翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二十五話〜スイーツ狂想曲 後編〜


「勇希。いよいよ。今日だね」
「そうね。どんな評価が下るのかわからないけれどやるだけだね」
「そうだね」
 2月14日放課後。私たちは明日から卒業式までの自由登校を前に好きな人に例の品を渡そうと行動を移した。
 教室の周りは受験組みで進路が決まっていない、またはまだ試験前の人間は受験に向けてピリピリした雰囲気が漂っていた。
 私はすでに進路を決めていたので、バイトの日以外は特にすることも無いため学生時代の最後を味わうべく登校するつもりだ。勇希達も北陸にある航空大学校の入学試験に合格通知が届いていたので既に進路は決まっていた。
 勇蔵も試験が終わって結果待ちと聞いた。そんな訳で私たちと周りの雰囲気とはかけ離れたというか浮いていた。
「それじゃあ。私行くよ」
「ああ。直子しっかりやりなさいよ〜」
「ああ、疾風。あんたに話が……」

直子、勇蔵の場合
「確かいつもなら……っと。いたいた。おーい勇蔵」
「おう。直子か珍しいないつもなら一直線に飛んで帰っていく奴が此処に来るなんて」
「まあね。だって今日は女の子にとっては気合の入る日なんだから……」
「む、そうだったな。すまん。で、直子が気合を入れてきたと言う事は俺に渡すつもりなんだな」
「そういうこと。ってここじゃあまずいわね。屋上に行かない」
「この寒空の中をか」
「だからだよ」
「む、そういうことならば……」
 そんな訳で私は大振のかばんを持ったまま勇蔵と一緒に屋上まで上っていった。
 そして、カバンから大振の箱を取り出していた。
「勇蔵。これ食ってくれるか」
「わかった。中身を見ても良いか」
「もちろんだよ」
「どれどれ……。なあ、直子これは一体どういうケーキだ」
「これ。シフォンケーキにココアを混ぜて作った。シフォンケーキ自体バターいらずのうえに手軽に作れるしね……」
「そうか。もしかしてそれ一つ丸ごと食って良いのか」
「もちろん。はい。これ」
 私はそう言ってケーキを切り分けながら勇蔵にフォークを渡していた。
「おうよ。それじゃあ戴くぜ」
 モグモグ……
「どう。勇蔵……」
「う……」
「大丈夫か」
 私はとっさに魔法瓶からお茶を注いで彼に渡そうとしていたが、彼のリアクションは別だった。
「うまいぜ。下手なケーキは腹に響くと言うか鉛を食うような感じだがこいつは別だ。まるで泡を食うというか、軽いとても軽いから幾らでもいけるぜ。ただ、もう少しココアの風味が強くても良いんじゃあないか」
「そう言ってくれるとありがたいわね。ねえ。勇蔵私にも一口いいかな……」
「そうだな。そういうことなら。あーん」
「あーん。もぐもぐ。やっぱりおいしい。確かにココアの風味が弱いね」
「直子……。おまえ。俺を実験台に使ったな」
「ちがう。それは断じてない。これは勇希達と作ったのよ。今頃勇希達もうまくやっている頃だろうね」
 そんなこんなで私たちはおいしくケーキを食った。そして食後私は魔法瓶からお茶を注いで彼に渡していた。
「ほい。勇蔵熱いから注意して」
「おう。すまんな直子。んぐ……ふう。うまかったぜ。有難うな直子」
「そう言ってくれると私も作った甲斐があったわ」
「なあ、直子。一寸聞きたいが昨日。郁美の奴来たか」
「来たよ。なぜ」
「ああ、いつもならアイツの作業でこの時期になるといつも台所が酷い事になっているんだが、今年はなぜか綺麗なままだったからな。おそらく直子のところにでも行ったんじゃあないかとな。アイツの行動範囲って狭いからな」
「まあ、郁美ちゃんと桜花の二人にチョコの作り方を教えてあげたよ」
「そうか。そいつは助かったぜ。いつも失敗作の処分と片づけで大変だったからな。今年はまともなチョコが食えるか。いてててて……」
私は勇蔵の背中を思いっきり抓っていた。
「ちょっと〜。勇蔵。あんたいい度胸しているわね。私の前で他の女性に対して惚気るなんて……」
「や、やめい。妹の心配をしているだけだ。それに本当に惚れているのは直子お前だけだぞ……」
「じゃあ。証拠を見せてよ……」
「むう。ならば見せてやる……」
「ん……」
 私たちは人気の無い晴空学園の屋上で二つの影が一つに重なっていた。で、まあその後なんだけれどそれは皆さんの想像にお任せするわ。

勇希、疾風の場合
「なあ。勇希一体なんだ。もしかして……」
「ご名答。はいこれ」
「これ一箱か。ありがたいぜ。それじゃあ食うぞ」
「ええ。遠慮なく食べて」
 そう言って私は疾風にフォークを渡した。渡したと同時に疾風は凄い勢いで食っていた。
「疾風。おいしい」
「もぐもぐ……うみゃい……うみゃいせ。ひゅうき」
「食べ終わってから言いなさいよ」
「そんな。事言ってもなあ。あまりのうまさにとまらねーんだ。もぐもぐ」
 で、途中で声が止まって胸を叩く動作を疾風がしていた。あたしはすぐさま魔法瓶から紅茶を注いで彼に渡した。
「大丈夫。これお茶……」
「……」
 疾風は無言でお茶を手に取って一気に飲んでいた。
「ぷは〜。助かったぜ……」
「まったく。急いで食べるからのどに詰まるのよ」
「すまん。しかし、あまりに美味しくてな止まらなかったぜ。さて、残った分も食うぞ〜。と、おもったが勇希も
 一緒に食うか。流石に俺一人だと全部は食いきれないからな。この量だと」
「いいわよ。じゃあ食べさせてくれる疾風……」
「ああ。いいぜほい。あーん」
「あーん」
 パク。モグモグ
「あら、美味しい」
「おいおい。味見ていなかったのかよ」
「ううん。試作していたけれど、いつも失敗していたから。だから今回は上手く行ってよかった〜」
「そうか。ほい。あーん」
 モグモグ……。
 そんなこんなで食べあった時間も終わりを告げ、私は疾風に魔法瓶の紅茶を注いで渡していた。
「はい。お茶」
「お、サンキューな勇希」
「しっかし、まさか疾風と一緒な所に合格するとはねえ」
「そうだよな。俺はともかく、勇希が合格するなんてすげーよ。直子もそうだが、お前ら姉妹はとんでもない潜在能力を秘めているな」
「あたしも、そう思う。まあ、春からは一緒に住めると思うと嬉しいよ」
「まあな。それにしても、親父とお袋凄い事言い出したからなあ」
「確かにね。あの二人は凄すぎて何もいえないよ。ふつつかものですがこれからよろしくお願いしますね」
「そうだな。それじゃあ行こうか」
「そうね」
 そんなこんなで私たちは傍からみると凄く熱々な感じで家路についていた。

桜花の場合
「るーるる〜ん。ふふふ、飛燕君待っていてね。今こそこの愛を貴方にあげますわよ」
 あたしは浮かれていた。そりゃあもう、誰が見ても浮かれていた。だって女の子にとっては一大イベントなんですからねえ〜。
『ゴン』
「痛〜。誰よ。あたしの頭叩いたの」
「ったく。浮かれている場合か大体、場所を考えろよなあ。まあいいところで白菊。俺に用なのか」
「うん。これあげる」
「ん。もしかしていわゆるチョコレートって奴か」
「もしかしなくても、そうだよ」
「そりゃありがたいぜ。で、食っていいか」
「うん。良いわよ」
 そんなやり取りがあり、あたしは飛燕君にチョコレートの包みを渡していた。で、彼は無言で包みを開き、中のチョコを一つ摘み上げて口に入れていた。で、一応あたしは彼の好みをかんじて甘味を抑えたビターチョコをメインに作ったけど
 彼の反応が怖い……。でも、それは杞憂に済んだ。
「んまーい。この苦味がなんともいえないぜ。後引く美味さだ止まらんぜ。美味い美味いぜ」
「よかった〜。これ先輩から教わった事は無駄じゃあなかったんだ〜」
 で、飛燕君は私のチョコを美味しそうに全部食べていた。そして食べ終わったあと……。
「美味かった。こんな手作りのチョコを渡すってことは俺に好意を持っていると見ればいいのかな」
「うん。だってあたし、飛燕君のことずっと見ていたから。始めはかっこよさからの憧れかなと思っていたけれど、違っていた。貴方を見ると胸がドキドキする。って何言っているだろ。だからあたしはあなたのことが好き」
 私は言い切った。そう、今までいえなかった告白をした。だからどんな返事が来ても諦めもつくわ。まあ、多分駄目だったら。ひっぱたいて、ワンワン泣いて忘れることにするけどねえ……。で、彼の返事は……
「むう、白菊。すまん。実はな俺も女性から告白を受けたのも、チョコを受け取ったのもこれが始めて何だ。嬉しいんだが、その……なんだ。どうやら俺も白菊。君に惹かれていたみたいだな。今すぐ返事は無理だな。そのなんだ少し考えさせてくれないか3日いや2日で良いから頼む……」
 あたしは無言で肯いていた。それを見て彼も肯いていた。今日、返事を貰う事はできなかったけれどなんかよさそうな感触をつかめそうね。はあ〜3日後が楽しみだわ〜

郁美の場合
「(えーとこれでいいのよね。でも、お兄ちゃんは私が千堂 かずき先生に会う事を止めていたけれどなぜ)」
 私は千堂 かずき先生の元をたずねるべく列車に揺られていた。一応、薬も用意してあるから何とかなるわね。
 千堂 かずき先生の住所は先生の本の奥付に書かれてあるから判るしね。本当は千堂 かずき先生に会うのは躊躇うけれど、でも、この気持ちのまま行くのはいやだしね。私はやるわ。
 そんなこんなで私は列車を降りて千堂先生の住んでいる所へと向う事にした。
「えーと。此処ですね。はあ〜緊張する。よし、女は度胸よイザ吶喊〜」
 そんな訳で私は千堂 かずき先生の住んでいるアパートの呼び鈴を押していた。
「あれ……。もしかして留守なのかな。もう一回押してみて駄目だったら……。ううん直子さんも言っていたわ。何も行動をおこなさなかったら何もならないって。もしそうなら私待つわよ」
 私はそう覚悟を決めて再び呼び鈴を押そうとしたとき急に扉が開いた。
「はい。はい。瑞希か。って貴方誰」
 其処にはメガネを掛けた女性がいた。私は意を決して女性の問いかけに答えそして私は質問していた。
「えーと。私は立川郁美です。貴方は千堂 かずき先生で間違いないですか」
「そうだけど。立川……。もしかして、立川さん。私のファンで。駆け出しの頃から批評をくれていた」
「そうです。事情があって私自身はこれなかったのですが、お兄ちゃんから話は聞いていました」
「そう。とりあえず此処で立ち話もなんだし上がって」
「はい。お邪魔します」
 そんなこんなで私は千堂先生に案内されて居間へと通された。部屋の中は資料やらトーンなどが散らばっている状態だった。
「とりあえず。貴方にはお礼を言うわ」
「そんな。お礼だなんて。私の方こそ生きる希望を貰いました。えーとこれ良かったら食べてください」
「これは……開けていい」
「いいですよ。それと私のこと郁美で良いです。千堂先生」
「私の方も和希で良いわよ」
「はい。和希さん。でも驚きました。てっきり男性の方かと思っていたのですが女性だったなんて」
「私の方もおどろきだよ。てっきりあのごつい方の男の人が立川さんかと思っていたらまさかこんな可愛い女の子がそうだったなんてね。あ、これチョコレートか美味しそうね」
「あの、こみっくパーティーの会場にいた人は私の兄なんです。どうぞ食べてみてください」
「ん。判ったわ。戴きます」
 もぐもぐ……
「ん。美味しい」
「よかった〜」
 私は複雑な嬉しさをもっていた。まあ、私の恋は見事に散っちゃったけどね……。
 そして、それから数十分後……
「あ、あの和希さん。私これで帰ります」
「そう。あの、郁美ちゃんチョコのお礼と言うのもなんだけどこれあげるわ」
「え、そんな。悪いですよ……」
「ううん。今までのお礼も兼ねてだから受け取って欲しい」
「はい。それじゃあ貰います」
 そういって和希さんは色紙を渡してくれた。見てみると其処にはオリジナルキャラと先生直筆のサインが入っていた。
「あ、あの。和希さん。有難うございます。私はこれからもファンの一人として貴方の事を応援しますから。それじゃあさようなら……」
 私はそう言って和希さんの部屋を出ていた。
 はあ〜。まさかあの人が女の人だったとはねえ〜。お兄ちゃんが止めるはずだよ。でも、私は悔いは無いわ。
 これで心おきなく旅立てるわ。もしかしたら二度と変えれないかもしれないけれどね。
 私はそう思いながら家路についていた。そのあと、お兄ちゃんに見つかってこっ酷く怒られちゃうけれど、私のことを心配して言っていたみたいだった。本当にごめんねお兄ちゃん。お兄ちゃんも本当は直子さんと一緒に居たいんでしょうね。
 でも、私が心配だから我慢しているみたいだけれど、お兄ちゃん私は大丈夫だからおにいちゃんは自分の思うままに生きてくれればいいわ……。直子さんは本当にいい人よ。直子さんおにいちゃんのことよろしく頼むわね。

治子の場合
「ふう。作ったのは良いけれど、渡す人っていないんだよねえ。いや、下手したら貰う方が多いかも」
「なに。黄昏ちゃっているのよ治子」
「あ、葵さん。葵さんは何か用意した。例えば手作りのチョコとか……」
「ん。あたしにそれを言うのか治子〜」
 そういいながら葵さんは私の首を締め上げていた。
「ん〜ギブギブ……。信君が見ている」
「葵さん。治子さんとそういう関係なのか……」
「ちょ、一寸。信君あたしが百合に見える。っていいわ。ハイこれ」
 そういって葵さんは懐から包みを取り出して信君に渡していた。
「これは……」
「もう、気がつかないの今日は……」
 其処まで言って流石に気がついたらしく、彼は凄く舞い上がっていた。
「いやった〜。感度ものっす」
「そう、そう言ってくれると嬉しいよ。それじゃあ私からも義理だけどこれ」
 そう言って私はある程度の大きさの箱を信君に渡していた。
「ああ、店長ありがとうございます」
「いえ、いえ。どういたしまして。っていけない。私、休憩時間もう終わっていたんだった〜」
 てなわけで、私は脱兎のごとくフロアへと舞い戻ったのである。そして、店も閉店になり……。
「おつかれさま。治子。じゃあまた明日ね〜」
「ええ。お疲れ様。って葵さん。あんまり呑みすぎて明日に差し障るなんて事は嫌ですからね」
「わ、判っているわよ〜。じゃあ信君行こうか」
「了解っす。今夜は寝かせないぜ〜」
「お手柔らかにね〜ん」
 そんなこんなで二人は去っていった。まあ、あの二人結構うまく行っているようじゃあない。直ちゃんも恋人が出来てからはあまり私と付き合わなくなっちゃったし。こうなったら私も恋人を作ろうかな……
 そんな事を考えながら夜の商店街を歩いていると突然女性がぶつかってきた。
「きゃ」
「す、すいません。ってお姉さま……」
「え、え〜。もしかして冬木さん……」
「冬木さんだなんて。美春でいいですよ治子お姉さま」
「一寸。美春さん抜け駆け無しって言ったじゃあない」
「へ。もしかしてさやかさんも来てたの」
「はい。おひさしぶりです。治子さん。それにしても、水臭いですよ。三号店に異動したってなんで言わなかったのですか」
「いらない心配をさせたくなかった。それじゃあ駄目」
 私の答えに二人はあまり納得はしていなかったみたいだったが、肯いていた。
「まあ、あまり納得はいきませんが判りました。でも、あたしは治子さんの所に追いかけるからね〜」
「そうですか。そういえばオーナーから話を聞きましたよ。店長就任おめでとうございます」
「ありがとう。ってここで立ち話もなんだから二人とも私のところでゆっくりと語り合いましょ」
「「はい〜」」
 ってなわけで、4号店でヘルプしていたときの二人を私の部屋に招きいれた。まあ、それによってとんでもないことになるんだけれどねえ……
「ただいま。っと。二人とも上がって」
「はい。お姉さま」
「おじゃまします。治子さん」
 二人が上がるのを見計らって私は薬缶に水を入れて火に掛けた。
「二人とも。コーヒーで良いかい」
「良いですよ」
「あたしもコーヒーで良いです」
 私はそういいつつ久々にコーヒーを抽出器にいれて、沸き立ったお湯を注いでいた。久しぶりの客人が来たんだ。
 それなりに持成さないとね。というわけでコーヒーを抽出し終わったのを見計らって、カップにコーヒーを注いで。
 そして、お茶請けに例の切り分けたケーキを添えて彼女達の元に行った。
「はい。お待ちどうさまでした。ケーキセットです」
 私はそういいながら流れるような動作でトレイのコーヒーをテーブルに並べていた。
「治子さんって本当に美しいです」
「え、それってどういうこと。さやかさん」
「い、いえ。動作がなんというか流れるようなというか、見ていて美しい動作なんですよ」
「そう。ところで、何で私の元に来たのかしら。貴方達にも仕事がある筈よ」
「そ、そうでした。えーと。これを届けにきました。朱美さんも来たかったみたいですが、流石に無理があったみたいでした。で、私が4号店を代表として渡す事にしたんです」
「そう。それじゃあ受け取るわ」
 私はそういいながら美春さんが差し出した箱を受け取り中を確認した。其処には3通のカードとそれぞれのチョコレートが入っていたのであった。
 で、さやかの方を見てみると其処にはかなり嫉妬に燃え上がっていたさやかがいた。で、私はとっさに一言。
「と、言う事はさやかもそうなの」
「はい。これを治子お姉さまに渡そうと思いまして。今日、明日とバイトはお休みなのだったので此処に来ました」
「そう。それじゃあもらうわね」
 そんな訳で私は二人から貰った箱を開けてチョコを食べてみる事にした。その、味はどれも甘く、そしてほんのりと苦いそんな感じの味わいだった。
「二人とも。美味しかったよ。私の方も渡す予定がなかったけれど、今貴方達が食べているこのお茶請けのケーキ実は私が作ったといえばそれで納得する」
「え、これってお姉さまの手作り」
「治子さんってお菓子作りの才能あったの」
「まあ、実は直ちゃんから教えてもらったけれどねえ」
「え、直ちゃんって誰ですか」
「はーるーこーさーん。その人ってどんな人か教えてくださいよ」
「わ、判ったわよ。判ったから二人とも落ち着きなさい」
 私は一寸早まったかなと思いながら彼女の事を説明していた。で、説明を終えて二人の反応は……
「へえ〜。そんなことがあったの。それにしても、その人って凄いわね」
「流石はお姉さまです。でも、とんでもないライバルがあらわれるなんて」
「ああ、心配しなくても、彼女は恋人いるから。それも凄くごつい人がね」
「「え。そうなんですか」」
「そう。だから、直ちゃんとはいわば友情で結ばれているだけだよ。ところで、って終電出ちゃったわね。今夜は宿を決めているの」
「え、実はその……」
「私もその……」
 その様子をみて私は寝具入れから毛布を何枚か取り出していた。
「しょうがないわね。どうせ、今晩だけだから泊まっていいわよ。この寒空の中放りだして凍死でもされたら寝覚めもいから。はい。これ毛布」
「あ、有難う」
「有難うございます。お姉さま」
「明日早いから私もそろそろ寝るよ。夜更かしは美容の大敵だからお休み……」
「「おやすみなさい……」」
 ってな訳で、夜も更けていった。
 此処で時系列をさかのぼる事にする。

蝉代の場合
「うーん。作ってもって帰ったのは良いが私には渡すような相手もいないしどうしようかな。自分で食うのもなんかなあ。ん確か。そうだその手で行きましょ」
 私は疾風の親父さんの所へと翔けていた。そう。かなり強行な計画になりそうだけれどね……。あ、時間的には直子達と別れてその日の夕方ごろね。
「あ、親父さん。あのですね。2,3日ほどと一寸お休みを貰いたいのですが……駄目ですか」
 私は飯と住む所を提供してもらっている家主に対して申し出をしていた。で、半分駄目かと思っていたが……
「ああ。別にかまわんぜ。どうせ暇だしな。でも、珍しいな土曜も日曜も祝日も無く働いていた奴が休みたいなんて。明日雪が降るのかな……っと。そんな事は良いや。何をするつもりなんだ」
 私は明日の目的をオヤッサンに話していた。オヤッサンは大いに驚いていた。
「むう、列車じゃあ間に合わんな。よし、俺のニンジャを貸してやるからそいつで島神までいくといい。車貸してやりたいが生憎とそいつは母ちゃんが握っているからな」
「それだけでも、ありがたいです。あと道路地図もあればもっといいのですが……」
「ああそうだな。んで。金は持っているのか」
「ある程度は持っています」
「そうか。まあついでだこれも持って行け」
 そう言ってオヤッサンは財布から一万円札を6枚渡してくれていた。
「これは……」
「俺からの旅費さ。あと、バイクの装備はフライト用の装備で流用が利くはずだ。ジェットヘルだがヘルメットはフライト用の用具入れに入っている事故るなよ」
「有難うございます。それでは……」
 私はお金を受け取ると。すぐに着替えて、必要な荷物を詰め込んでいた。毛布、水筒のほかに渡すべきモノを崩さない用に慎重に袋に入れて荷造りが完了した。で、必要な携行品を再び確認した私は飛行用装備を装着してそしてヘルメットをかぶる前にオヤッサンのバイクの事前点検を行っていた。問題なし。で、燃料の残量を確認しほとんど入っていなかったので予備のジェリ缶から燃料をタンクに注いで満タンにしておいた。まあ、無給油で島神までは無理だけど、ガソリン高騰のご時世だから可能な限り給油を少なくなきゃね。で、袋をバイクに括り付け、しっかりと固定を確認して私はバイクのキーをさして車庫から外へバイクを押していた。で外に出たところでバイクのキーをオンに動かしそしてセルモーターを作動させていた。
『クキュキュキュキュキュブルルウン』
エンジンが動いたことを確認した私はライトスイッチを点灯の位置にあわせてクラッチレバーを握りギアを一速へ動かしスロットルを少し開きつつクラッチをつないでバイクを発進させていた。目指すは坂上老人と光岡のいる島神へだ……。
 そして夜明け
「うーん。朝日がまぶしいぜ……」
 わたしはそんな事を思いながら島神の地に入っていた。流石に給油以外ノンストップで走るのはきついわね。
 でも、この苦労ももうすぐ終わるわ……。そんな事を思いながら私は蝉丸老人が教えてくれた住所へと単車を走らせていた。
「ようやくついたわね。時間は……ちょっと早いみたいね」
 私は懐中時計を見てつぶやいていた。時計の針は0700たずねるには一寸早い時間だしねえ。で、私は家の前で単車を止めてヘルメットを外して少し時間を潰していた。
『ガララ』
「ん〜。今日も一日が始まるか……どれだけ生きられるんじゃろうなって。そなたは……」
「あ……。貴方は……」
「蝉丸」
「蝉代」
 私と老人は同時に口をあけて答えていた。
「久しぶりじゃな。いつか戻って来いといったがまさか単車で来るとは思ってもいなかったぞい」
「まあね。あ、そうだ。蝉丸は甘いもの大丈夫か」
「それはそなたが知っておろう」
「嗜好に関してはクローンもオリジナルとかけ離れるから判らないよそれに。私とは性別も違っている以上ね……」
「確かにそうかもな。わしは大丈夫じゃ」
「そう。じゃあこれお土産」
 そう言って私は老人に小箱を渡していた。
「すまんな。中身はケーキか」
「そうだよ。ちなみに私が焼いた。多分味は問題ないはず」
「そうか。まあ、立ち話も何じゃ入りたまえ」
「上がらせてもらうわ」
 そんなこんなで蝉丸老人の屋敷に上がった私であった。
「あら、お客さん。って蝉代さん」
「やあ。ひさしぶりな高子。看護婦の方は大分進んでいる」
「ええ。蝉代さんもお元気そうで何よりです……ポ」
 私と高子とのやり取りをさえぎるように蝉丸老人が割って入ってきた。
「むう、此処で話すのもなんじゃ居間に行こうかの」
「そうですね。それじゃあ私お茶を入れてきますね」
 そう言って高子は台所へと消えていった。
 で、坂上家の居間で私は落ち着かない状態だった。
「そなた何をしていたのか話をしてくれんんかのう」
「ん。別に話すようなことは無いけれど、今は天翼で住み込みの仕事している」
「そうか。それはなによりじゃ。それに大分、現代になれたみたいじゃしな」
「それは言えている。で、そっちはなにか変わった事があったのか」
「むう。そうじゃなあ。光岡ときよみが結婚したぞい。おぬしにも連絡しようと思ったがどこにいるやら判らん状況でな、連絡ができなんだ」
「そうか。ついにあいつら結婚したのか。それはめでたいな」
「おそらく、ボチボチ来る頃じゃろうて」
『ピンポーン』
「はーい。あら、きよみさん。あ、そうそう蝉代さんが着ているわよ」
「こんにちわ。え、蝉代がきているの」
「お、おい。きよみ。身重なんだから無理するな……」
 そんな喧騒を聞きながら私はお茶を飲んでいた。
「蝉代……。久しぶりですね。それにしてもなぜ私の披露宴にきてくれなかったのです」
「だってねえ……」
「よう。坂上ひさしぶりだな」
「おう、光岡じゃあない。お前も淡白と思っていたがやるときはやるんだな……」
「は……」
「とぼけるんじゃあない。おまえきよみを孕ませたんでしょ」
「まあな。言っておくが結婚してからだぞ妊娠がわかったのは」
「はいはい。そういうことにしておくわ」
「むう。なにか棘に刺さるような言い方だが……まあいいお前と喧嘩しても意味が無いしな」
「そういうことだね。あ、そうだこれアンタにお土産」
 そう言って私は光岡に箱を渡していた。
「すまんな。中身はなんだ」
「食い物。洋菓子だよ」
「そうか。此処で食って良いか」
「かまわないわよ。私の手作りだから心して食べるんだよ……」
「なんか腹壊しそうだな」
「光岡〜」
「まあ、まあ。おちついて。私も貰うわ」
 そんな訳で光岡夫妻は私が切り分けたケーキを美味しそうに食べていた。
「どう。美味しい?」
「……」
「あら、美味しい。ねえ。あの作り方教えてくれる」
 きよみの問いかけに私は無言で頷いていた。
「あの、私にも教えてくれませんか」
 そう言ってきたのは高子であった。どうやら高子も私のケーキを食べていた。で、私は直子から貰ったレシピをきよみたちに渡していた。
「えーとこれにこのケーキの作り方が書かれているよ。二人ともなんならこのケーキ作ってみる」
「あ、いいですね。確かに作ってみればおぼえますしね」
「わたしも賛成するわ〜」
 と、言うわけで私は昨日直子に教わったケーキの作り方を彼女達に教える事となった。
「そうなると、道具と材料を買わないと駄目ですね。蝉代さん朝ごはんまだでしょ今、支度しますのでそれを食べたら買出しに行きましょ」
「そうですね。ご相伴に預かるわ」
「はい。遠慮なく食べてください」
 そんなこんなで私は高子たちと朝食をともにした。そして、材料と必要な道具の買出しを行なっていた。で、一昨日と同じ様なことが繰り返されたわけであった。そして、結果としてはまあ、そこそこのできばえと見ればいいかな。まあきよみは失敗しちゃったけれど、数をこなせばどうにでもなるからねえ。
 そんなこんなでその日は暮れていった。
 そして翌日の朝……
「じゃあ。蝉丸。今度は何時会えるかわからないけれどお元気で……」
「そおじゃな。今生の別れかもしれんが、今になって思えば限りある命でよかったと思うておる」
「坂上。達者でいろよ。性別は変わってもお前は俺の友だ……」
「ありがと。光岡。きよみを大事にしろよ。それにもうすぐ父親だからしっかりしなよ。落ち着いたら葉書か手紙でもだすよ」
「そうか。楽しみにしているぞ坂上」
「蝉代……。貴方も元気でね」
「ええ。きよみも今度は子供の姿を見せてくれよ。それじゃあみんなまたね」
 そう言って私は単車を走らせていた。次にあうのはいつかわからないけれど、生きていればまたどこかで出会うでしょうね。だって私は悠久の時を生きる者だから……。


(続く)


 

あとがき
 どうも、霜月天馬です。バレンタイン編もおわりついにラストエピソードに入ります。えーと郁美編で出てきた
千堂 和希さんですが、さたびー氏のりばーしぶるハートに出てきた千堂 和希さんを参考に登場させてみました。
まあ、彼女はちょい役ですがね。
それではこれで……



管理人のコメント

 前回作ったスイーツを今回は渡す側に。さて、受け取る人々の反応は?
 
>直子、勇蔵の場合

 まぁ、この二人は元からラブラブですから、あまり語る事も無さそうではありますが。
 
 
>「う……」
>「うまいぜ

 古典的過ぎるぞ雄蔵!(笑) それにしてもその後のリアクションがグルメっぽいです。意外に甘いもの食べなれてるのか……
 
 
>いつもならアイツの作業でこの時期になるといつも台所が酷い事になっているんだが

 なんとなくリアルに想像できそうです(笑)。
 
 
>勇希、疾風の場合

 この二人は直子達以上にバカップルなので、コメントは割愛します(酷)
 

>桜花の場合

 こちらは想い人に気持ちを伝えたい乙女の話。渡すのと告白は上手くいっているようですが……
 

>今すぐ返事は無理だな。

 何だそのへたれた返事は! 俺は認めないぞ!!
 
 
>其処にはメガネを掛けた女性がいた。
>「えーと。私は立川郁美です。貴方は千堂 かずき先生で間違いないですか」

 治子だけでなく、和希までいたとは……
 
 
>ってなわけで、4号店でヘルプしていたときの二人を私の部屋に招きいれた。まあ、それによってとんでもないことになるんだけれどねえ……

 さやかはともかくとして、美春を家に招き入れる……治子、貞操のピンチ!(マテ)
 
 
>「蝉丸」
>「蝉代」
>私と老人は同時に口をあけて答えていた

 蝉代の人生にまつわる謎も、少しですが明らかになりました。老人の方はちゃんと男なんですね……
 

 ということで、それぞれにバレンタインを過ごした一行。いよいよ旅立ちの時が迫る中、最後の想い出は彼らの中にどう残っていくのでしょうか。



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