば辞めたほうがいい。死ぬよ。それを覚悟の上で提案かしらね綾香お嬢様」
 私は一気にまくし立てるように言った。すると綾香は少しの迷いも見せず、すぐさま答えていた。
「それは覚悟の上よ。どういう結果になろうともあたしは恨みはしないわよ」
「そうですか。ではセリオさん応急手当の方はお願いするね」
「判りました。では」
 私は二人の準備が出来上がるころを見計らって戦闘行動に移った。そして結果は・・・
「参ったわ。やっぱり貴方の言ったとおりだったわね。あたしもその技を身に着けてみせる。冬美さん貴方のことをこれから師匠と呼ばせてもらいます」

 それを聞いた私は唖然としたが、すぐさま正気を取り戻て返事をしていた。
「私も、まだまだ修行中の身。教えることは出来ないけれど、技を盗むのは止め様が無いしね。好きにすればいい。私もあなたのことが気に入った」
「綾香お嬢様。一応体をみせてもらえますか、致命的な一撃は受けてはいないとは言え、かなりの衝撃を全身に受けているはずですから」
 私と綾香さんと会話をしていると横からセリオが心配そうに私たちの間に割って入った。それをみた私も頷いた。
「確かに医療チェックは受けておいたほうが良いね。一応、私も致命的な部分への打撃は避けたつもりだけど、それでもしっかりとチェックしておいたほうが良いね。命には別状は無いかもしれないけれど後々に障害が残ったら何かと都合が悪いしね」
「そう、それじゃあセリオいくわよ。ああ、それと冬美さん。あたしは貴方のことが気に入ったわきっと貴方に弟子入りしてみせるわよ」

 そういうや否や二人は私の前から去っていった。そして、それから数日後・・・。
「え、来栖川綾香の専属ガードですか」
「そうだ。不満かね」
「はい。いいえ。別に不満ではないですが私が見る限り、護衛の必要はないように思えますが」
「確かにそうなんだが、綾香お嬢様じきじきに君を指名したのだ」
 それを聞いた私は数日前のやり取りを思い出して、苦笑していた。

「なるほどね。あのときの笑みはそういうことだったの。良いでしょ私の体が機能停止するまで、私は綾香お嬢様のことを護衛してみせるよ」
「そうかね。実は彼女は空軍の訓練所へ入隊が決定していて、私たちが入るわけにはいかなかったが君なら、問題は無い。君の入隊やその他の手続きは我々がしておく、君はこのデータを頭に叩き込んでおけ」
 そういって私は一枚のデータディスクを渡された。そして部屋を出た私はそこでセリオに出会っていた。
「冬美さん。綾香お嬢様のことをよろしくお願いしますね」
 セリオが私に向かってお辞儀をしていた。それを見た私も畏まった格好で返事をした。
「ええ。セリオさん貴方から教わった振舞い方などを決して忘れませんよ。まあ、手のかかる友人と言うか妹が出来たような感じだね。ところでセリオさんは番号から言えば私の姉貴に当たるような人だけど、出来の良い妹を持って嬉しいと思う?それとも妬ましい」
「そうね。半分、半分といったところでしょうか。本当ならば私も行きたいところですが、しかし私は・・・」
 私が出した質問に対してセリオはいつもと変わらない表情で答えていた。
 そして、答えを聞いた私は満足していた。
「そう、それが聞けただけでも私は満足だよ。私がこの身をかけてお嬢様のことは守るよ」
「冬美さん、私の分もしっかりお願いしますね。それに貴方は一人じゃあないから」
 セリオのつぶやきは、そのときの私には今ひとつ判らなかった。

 そして春

「ほら、ほら。冬美早く、早く」
「はい。はい。綾香お嬢様あまり気合を入れるとへばりますよ。先はものすごく長いですからね」
「そうね。ありがとうあたしも少し浮かれていたみたいね。寮のほうも同室みたいだし、あたしは武者修行をして、お爺様たちを見返してやるんだから。現場を知らないで、経営に携わることなんて無理だからね・・・」
「お爺様やお父様を見返してやりましょう。私も出来る限りのアドバイスはするからね・・・」
 私は訓練施設の入場門を見上げてそして思っていた。
『綾香お嬢様。私は貴方のことをきっと守ってみせる。かつて、私がヘタレ故に二人の女性を傷つけた贖罪にならないのかも知れないけれど、それでも私にはそれしかないから・・・』
 そして、私は頭を振って新たに進むべき道へとむかって歩き出した。


(了)



あとがき

 この作品は我輩が書いている作品である「翼持つものたちの夢」の第二部で登場する予定のキャラのエピソードを書いてみました。さたびーさん100万ヒットおめでとうございます・・・。

おまけ

藤井 冬美 のプロフィール  (byホワイトアルバム)
T172、B85W60H86。
 
HM−13型と仕様はほぼ同じであるが、見分けを不可能にするためセンサーカバーを装備しておらずその為、サテライトシステムは採用されていない。その代わりHMX−12型に搭載されていた
システムを採用している。生存性向上を目的としてパワーユニットの2系列化や冷却、油圧系も3系列搭載している。
銃戦闘、白兵、格闘戦闘などは傭兵時代に体が覚えたノウハウがそのまま受け継がれたようだ。
そのほかにもセリオから教わった房中術や篭絡などの女性スパイとしての術もマスターしている。
もっとも、本人はその辺についてはかなり抵抗があるようだが・・・。

元のへタレな性格はすっかり消滅し、与えられた任務の遂行を最優先する非情な性格をもつ。
と、思いきや自ら認めた人間に関してはとことん忠義を尽くす熱血漢な壱面を持つ。


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