翼持つものたちの夢

霜月天馬

第24話 〜スイーツ狂想曲〜


「る〜るりら〜る〜」
「直子〜。そっちの卵白泡立て終わった。終わったらあたしの所に貸して」
「はい。これ」
「ふふふ〜。千堂 かずき先生に渡すんだ〜」
「飛燕さん〜。私がんばるからね〜」
「むう。勇希。これはなんの機械だ」
「ああ、蝉代さん。粉をふるいに掛ける道具よ。ついでだから其処の計量済みの小麦粉を篩っておいてくれない」
「そういうことなら。えーと容器に小麦粉をいれてこの棒を動かせばいいのね」
「そうそう、散らさないようね」
「わかった。それにしても、この時期の店は凄かったね……」
「まあ、お菓子屋の陰謀だからね……。でも、いとしい人に渡すというのも悪くは無いわよ」
「そんなものなのか。いやはや、時の流れとは凄いものだ……」
「ほら、ほら、蝉代さんに治子さん口動かさないで手を動かす」
「「は、はい」」
 勇希の指揮の下、私、郁美ちゃん、桜花、蝉代さん、治子さんの計6名が私の家の台所で明日の為にお菓子作りをしているところだ。ちなみに今日は2月13日。明日はいわゆるバレンタインデーと言われる日だ。まあ、菓子業界の陰謀とも言われるが、其処は恋する乙女達なわけで全員菓子作りに励んでいたのであった。
 私と勇希は普通のチョコではなくチョコレートベースのシフォンケーキを作っていた。で、桜花と郁美ちゃんの二人はそれぞれオーソドックスなチョコレートを作っていた。で、なぜこんなてんやわんやな騒ぎになったのかというと話は数日前にさかのぼる……。

 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
「ふい〜。試験が終わった〜。さて、試験も終わったし今日はバイトも無いしどうしようかな〜。久々にゲーセンかカラオケボックスでフィーバーと行きますかね」
「いいわね〜。と言いたいところだけれど、私はパスするわ」
「ん。なぜに」
「あの日が近いからよ……」
 それを聞いた私は何を意味するかすぐに悟った。
「ああ、確かにそうね。それじゃあ、今日は情報収集と材料の買出しに変更しようか勇希」
「そうね。ごめん疾風。あたし達今日はちょっと一緒に帰れそうも無いわ」
「そっか。そいつは残念だ。まあ、無理も無いか。勇希どんなのをくれるか知らないが、食えるのを頼むぞ。勇希の飯はうまいことは証明済みだけどお菓子はどうなのかわからないからな……ぐはっ」
「一言多い……」
「疾風もあいかわらずだな。あ、勇希先に行っててくれる。私一寸用があるから」
「ああ、そういうことね。じゃあ行ってらっしゃい〜」
 勇希のやっかみの混じった声を後ろに私は勇蔵の居る教室に全速力で駆け込んでいた……
「あ、歩。立川居る」
「ああ、直子か。彼なら居るで」
「そう。それじゃあ頼める」
「お安い御用や。おーい立川はん。直子はんがおよびでっせ」
「どうした。直子珍しいなお前が此処に来るなんて……」
「単刀直入に言うわよ。貴方甘いもの大丈夫」
 私は勇蔵にストレートすぎるくらいストレートに彼の好みを聞いていた。そして、彼の答えは。
「まあ、平気だな。甘いものを肴に蒸留酒を飲むのは最高だしな」
「そう。じゃあ、数日後期待していいわよ」
 私はそう言って脱兎のごとく彼の前から去った。
「直子、一体なにをくれるんだろうなあ〜」
「はあ〜。それ本気で言うとるんか。直子も本当に物好きなやっちゃな。ま、うちは直子達がうまく行くよう応援しているで〜。って。ウチもこうしちゃいられへん」
と、まあ、木瀬さんも直子の後を追うように去っていった。で、俺は数日後のイベントに期待しつつ家路へとつくことにした。

で、校門前で疾風と会話していた勇希を見て私は会話が終わるのを見計らって乱入した。
「よう。終わった。問題なしだって。それじゃあ私の心尽くしを腹いっぱいアイツに食わせてあげよう。うん」
「着たわね。それじゃあ疾風楽しみに待ってなさいよ〜」
「おうよ。期待して待っているぜ〜」
 そんなこんなで、疾風と分かれた私達は商店街にある、お菓子専門の食材店へと足を運んでいた。
「あ、直子先輩、勇希先輩も買出しですか」
「うん。桜花ちゃんもそうなの。一体どういうのを作るつもり」
「ええ、ごく普通の手作りチョコをね……」
「そう。って、あれ、治子さんに蝉代さん」
 私は珍しい場所で意外な二人をみて驚いていた。二人も私たちに気がついてこっちに向っていた。
「あら、直ちゃんに勇ちゃん。それに桜花ちゃんも買出し」
「それにしても、治子さんはともかく、なぜ蝉代さんまで」
「ああ、それは治子に聞いてな。どんなものか知りたくなってね」
「そう。ところで、治子さんたちは材料の買出しは終わったの」
「いや、何を買おうか迷っている所だね」
 それを聞いた勇希はひらめいたような表情で治子さんに答えていた。
「そうですか。それじゃあ私達と一緒に作りませんか。レクチャーしますから」
「良いわね。一にも二にもなく賛成するわ。ところで貴方達は何を作るつもりなの」
「そうですね。チョコベースのシフォンケーキを作ろうかと。シフォンケーキならバターがなくても作れますから」
「そう。それでいいわ。蝉代さんは」
「私はよくわからないけれど治子がそれでいいならそうすれば良いわ」
「そう。それじゃあこれで決定ね」
そんなこんなで、私たちと治子さん達と一緒に作る事になった。一方、桜花達は。
「えーと。チョコレートの材料はこれでOKね。あれ、そこにいるのは郁美ちゃん」
「あれ、もしかして、桜花さん……。貴方も買出しですか」
「ええ。そうよ。あれ、もしかして貴方も同じメニューなの」
「そうですね。ところで、桜花さん一緒に作らない」
「そうね。確かにそれナイスアイディアよ。私は直子先輩達と一緒に作るつもりだったけど、郁美ちゃん一人くらい加わっても問題ないわ」
「そうですね。あの直子さんの手際をみるにはいい機会ですし、私はかまいませんよ」
「ええ。あれ、其処に見えるのは直子先輩達だ……」
 私は桜花と郁美ちゃんが仲良くこっちに来る姿を確認していた。
「ああ。郁美ちゃん。久しぶりね。買出し」
「そうです。あ、あのですね。桜花さんに聞きましたが、直子さん達は一緒に作るって言っていましたが、私も加わっても良い?」
「ああ。そりゃいいわよ。一応私たちは明日作業に入るから良かったら来て」
「有難うございます。それじゃあ私はこれで」
「うん。また明日ね」
 そう言って、郁美ちゃんと桜花は去っていった。
「それじゃあ私も明日ケーキ作りに必要な材料を買っていくので治子さんもよかったら付き合いますか」
 私の提案に治子さんたちは肯いていた。
「そうですか。それじゃあ行きますか」
「そうですね」
 そんなわけで私たちは菓子材料店で純正ココアと型枠を買い。そして、スーパーで卵一ケースに牛乳、小麦粉等を買っていった。
「ねえ。勇ちゃん。なんで卵一ケースも買ったの」
「それは。シフォンケーキには卵を大量に使いますので、あとで足りなくて困る事が無いようにしただけですよ。ああ、治子さん一緒に作るなら材料は私達が用意しますので持ってこなくて良いですよ。でも一応、エプロンは持ってきてくださいね」
「そう。それじゃあ明日昼ごろに直ちゃんの家に行くわ」
「そうですか。それじゃあ楽しみに待っています」
「判ったわ。それじゃあまた明日」
 そんなこんなで翌日の昼ごろ……
『チリリン』
「はいはい。どちらさんで」
「直ちゃん、治子よ。蝉代さんたちも一緒よ」
「いらっしゃい〜」
 私は彼女達を招くべく扉を開けた。そして、そこで4人がそれぞれ鞄を持っていた。そこで私は応接間に彼女達を招いていた。
「えーと。荷物は其処の部屋においてかまわないわ。それじゃあ着替えて台所にきて」
 そんなこんなで私たちは明日のためにそれぞれお菓子作りにはげむことになった。
「確か、桜花ちゃんと郁美ちゃんがチョコ作りだったわね。チョコ作りでやってはいけないことはチョコを直接鍋で熱しちゃ駄目ということね。それをやるとチョコレートが焦げて苦くなるから。チョコを溶かすには湯煎で溶かすのが基本だよ」
「え、そうだったんですか。有難うございます直子さん」
「まあ、それはいいから取り掛かりなさいよ。あ、湯煎と言うのはね……」
 私は桜花、郁美のちびっ子二人に手取り足取り教えていた。一方、勇希の方は治子さん、蝉代さんとも、基本が出来ていたので、それほど苦労はしていなかった。まあ、蝉代さんが今の道具になれていないからどう使うのか教えるくらいだった。
 で、私も二人の作業が順調に進んでいることを確認して勇希達の作業に復帰した。
 そして、私たちはそれぞれプレーンタイプ一つとチョコレートベース4つ作っていた。
 そして、それぞれの種を型枠に注ぎ、オーブンで焼き上げるだけになった。
「これでよしと。後は焼き上げさえしくじらなきゃ大丈夫よ」
「それにしても、お菓子作りって計量さえしっかりすれば大丈夫と言う事が判ってよかったよ」
「でしょ。あれ、直子何しているの」
「ん。余った卵黄でカスタードクリームを作っているんだけれど」
「そう。それじゃあ。あたしはココアを作りますか。焼きあがるまで暫らく時間がかかるからね」
「そうだね」
 そんなこんなで私と勇希の二人は台所でそれぞれ作業をしていた。で、それを傍から見ていた4人は……
「直子さんって凄い手際のよさね……」
「うーん。どんな味なのかしら。美味しかったら後でレシピを教えてもらおうかしら」
「それにしても、今はこういう甘いお菓子が一杯あっていいわね」
「二人とも凄いです。私にとって二人は目標の人です。負けませんよ」
 とまあ、思い思いなことを考えていたみたいだった。
「みんな〜。ココア入れたからみんなで飲んでくれる」
 勇希の声で4人は我に帰っていた。で、私は既に出来上がっていたクリームを皿に盛り付け、ついでに味の無い乾燥パンを添えてトレイに載せて出した。
「私も出来たわよ。よかったら焼きあがるまでお茶にしましょ」
「それじゃあいただこうかしら」
 治子さんの声を皮切りに私たちは勇希のココアを飲みながらお茶請けに私のクリームを抓みながらめいめいにすごしていた。
「あれ、この乾パン以前食べた乾パンよりも旨いな。でも、それにこのクリームをつけて食うともっと美味しい」
「そうですかそう言ってもらえると嬉しいですよ」
「直ちゃん。このクリームの作り方後で教えてくれる」
「いいですよ。あとでレシピにしてまとめますのでそれを参考にしてくれればすぐにできますよ。っと一寸ごめん」
 そう言って私は焼きあがりを調べる為に鍋つかみをつけてオーブンのふたを開けて型枠に串をさしていた。それをみて、あと少しと判断した。
「勇希。あと5分前後といったところかね」
 私は金串を勇希に見せてたずねていた。勇希も肯いていた
「そうね。直子の判断で良いわよ」
 そして5分後。焼きあがったことを確認した私は型枠をひっくり返して、冷ますべくしばらくおいておいた。
「ねえ、勇希。それって何時ごろ食べられる」
「今すぐはむりですね。まあ、冷めてから型枠をはずして一つ試食してみましょ」
 勇希の問いかけに私たちは頷いていた。その頃には桜花たちが作っていたチョコレートも固まっていた。
「うん。完成よ〜」
「私もできました〜」
「良かったわね。郁美ちゃん、桜花」
「直子せんぱいの指導の賜物です。ありがとうございました」
「いやいや。私が教えたのは基本だけだよ。ああ、一応このケーキとクリームのレシピをあげるよ」
「ありがとうございます。直子先輩」
「むう。悔しいです〜。でも、折角だから戴きます」
 とまあ、私は傍らにあったメモ用紙に作り方を事細かく書いたものを二人に渡していた。
 一方治子さん達は……
「勇希ちゃん、直ちゃん有難う。おかげでとても参考になりましたわ」
「治子さん。礼には及びませんよ。えーとこれレシピね。参考までに直子が作っていたクリームのレシピも付け加えておいたから」
「ああ、とても参考になったわ。あのけーきが冷めるまでどれくらいかかる」
「そうね。少なくても2時間は必要かしら」
「そう。どうせ。私も今日は仕事がお休みだから2時間くらいならぜんぜん平気よ」
「そうですか。それに後片付けもありますから。付き合ってもらいますよ。桜花も郁美ちゃんもね」
「「「は、はい」」」
 そんなこんなで私たちは台所をきれいに片付けるべく作業に入っていた。まあ、それでもみんな結構手馴れた手つきで片づけを行った。まあ、台所をあまり汚さなかったから作業はスムーズに済んだ。
 まあ、それでも2時間近く掛かったけれどね。
 で、片付けも終わり私たちはのんびりとくつろいでいた。
「直子。そろそろね一つ型枠から外してみようか」
「そうだね。とりあえずプレーンを外すから。みんなで食べよ」
「そうね。それじゃああたしはお茶を入れるから直子お願いね」
「判った」
私は祈るような気持ちで型枠を外していた。頼むからふんわりと膨らんでいてくれと祈りながらだ。
で、思惑通りにふっくらと膨らみやわらかそうなケーキが出来上がっていた。
で、私は人数分に切り分けたケーキを並べてトレーに乗せていた。一方勇希の方も上手にお茶を入れていたみたいだった。
「みんな。できたよ」
 勇希の声に治子さん達はわくわくしながらテーブルについていた。
「はい。これ。とりあえずプレーンを切り分けたから食べてみて」
 そんな訳で、私たちは自分が作ったシフォンケーキを味見を兼ねて食べていた。
「あら、以外にふんわりしている。美味しい」
「これなら癖もないから幾らでも入りそう」
「意外と美味しいものだ……。これは病み付きになりそうだよ」
「勇希先輩の腕は凄いです〜」
反応は上々と判断した私と勇希は見えないところでこぶしをつき合わせて喜んでいた。
「あ、そろそろ帰らないとお兄ちゃんが心配するわ。直子さん有難うございました」
「それじゃあ。勇希先輩有難うございました。私も帰ります」
「あ、それじゃあ直子に勇希。今日は有難う楽しかった。参考になったわ。それじゃあ」
「ああ、勇希ちゃん。直ちゃん今日はありがとうね。それじゃあね。明日が楽しみよ〜」
 それぞれがそれぞれの作った目的の物を持って私たちの家から出て行った。皆が去った後私はお茶のカップなどを流しへ並べながら勇希に言っていた。
「勇希。今日は凄かったね。いよいよ明日が勝負の日だね」
「そうね。直子。やるだけやるわよ〜」
「そうね。私も全力をつくすだけよ。それじゃあ勇希お互いにがんばろうね」
「うん」
 そんなこんなで前日の夜は更けていった……。

(続く)


管理人のコメント

 今回はTSっ娘にとってもビッグイベント、バレンタインの話の前編です。直子は料理はそれなりに作りますが、デザートの方は如何に?

>「ふふふ〜。千堂 かずき先生に渡すんだ〜」

 さて、治子のいる世界で「かずき」は「和希」なのでしょうか、「和樹」なのでしょうか(笑)


>「まあ、お菓子屋の陰謀だからね……。でも、いとしい人に渡すというのも悪くは無いわよ」
>「そんなものなのか。いやはや、時の流れとは凄いものだ……」

 蝉代は誰に渡すんでしょうか?


>其処は恋する乙女達なわけで

 半分くらい元男ですけどね(爆)


>「単刀直入に言うわよ。貴方甘いもの大丈夫」
>「まあ、平気だな。甘いものを肴に蒸留酒を飲むのは最高だしな」

 待て。学生だろうがお前は!(笑)
 といいつつ、雄蔵のような趣味は私も持っています。ブランデーとバニラアイスなどは良い組み合わせですね。


>「それにしても、お菓子作りって計量さえしっかりすれば大丈夫と言う事が判ってよかったよ」

 まぁ、お菓子に限らず料理作りは計量が大事です。私は目分量でやっているので、たまに大失敗しますが(笑)。


>思惑通りにふっくらと膨らみやわらかそうなケーキが出来上がっていた。

 基礎ができているだけに、ケーキも上手く焼けた模様。あとは雄蔵がどんな感想を言うかですね。



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