翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二十六話〜卒業 前編〜


「いよいよ。卒業だね。それにしてもこうしてバカやるものもうすぐ終わりか……」
「そうね。でも卒業すればはあ〜疾風〜」
「あー。お暑いことで。でも、盛んなのはいいんだけれど避妊はしっかりしなさいよ。この歳でおばさんなんていやだからね」
「判っているわよ。そんな事いうなら直子もね」
 私たちは自宅の居間で荷物の整理をしていた。そう、卒業式まであと数日に控えた状況である。私もバイト先を辞め、移動のための荷物を纏めているところである。
「勇希。生活用品はいるでしょ」
「うん。くれるの。でも、良いの直子もいるでしょうに」
「まあ、私の場合はどうにでもなるから良いわよ。それよりも疾風と一緒なんでしょ。だったら使い慣れた道具の方が良いわよ」
「そうね。それじゃあ遠慮なく貰うわ」
「そうしてくれるとありがたいわ」
 まあ、私たち二人暮らしだからそれほど荷物もおおくなくてよかったよ。まあ、父や小父夫婦の遺品といえるような物は殆ど無かったしね。でも、それでも思い出の品々は多くあるんだけれど、私たちは泣く泣くそれらを処分していた。
 まあ、アルバムは勇希が持つ事にしたけれどね。で、それもおわり……身の回りの品物の8割が片付いた頃……。
「ふう。ようやくおわったね。直子ずいぶん荷物がすくないわね。装備は十分揃っているの」
「心配しなくても大丈夫だよ。まあ、徹底的に折りたたんだり、圧縮したりして詰め込んだからねえ。だから少ないように見えて、じつはかなりあるわけ」
「ふーん。あ、そうそう。治子さんによろしく言っといてね」
「判っているわよ勇希」
 そんなこんなで私達はのんびりとすごしていた。そして……。
『ジリジリジリリリリ』
「誰だろう。私が行くよ」
「お願いね。直子」
 そんな訳で私は母屋の玄関へ向っていた。
「はいはい。どちら様です」
「俺だ。疾風だ」
「あ、疾風か今、開けるわ」
 私はドアの鍵を開けて扉を開けていた。
「あ、疾風いらっしゃい。って勇蔵もどうしたの」
「よう。直子元気か」
「私は元気だよ。えーとそうだ。此処での立ち話もなんだから上がって」
「じゃまするぞ」
「じゃまします〜」
 とまあ、2人を家に上げて居間へ案内していた。まあ、電球以外は殆どすべて取っ払った状態だったけど2人は特に驚いた様子もなく床に座っていた。
「ずいぶんと片付いたな。家具がないと本当に殺風景なんだな」
「まあね。で、あたし達に何か用」
 勇希の質問に疾風はおどけていた。
「おいおい。そりゃないぜ。まあ、そのなんだ手伝ってやろうと思ったが遅かったみたいだったな」
「まあ、あたしも直子も並みの男よりも筋力あるからね。まあ疾風や勇蔵には劣るけれど……」
 勇希の一言に勇蔵は当たり前のように言った。
「そりゃそうだ。もっとも、俺は直子にやられたが……」
「でも、あれは不意打ちと梃子の原理を利用した関節技があってのこと。力押しだったら私が負けていたよ」
「そうか……」
「そうだよ」
 私達は紙コップに入ったコーヒーを片手に会談をしていた。で、それも長く続かなかった。
『ジリリリリ』
「あれ、まただ。勇希ちょっと行って来る」
「うん」
 呼び鈴に私は玄関に行った。
「はいはい。どちらさん」
「あ、深山さん。藤原です」
「ああ。一寸待って」
 私はそう言って扉を開けて彼女を招き入れていた。
「雅かどうしたの」
「うん。深山さん……えーと直子の方よね」
「そうだけど。ああ、勇希達がいるけれどそれでも良いなら上がって」
「え、いいの」
「私は良いわよ。嫌なら別のところに行くけど」
「ううん。別にいいわよ」
「そう。それじゃあ上がって」
「おじゃまします……」
 そんな訳で私は雅を勇希たちがいる居間へ案内していた。
「おじゃまします……って。あなた……」
「あー。もしかして後夜祭で直子と一緒にいた薙刀部の……。藤原だったな」
「まーまー。此処で喧嘩しないで。二人とも落ち着いて」
 私は二人を止めていた。私は一寸ミスったかなと思いながら。雅に話を振っていた。
「ところで、雅。珍しいね貴方が此処に来るなんて」
「ええ。実は一寸相談に乗って欲しいの」
「相談?」
「ええ」
「判ったわ。話は聞いてあげる。もしかして二人だけで相談したいのかしら、それとも……」
「ううん。そんな気遣いはべつにいいわ。勇希にも聞きたいから」
「判った。じゃあ話してくれる」
「ええ」
 私達は雅が語る言葉に耳を傾けていた。そう、いろいろなことをだ。で、話し終わったとき私は悩んだが、雅の意思を知りたくて質問していた。
「うーん。これは難しい問題ね。雅はどうしたい」
「え、私」
「そう。雅はこのまま祖母の言いなりになりたいのか、それともすべてを捨てる覚悟で好きな人も元に行くかだね」
「わ、私は……。あの人のことが好き。うん。とても好き。だから……。それに直子には教えられた」
「え、私が。雅に何か教えたっけ」
「ええ。夢を掴む為には努力を惜しまない姿勢をね」
「そう」
 私と雅が相談している所で、勇希も加わってきた。
「確かに、好きあっているなら、駆け落ちも悪くは無いかもね」
「ほんとうなら鷺沢に会えれば良いがそれは無理か……となると、アイツのことだ卒業式に告白するんだろうな……」
 疾風の言葉に勇蔵もうなずいていた。
「確かに。そうなるだろうな。むう、おもしろい。最後に堂々と教師にお礼参りができるとなると腕が鳴るぜ」
「勇蔵。アンタがやるなら私も協力するわ。もっとも、勇蔵がやらなくても雅には協力していたでしょうけれどね」
 私達は不穏な事を言いながら楽しく会話をしていた。
「直子、勇希、それに白菊さんに立川さんありがとう……」
「なーに。気にしないで良いわ。どうせ、私たちは教師のブラックリストに載っているんだから今更傷の一つくらい増えてもどうってこと無いわ」
「まったくだ。直子。間違っても殺すなよ。やるなら半殺しにしておけ」
「それも、そうね」
 とまあ、かなり物騒なことを言い合っていた。で、それが終わるころ、壁にかかっていた時計をみて雅は大声を上げていた。
「いっけなーい。そろそろ行かなきゃ。みんなごめん」
 そう言って雅は脱兎のごとく去っていった。で、残った私達は呆然としていた。
「雅。あの子の恋が成就するといいね」
「むう、確かにな。それにしても良いのか直子」
「うん。私はもう覚悟を決めたわ。勇蔵は」
「俺もだ」
 私達は卒業式で雅たちの掩護をひそかに決めていた。まあ、高校時代最後だ。本当ならそのまま去りたかったけれどねえ。
 そんな事を思いながら私達は卒業式までの日々を過ごしていた。

(続く)


管理人のコメント


 いよいよ間近に迫った直子たちの卒業の日。しかし、流石にこのメンツだけあって、平穏無事な卒業にはならないようです。
 
>「あー。お暑いことで。でも、盛んなのはいいんだけれど避妊はしっかりしなさいよ。この歳でおばさんなんていやだからね」

 まぁ、十代でそれは確かに嫌ですね(笑)。
 
 
>「あ、疾風いらっしゃい。って勇蔵もどうしたの」

 なんとなく、この二人がいっしょに行動しているのが意外な感じです。
 
 
>「おいおい。そりゃないぜ。まあ、そのなんだ手伝ってやろうと思ったが遅かったみたいだったな」

 そういえば、普通真っ先に男に手伝いを頼むものでは……まぁ、直子も元が元とは言え、一応は女の子なので、男に見られたくない物もあるかもしれませんが。
 
 
>「おじゃまします……って。あなた……」
>「あー。もしかして後夜祭で直子と一緒にいた薙刀部の……。藤原だったな」
>「まーまー。此処で喧嘩しないで。二人とも落ち着いて」


 そういえば、この二人も敵対していた事があったのでした(第十四話参照)。
 
 
>「そう。雅はこのまま祖母の言いなりになりたいのか、それともすべてを捨てる覚悟で好きな人も元に行くかだね」

 元ネタの一つで雅の出演作品、「メモリーズオフ」を参照……なるほど、駆け落ちキャラですか。
 高校生だと言うのに行動的なキャラばかりですね、この世界(笑)。
 
 
>「なーに。気にしないで良いわ。どうせ、私たちは教師のブラックリストに載っているんだから今更傷の一つくらい増えてもどうってこと無いわ」

 と言う事で、最後にまたやんちゃする事になりそうな一行。果たして卒業式はどうなってしまうんでしょうか?



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