翼持つものたちの夢

霜月天馬

第21話 〜飛び初め 前編〜


『ジリリリリ……パシ』
「う〜ん。ああ〜よく寝た」
 私は寝起きの表情で窓のカーテンを開けて空模様を見て、思わずにやりと笑っていた。
「おっしゃあ。整備した甲斐があったぜい」
 時計を見ると時間は0630を回っていた。 
 私は何時のように洗面所に向かう途中で勇希と出会った。
「勇希。どうやら今日はピーカンの天気になりそうだよ」
「そうね。今外を見たし、それに天気予報でも晴れだって。そういえば小父さんが来るのは何時ごろ」
「えーと確か0800頃だったはず。それまでに私たちも飛行出来るような体制にしたほうが良いね」
「そうね。それじゃあ急いで食事して着替えておこうか……」
「そうだね」
 そんなこんなで私達は急ぐように食事を済ませて、飛行用の装備をつけ、機体に燃料を入れていた。
「直子、燃料OKだよ」
「あいよ。勇希。これからエンジンの試運転を行うから一寸プロペラ周りから離れて」
「離れたよ」
「おっしゃあじゃあエンジン始動するよ」
 私はそう言うなり、ULPの電気系のスイッチをONにしセルスイッチを押した。
『クキュキュキュキュバルンバラバラ』
 エンジンは冷えていたせいか少し始動に手こずったがそれでも素直にエンジンは動いてくれた。まあ、昨日かなり遅くまで手入れをしていた甲斐があったというものだ。私はエンジンがある程度温まったのを確認するとエンジンを止めて、コックピットから降りた。
 ふと、時計を見てみると8時には約5分前であった。ふと外を見てみるとディーゼルエンジンの独特の排気音が聞こえていた。そして格納庫の扉の手前で大型のユニックが止まった。私は咄嗟にユニックのキャブの運転席サイドに駆けていた。
「おはよう直ちゃん」
「おはようございます。今日は宜しく」
「ああ、親父っさん。それに蝉夜さんもおはようございます。ULP一機ですよね……」
「実はな……。2機ある」
「それは意外な誤算ですね。まあ、勇希も技能証明持っているから大丈夫ですが」
「そうか。一機はジャイロコプタータイプともう一機は普通の飛行機と同じ操縦桿で操縦する固定翼機だ。運ぶために分解しているから組み立てるのに格納庫借りるぞ」
「ええ、それは構いませんよ。ついでに道具も使って構いませんから」
「そうか。そういってくれると助かる。疾風達もそろそろ来るはずだ」
「そうですかじゃあ降ろしましょう」
「そうだな」
 そんなこんなで私達は車両からULPの部品を降ろし、すぐさまその部品を格納庫へと運び入れそしてそこで組み立てが行われた。
「うーす。勇希。直子来たぞ〜」
「直子先輩、勇希先輩おはようございます」
「直子。おはよう。約束通り来たぜ」
「直子さんおはようございます。私も来て見ました」
「直ちゃんおはよう……」
「直ちゃん。怪我しないでね。おはよ」
「ああ、小母さんに疾風に桜花、勇蔵に郁美ちゃんに治子さんってもう来たの。今すぐには飛べないから今のうちに着替えておいたほうが良いよ。着替える場所は母屋にあるから……。そうね。あと2時間前後はかかるわね。その間に着替えて自己紹介でもしていて。お茶は母屋に用意してあるから飲んで良いわよ。ああ、勇蔵一寸手伝ってくれる」
「何。疾風達が来たのか。ちょうどいい、おい。疾風、桜花。お前達も手伝え」
「判ったよ。親父」
「判りました」
 そんなこんなで桜花たちも巻き込んで持ち込んだ機体の組み立て、調整作業が順調に進んだ。一方残った3人は……。
「直ちゃんだけでなく勇ちゃんも飛ぶなんてね……。やっぱり血は争えないところね」
「直ちゃんから連絡が来るとはね……。でも、そのおかげでまた飛ぶことが出来るから良しとしますか。もしかして桜花さんの母親ですか」
「そうよ。ああ、自己紹介がまだだったわね。私は白菊亜矢。貴方達は……」
「私は前田治子です。娘さんがバイトしている店の店長代理をしています」
「私は立川郁美です……。直子さんから面白い体験をさせてあげるって言われて来たのですがどういうことをやるのか楽しみです」
「立川……ってあのごつくてガタイの良い男の人の妹さん?」
「はい。そうです。それにしても治子さんっていいましたよね。もしかしておにいちゃん治子さんたちに何かしましたか?」
 郁美ちゃんが心配そうに治子に聞いていた。治子は笑って否定していた。
「ううん。そんなことは無いよ。むしろ直ちゃんの事を思って影ながら護衛していたからね。あの人も表立って動くと目立つからって気を回しちゃってさ。まあ、私らから見ればバレバレなんだけれどね」
「そうでしたか。直子さんとうまくいくと良いですね……」
「そうね。亜矢さんで宜しいですかね……。さっき血は争えないって言ってましたがもしかして小父さんも飛行機好きなんですか」
「ええ。たしかにあの人も飛行機は好きだけれどむしろ直子の父親が大の飛行機好きだったのよ。それがもとで自分も命を落とすことになるほどね……」
「そうだったのですか……」
「それにしても直ちゃんはともかく勇ちゃんまで空を目指すようになるとは思っても居なかったわね」
「小母様は直子さん達のこと詳しそうですが何時頃から……。ああ、すいません不躾な事聞いていたら御免なさい」
「ううん。良いわよ別に。そうね。確か直ちゃん勇ちゃんとは疾風が保育所に入るか入らないか位に出会ったからもうかれこれ15年前後の付き合いになるわね……」
 亜矢さんの答えに2人とも言葉を失っていたが、すぐに治子は気を取り直して話題を変えていた。
「ずいぶん長い付き合いですね。それはそうと、小母さんは飛ぶのですか……」
「ううん。私は遠慮しておくわ。それよりかあの子達が飛行から終わる頃には心身ともに冷え切るはずだから今のうちに熱い物でも用意しておこうかしらね。直ちゃんから台所自由に使っていいって言われているしね。所で治子さんと郁美ちゃんは乗るのね」
「ええ。もちろんそうです」
「わたしも、ちょっと不安ですが乗ろうかと……」
「そう。上空は冷えるわよ。これを使いなさいよ」
 そういって亜矢さんは2人に薄いシャツのようなものを渡していた。
「なんです。この薄いシャツは……」
「ん。これ。電熱服だよ。これをつけていると居ないのとでは寒さが全然違うから。騙されたと思って着てみなさいよ」
「寒冷地仕様のフライトジャケットを持っているけれどそれだけじゃあ持たないかな……」
「うーん。この気温だとそれだけでもいけるかもしれないけれど念のために着て行きなさいよ。暑かったらスイッチを切ればいいだけの話だしさ」
「そうですね。それじゃあ小母様借りますね」
「私も借りていきます。私はそう言う装備を持っていませんから……」
「え、郁美ちゃん持っていないの。私が使っていた装備で良ければ貸そうか」
「え、良いんですか」
「ええ。見たところ私の方が郁美ちゃんよりも背丈が大きいから多分裾や袖が余るかもしれないけれどそれでも折りたためば解決するからね。はいこれ」
亜矢さんはそういって郁美ちゃんにツナギとフライトジャケットとヘッドギアを渡していた。
「これは……。良いんですか……」
「別に構わないわよ」
「では、有難く使わせてもらいます」
 そんなこんなで2人は飛行用の装備をつけていた。なお、治子さんはシャツの上に電熱服、その上にツナギを着用しその上にフライトジャケットを着替えていた。郁美ちゃんも似たような装備であるが……。
 そんなこんなで着替えが終わるころ直子がやって来た。まあ、疾風では女の子の着替えを覗くことになる訳なんで世紀末覇王と黒天使を敵に回さない様にする配慮でもあったが……。
「2人とも着替え終わったか……」
「あ、直子さん終わりましたよ」
「いつでもOKよ」
「そうですか。小母さんはやっぱり飛ばないんですね……」
「ええ。直ちゃん私はやっぱり……」
「いえ、別に無理しなくてもいいですよ。さて、それじゃあいこうか」
 私は治子さんたちに伝えていた。
「判ったわ。それじゃあ行こう」
「どういう風になるのか楽しみです……」
 そう言って私は2人を格納庫に案内していた。格納庫では勇希たちがそれぞれ準備を済ませ機体の周りに集まっていた。
 まあ、本日がこの場所での最後の飛行だ。この飛行が終われば私たちはそれぞれの道を歩むために別れることになるだろう。
 だからこそ私たちは思い出としてこの飛行計画を立ち上げたのだから、悔いのないようにするだけだ。
  

(続く)

あとがき

 ども、霜月です。いよいよ高校生活も大詰めのところまできました。まあ、よていでは26話くらいで一部をやろうとしていましたが、
もしかしたら多少ずれ込むかもしれませんね。まあ、第二部では新キャラも登場予定ってところですね。それじゃあ
この辺で……。

管理人のコメント

 直子と立川兄妹のフライトの日になりました。今回はまだ準備段階のようですが。
 見せ場は次回になると思うので、今回は特に気になるところもないのですが、ひとつだけ。
 
>まあ、本日がこの場所での最後の飛行だ。この飛行が終われば私たちはそれぞれの道を歩むために別れることになるだろう。
 
「私たち」というのがどのくらいの範囲を指してるのかが気になりますね。直子と疾風・桜花は違う道を行くんでしょうけど、立川兄妹はどうなるんでしょうか。


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