翼持つものたちの夢
霜月天馬
第２３話 〜宴〜
「あ、治子さん。其処の皿をテーブルに運んでくれる」
「はいはい」
居間に戻った私が見たものは、亜矢さんが厨房で鍋を振りつつ、治子さんたちに指示している姿だった。私はすぐにエプロンをつけて台所に立った。
「亜矢さん。何か手伝う事無い」
「無いわね。厨房は蝉代と桜花の二人が居るから並べる方をお願い」
「そういうことなら判りました」
そんな訳で私は治子さんと一緒に給仕をすることになった。まあ、バイト先とは違う場所で治子さんと一緒に給仕をするとは夢にも思っていなかったよ。
で、それから２０分後宴の仕込みも終わり私たちは皆それぞれのめいめいの場所に座っていた。
「ん。直ちゃん乾杯の音頭をとってくれる」
「え、わ、私がですか……」
「そうよ。だって直ちゃんが居なかったらこういうことが起こらなかったからねえ」
「わ、判りました。そういうことなら。僭越ながら……『乾杯』」
「「「「かんぱ〜い」」」」
私の音頭で宴が始まった。なお、今回の宴のメンバーだが、亜矢さん、蝉代さん、治子さん、桜花ちゃんと私の計５名。
勇希は疾風を折檻するべく参加していなかったし、オヤッサンは既に亜矢さんにボコボコにされ、椅子に縛り付けられていた。
「むぐうぐううううううう（亜矢よ悪かったからかんべんしてくれ〜）」
隣の部屋でそんな声が聞こえてはいたが、私も蝉代さんも亜矢さんには逆らわない事にしてるためどうにも手が出せなかった。
ま、室内だから凍死するなんて事は無いからね。それに、あの夫婦もああ見えてかなり熱々夫婦だから問題ないでしょ。
「ねえ〜直子〜飲んでる〜」
「わ、蝉代さんですか……モグモグ……私は飲むより喰う方に忙しいので……モグモグ」
焼酎のビンを片手にもった蝉代さんが私の元にやってきた。
「なによ。つれないな。わたしの酒が飲めないの……」
「わ、わかりました。判ったからそう絡まないでよ」
私は傍らにあった愛用の湯飲みに焼酎を注いでもらいそれを味わうように飲み干した。
「いよ。いい呑みっぷりね。あたしにも頂戴よ」
「はいはい。でも、蝉代さん。呑むのもいいですがこの肴も中々いけるよ。食べるのも良いかと」
「確かにそうね。それじゃあ私も食べるわよ〜」
「おー」
そんなこんなで私と蝉代さんは仲良く飲み食いをしていた。
一方、治子さんたちは……
「桜花。あんたも良い呑みっぷりね……」
「お、お母さん。そ、そんな……。でも、お兄ちゃんやお父さん大丈夫かな……」
「ん。父さんなら大丈夫よ。そろそろ縄抜けする頃だと思うし。まあ、疾風の方は勇希ちゃん次第ね。あ、治子さんいつも桜花がお世話になっています。なにとぞ家のバカ娘をよろしくおねがいしますね……」
「そ、そんな。桜花ちゃんはなかなか優秀な店員ですよ」
「そうですか。治子さんといいましたね。まあ、一杯」
「あ、これはどうも」
「ん。このお酒。おいしい。亜矢さんも一献」
「あ、どうも。それはよかった。地酒だから癖が強いからね。桜花も呑む」
「はい。ですぅ〜」
この三人も多少ギクシャクしつつも、楽しく飲んでいたが、突然扉が開く音が聞こえた。私は丁度とり足のから揚げを口に銜えたまま固まった。
「ぜーぜー。どうにか脱出できたぜい」
「あーなーたー。自力で抜け出てきたわね。まったく。今度直ちゃんや蝉代ちゃんの珠の肌覗いたらこんなものじゃあすまないわよ〜」
「は、はい。すいませんでした……」
「まったく。そんなに見たいならあたしが幾らでもみせてあげるのに……。あなた。罰としてあたしの酒に付き合ってもらうわよ」
「わ、判りました……」
そして、白菊夫妻は奥の部屋に連れて行かれた……。私はオヤッサンの末路を思い思わず合掌していた。亜矢さん。搾り取るのはいいですが、レストアできるくらいの体力は残しておいてくださいよ……。
一方、蝉代さんと治子さんは私が突然合掌した事に驚いていた。
「ね、ねえ。直ちゃん。なぜさっき合掌したの」
「ああ、あれですか。オヤッサンの行く末を案じてね。まあ、亜矢さんは当分尻に敷くでしょうね」
「そう。わたしも亜矢さんだけは敵にまわしたくは無いわね」
「そうね。あの人が本気になるなって向うなら。私も覚悟しないと駄目でしょうね……」
「あ、ごめん。折角の打ち上げだから。治子さん、蝉代さん。呑み直しましょ」
「そうね」
そんなこんなで私たち４人は呑みなおす事にした。そして２時間後〜
「直子〜しぇんぱーい。呑んれますか〜」
「桜花ちゃん。出来上がっちゃったね……」
「そうですね」
「こりゃ〜。なに。せみよさんと〜。ひそひそはにゃしをしているの〜。どうせ、あたしはせみよさんや店長にくりゃべて胸大きくにゃんかないれすよ〜」
そういいながら、桜花ちゃんは着ていた服を脱ぎだしていた。トレナーにシャツをぬいでいよいよブラを外そうとしたところで突然桜花ちゃんの動きが止まり。可愛い寝息を出していた。
「ありゃりゃ。酔いつぶれちゃったか。しょうがない私の部屋に連れて行くか。よいせっと」
私はアルコールの入った状態で半裸の桜花ちゃんを担ぎ上げて私の部屋の寝床に連れてやった。
そして、作業が終わって宴の場所にもどるとすっかり酔いつぶれた治子さんが蝉代さんの膝の上で気持ちよさそうに寝ていた。
「あ、直子。よかった。実はね……」
「ありゃりゃ。しょうがないわね。私の部屋に治子さんも運ぶとしますか。蝉代さん頭の方をお願い」
「わかったわ。いくよ。せーの」
私と蝉代さんの二人は私の部屋の寝台に治子さんを連れて行くことにした。まあ、桜花と一緒になるけれど、其処は勘弁してね……。
そして、私と蝉代さんの二人きりとなった。
「それじゃあ時間も押し迫ったし片付けますか」
「そうね。それじゃあ一緒に片付けてしまいましょ。二人の方が早く片付くから……」
「確かにそうね。それじゃあ一緒に片付けましょ」
そんなこんなで私と蝉代さんの二人は後片付けを済ませていた。そして、その頃には私にも酔いが回ってきていた。
「む〜。蝉代さん。私ももう限界みたいだ……おやすみ……」
それを言い終わったかどうか判らないところで私はソファーの上で崩れるように眠りの世界へ誘われた。
「ちょ、ちょっと直子ったら。しょうがない。毛布を掛けてあげるか。さて、私も少し寝ておかないと持たないわね」
そう言って私は其処にあった毛布を直子に掛けてやり、私も毛布に包まって目を閉じていた。
明日はいい日になると思いながら……。
（続く）
おまけ
折檻された疾風とオヤッサンの二人はあの後かなり衰弱した姿で翌日の朝に出てきていた。
その隣には妙につやつやした勇希と亜矢さんがいた。まあ、疾風とオヤッサンのふたりは相当吸い取られたようね。
まあ、あの二人のことだからすぐに復活するからあまり心配はしていないけれど。
管理人のコメント
飛び初めも終わり、打ち上げということに。このメンツだと料理でも自分で調達して用意できるのが良いですね（笑）。
＞私は治子さんと一緒に給仕をすることになった。
本人も言ってますが、バイト先とやっている事が変わらないというのが笑えます。治子もあまり料理得意じゃないですし。
＞勇希は疾風を折檻するべく参加していなかったし、オヤッサンは既に亜矢さんにボコボコにされ、椅子に縛り付けられていた。
哀れだ。
＞「なによ。つれないな。わたしの酒が飲めないの……」
＞「わ、わかりました。判ったからそう絡まないでよ」
相変わらず、からみ方と答え方が酒飲みです（笑）。
＞桜花ちゃんは着ていた服を脱ぎだしていた。
止めろよ（笑）。
＞私はソファーの上で崩れるように眠りの世界へ誘われた。
まぁ、一日中いろいろありましたしね。
次第に卒業の日も近づいてきて、進路が分かれるのも近い一同ですが、悲壮感がないのは良いことです。さて、次回はどんな事をするんでしょうか。
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