翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二十八話〜旅立ち〜


「直子……。とうとうこの場所ともお別れね」
「そうだね。まあ、既に荷造りも済ませたし。特に問題は無いけれどね。そういえば勇希達はトラックで北陸まで行くんだよね」
「そうよ。直子は単車か……悪いわねあたし達だけ車で」
「別に良いわよ。携行品も少ないからね。だって着替えと身の回りの洗面用具程度だからね。ほかに必要なものは向こうで買い足していくよ」
「そう。なんだか湿っぽい話になっちゃったわね。そうよ新たな旅立ちだから明るく行かないとね」
「そうそう。お、来たみたいね」
 私はディーゼルエンジンの音を聞いて外に出ていた。そこには4トントラックが来ていた。で、私はトラックのキャビンに駆け寄っていた。
「おはようございます。って。疾風だけ……」
「おう。親父は後から来るって。何でも昨日おふくろと大立ち回りしたみたいでな」
「そうか。で、結果は……」
「直子聞くな……」
「そうね。疾風。この家の解体が終わるまで見ていていいかな」
「それはかまわんぜ。まあ解体業者が来る前に荷物の積み込みをしないとな。準備は出来ているか」
「もちろんです」
 私はそう言ってトラックのキャビンから降りて母屋の玄関を開けていた。で、トラックから疾風が降りていた。
「いよ。勇希おはよう」
「おはよう疾風。荷物はこれだけね……」
「おっしゃあ。やるか」
 私達は荷造りをしていた荷物をトラックの方に積み込んでいた。そして、3時間後……。
「ようやく、積み込みが終わったわね。しっかし、家具がなくなると本当に此処って広かったのね」
「そうだね。勇希、荷物の固定は確認した」
「もちろん、ベニア板とスチロールでの養生もしたし、毛布を使って痛まないようにもしてあるわ。それに必要な場所にラッシングベルトで固定もしてあるわ。なんなら確認する」
「ううん。勇希がそういうなら大丈夫なんでしょうね。それにしても、疾風と勇希でトラックを運転大丈夫」
「ん。まあ、大丈夫でしょ。あたしも疾風も普通免許の練習で目一杯あのトラック使っていたしね。直子もそうでしょ」
「そういえばそうね。まあ、牽引の免許のときはオヤッサンが使っている大型のトレーラーで訓練したけどね」
「おかげで、牽引はともかく、普通車の実地試験で感覚を掴むのにに苦労したわ」
「そうね。あ、そろそろ解体業者がくる頃ね……」
「そうね。悲しいけれど私は見届けるわ」
「そう。それじゃあ私も見届けなきゃね」
 そして10分ほど経った頃。
「いよう。直子引越し終わったのか」
「あ、勇蔵。貴方も準備終わったのね」
「まあな」
 勇蔵が私を迎えに来ていた。
「じつはね。引越しの準備は終わったんだけど。この家がなくなるまで見届けたいのだけど駄目かしら」
 私は勇蔵に私の胸のうちを打ち明けていた。で、勇蔵は笑って答えていた。
「ああ。別にかまわんさ。直子がそうしたいなら俺も付き合うぞ」
「勇蔵。ありがと」
 とまあ、私たちは外に出て解体用の建機が来るのを待っていた。で、その時オヤッサンが私達の所に駆けつけていた。
 で、突然私達に対して話をし始めていた。
「みんな。わしからの卒業記念に受け取ってもらえるか」
 そう言ってオヤッサンは4つの包みを取り出していた。
「みんなこれから旅立つんだろ。俺はその日のために守り刀を用意した。お前達にふさわしいものを渡す」
「先ず。直子」
「はい」
「お前にはこれをやろう。見てくれはサバイバルナイフだが、普通のナイフと違ってタングステンカーバイト鋼をベースにセラミック加工してある。刀身も並みのナイフの3倍はある。ここぞというときの破壊力を求めたらこうなった。おそらくこいつを苦もなく使いこなせる事が出来るのは直子と蝉代くらいなものだろうな」
 そう言ってオヤッサンはナイフを渡していた。
「で、勇希にはこれだ」
「有難うございます」
「疾風。お前はこれだ」
「ありがとう。恩にきるぜ親父」
「あと、立川と言ったな。君は医師を目指すといったな。君にはこれを渡そう」
 そう言ってオヤッサンは彼にメスを8本渡していた。
 で、勇蔵は感動していた。
「あ、有難うございます。このメスにふさわしい医師になる事を此処に誓う」
「それはいいさ。直子のこと頼んだぞ……」
「判りました。この立川勇蔵。一命に変えても彼女を守ります……」
 とまあ、かなり凄い雰囲気だった。ちなみに勇希と疾風に渡したものはいわゆる短刀だった。まあ、刀身は完全なセラミック製だった。疾風の方は若干刃の厚みがある程度で中身は勇希と変わらないものだ。
 そんな、こんなでオヤッサンからの餞別を貰った私達はオヤッサンにお礼を言っていた。
 そして、解体業者が到着し、すぐにブルでなどで家の解体を始めていた。そして、2時間もしないうちに私達の家は綺麗な更地になっていた。
「勇希。大丈夫か」
「ええ。私は大丈夫。これで、あたしの帰るところは疾風の所しか無くなっちゃったわね……」
「親父。もう行くよ。親父は後で来るのか」
「ああ。後からそっちに向うよ。疾風、事故るんじゃあないぞ」
「そうだな。親父」
「あ、よろしくお願いします。義父様……」
「あ、勇希よ。まだそれは早い気がするが、まあいいか。そうと決まったら乗った乗った」
 そんな訳で勇希たちはあっという間に私から去っていった。
 で、残された私と勇蔵は……。
「直子……」
「ん。私は大丈夫よ。さて、それじゃあ行こうか勇蔵」
「そうだな。俺は上野の方だから東京までは一緒だな」
「実はね。5号店が出来るまで2号店で修行が決まっているから勇蔵と殆ど一緒ね」
 私はウィンクして、勇蔵に言っていた。
 それを聞いた。勇蔵は大いに喜んでいた。
「そうか。直子。エスコート頼む。俺は直子についていくぜ」
「そう。じゃあ本気出して飛ばすわよ」
「判った。俺も直子に喰らいついてやる。カタナが伊達じゃあないことを証明してやる」
 私はそう言ってバイク用のヘルメットをかぶって手袋やプロテクターを着けて私のV−Maxの心臓に火を入れていた。
 で、ふと見ると、勇蔵も同じようにカタナの心臓に火を入れたのを確認した私は、すこし暖機運転を行っていた。
 その間に勇蔵とルートの打ち合わせなどをしたのであった。
「そろそろ。エンジンも暖まったわね。それじゃあ、新たな未来に向けて出発しますか」
「そうだな。行くか直子」
「そうね」
 私と勇蔵はそう言ってバイクに乗り込み、ヘルメットのバイザーを下ろしてクラッチレバーを握りギアを一速に入れてバイクを発進させていた。
 その道の先に無限の可能性を信じて。そう、夢に向って努力を惜しまなければ時間がかかってもきっと夢は叶うんだからね。
 私はそういう思いを胸に秘めてバイクを走らせていた。

(第一部 完結)

あとがき

どうも、霜月天馬です。ついに『翼持つものたちの夢』第一部完結です。それにしても正直これだけの長編になるとは
思いもよらなかったっす。文字数を数えてみたらなんとB5換算で209ページに及んでいましたね。その量は
ちょっとしたライトノベル並みの文章量なんですよね。本当に我ながら凄い書いたよ。それでは皆さんここまで読んでくれて有難うございます。
えーと。つば夢自体はまだ続きますのでまた何時の日か会いましょう。


管理人のコメント

 二十八話に及んだ「翼持つものたちの夢」もここで第一部完結です。投稿作品では最長の連載となっているだけに、管理人も感慨深い物があります。
 いよいよ旅立ちの日を迎えた直子たち。その胸中に去来する物は……?
 

>「そう。なんだか湿っぽい話になっちゃったわね。そうよ新たな旅立ちだから明るく行かないとね」

 個人的には、別れの時は涙があっても良いかなとは思いますが。
 
 
>「そういえばそうね。まあ、牽引の免許のときはオヤッサンが使っている大型のトレーラーで訓練したけどね」
>「おかげで、牽引はともかく、普通車の実地試験で感覚を掴むのにに苦労したわ」

 つくづく間違ったスキルマニアだなぁ……この娘達は。
 
 
>「みんなこれから旅立つんだろ。俺はその日のために守り刀を用意した。お前達にふさわしいものを渡す」

 まぁ、守り刀を渡すのは良いんですが、直子に手渡した通常の三倍のナイフと言うのは一体……長さなら既に刀の域ですし、厚みだったら「花の○次」に出てくる兜割りそのままです。
 
 
>そして、解体業者が到着し、すぐにブルでなどで家の解体を始めていた。そして、2時間もしないうちに私達の家は綺麗な更地になっていた。

 これで、直子たちに帰る場所はなくなったわけです。これから彼女達は自分の居場所を自分達で作らなければなりません。
 
 
>その道の先に無限の可能性を信じて。そう、夢に向って努力を惜しまなければ時間がかかってもきっと夢は叶うんだからね。

 これがこの物語全体を貫くテーマと言えるかもしれません。
 
 
 と言う事で、直子たちは卒業し、新たな道に向かって歩き出す事になりました。その物語が語られるのも、もう間もなくの事だったりします。少し大人になった直子たちが登場する第二部にもご期待ください。



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