翼持つものたちの夢

霜月天馬

第17話〜生徒の本分 後編



 がりがり、がりがり……
 ここは晴空高校3−Dの教室。普段ならば教師のだみ声とチョークのこする音が響き渡るこの教室も
 今日は紙に鉛筆をなぞる音だけが響き渡っている。なぜならば、彼女達は今試験を受けている最中だからだ。
『キーンコーン・カーンコーン』
「よし。止め。各自答案用紙を出せ」
 教師の声にそれぞれが答案用紙を出しに席を立つもちろん私も勇希も例外ではない。
 そしておのおのが提出し、教師が教室から出ると回りは弛緩した空気が漂ってきていた。
「はあ〜。これで全過程が終了したわけか。まあ、やるだけのことはやった。どういう結果が出るのか
 判らないけれど、こうなったらまな板の上の鯉だな」
「たしかにそうね。直子、これからどうするの。あたしは……」
「あー。言わなくてもわかる終わったから疾風とラブラブデートでしょ。そうね。今日は天気も良いし
 雄蔵を誘ってひさびさにULPをひっぱりだそうかね」
 私がそういうと勇希がにやけた表情で私に言っていた。
「ふーん。ま、直子も意外とラブラブなことするわね……。直子もうまくやりなさいよ。これあたしからのプレゼントね……」
 そう言って勇希は私に小箱を渡してくれた。中身を見て私は絶句していた……
「まあ、しっかりやんなさい。疾風行こうか……」
「おうよ。勇希……」
 そう言って二人は仲むつまじく教室から去っていった。去っていく様子を呆然と見ていたが、私はすぐさま気を取り直して雄蔵がいるクラスに殴りこみをかけるべく気合を入れて駆け込んでいった。
「立川はいるか……」
 私は教室の出入り口で声を上げると一人の女性が間に入ってきた。
「おや、歩じゃあない。あなたと雄蔵が一緒のクラスだったとはね」
「直子はんか。あんのじょうつきおうとるんやな。彼ならさっき教室をでていったで」
「そう、ありがとう。それじゃあね」
 私は二、三礼を言って彼を追撃するべく玄関に向けて駆け出していた。案の定、昇降口付近で彼を捉えることに成功し私は彼の背中に思いっきり抱きついていた。
「雄蔵。今日暇。暇なら私に付き合ってくれる。駄目ならあきらめるけど……」
「ああ、かまわないぜ。何処に行こうというのだ」
「ん。とりあえず私の家に来てくれる。天気が良いからあんたを飛ばしてやるよ」
「まさか、薬か。直子アレだけはやめておけ。あれは体をボロボロにするぞ」
 それを聞いた私は大笑いしていた。
「雄蔵それ。とんだ勘違いだよ。あんたを飛行機に乗せてやるという意味で飛ばしてやるって言ったのだけれどね。嫌か」
「飛行機か。どんな飛行機なんだ」
「ん。ULP(ウルトラライトプレーン)さ。バイクのエンジンを積んだハンググライダーと思ってくれればいい。そいつで雄蔵をとばしてやるよ」
「そうだったのか。俺が空を飛ぶなんてそれも小型機に乗る機会なんてそうないからな。折角のチャンスだ、遠慮なく受けるぞ。直子」
「それじゃあ。行こうか」
「ああ」
 そんなこんなで私達二人はいろいろと駄弁りながら私の家の格納庫へと歩を進めていた。
 そして……
「ここさ。一寸待っていて今、扉を開けるから」
『ギギギギ』
 重い鉄の扉が開く音が当たりに響きそして格納庫内部に灯りが点灯したことを確認して私は彼を手招きで誘った。
「こ、こいつは……。すげー93式中間練習機かよ。現物を見るのは初めてだぜ。動くのか」
「ん。残念ながらこいつは動かない。でもね、いつかこいつを飛ばすのが私の夢さ。今、私達が飛ぶのこっちの飛行機だよ」
 そう言って私は隣のULPの燃料、電気系等のチェックと補給を行なっていた。
「さて、こいつを外の滑走路まで運ぶけれど、雄蔵悪いけれどそっちもってくれない」
「わかった。機体後部を押せばいいのだな。おいせ」
 さすがに男の力は凄いものだ。私がいかに力があったとしても男子の力には及びも付かない訳で
 すぐさま表のエプロンに引っ張り出すことが出来た。そこで私は雄蔵にゴーグルと防寒用のジャケットを渡そうとしたが彼は笑ってことわっていた。
「いいの。上空は冷えるよ」
「ああ、防寒服ならこれがある」
 そう言って彼は鞄の中から私が彼にあげたマントを装備していた。
「そう。それじゃあゴーグルは装備しておいたほうがいい。なにせ風防が無いから風圧を直接被ることになるよ。さて、それじゃあ私も着替えるかね」
「そうか。ゴーグルは借りさせてもらうぜ」
 そう言って私はジャケットを着て、そしてゴーグルを着けてULPの操縦席について舵などの作動チェックを行なっていた。そして
「またせたな。俺は準備OKだ。どっちに乗れば良いのだ」
「そうね。それじゃあ雄蔵は前席にのって。でも、操縦桿とかには触らないで。それとこれ」
「わかった。で、これはなんだ」
「ん。ヘッドセット。これで機内で会話が出来るわけ」
「そうか。使わせてもらうぞ」
 そう言って彼は前席にのりこみかなり手馴れた手つきで座席ベルトを締め、ヘッドセットを着けた。
 その様子をみた私もまた後部座席に乗り込み座席ベルトを締めた後ヘッドセットを被った後、エンジン始動ボタンを押した。

クキュキュキュキュキュ
クキュキュキュ バリパリパリ

 エンジンが動いたことを確認し、油圧、水温、油温が規定圧まであがったことを確認した後、私はスロットルを少し動かしてゆっくりと滑走路に向けて地上滑走を行い滑走路端まで機体をもって行き、そして、そこで一度ブレーキを掛けて風向計と計器チェックを行ない、異常が無いことを確認し風向を
確認。
 やや、向かい風。いけると判断し私はスロットルレバーを全開の位置にもって行き滑走を始めた。
 すぐさま、翼が揚力を得て、車輪が地面から浮き上がったことを感じると私はすぐさま操縦桿をゆっくりと手前に引いて上昇行動を行なったのである。そして規定高度に達すると操縦桿を戻し、水平飛行に移ると同時にヘッドセットのスイッチを入れた。
「雄蔵どう。空を飛ぶと言う感じは」
「確かに、こいつは癖になりそうだな。悪くないぜ直子」
「そう、それを聞いて私は嬉しいよ。しばらく飛ぶよ」
「ああ、頼むな。直子。君に俺の命預けるぞ」
 私は会話をしつつ回りの目視、そして計器の確認をしながら機を操縦していた。しばらく飛んでいると上空に雨雲が広がり始めていた。
「雄蔵。天気がやばくなってきた。降りるよ」
「判った。何をすればいいのだ」
「あわてずに動かないでくれればいい。下手に動かれるとバランスが取りにくくなるから」
「判った。しっかりやってくれよ」
「あいよ」
 幸い、滑走路から1キロと離れていない状態だったので私はすぐさま風を読み風に正対するように機を旋回させながら滑走路へと着陸に入った。
 そして車輪が地面に接触する直前、突風にあおられたが、とっさに方向舵を切って何とか着陸に成功させ、即座に滑走で格納庫入り口まで機を動かしそこでエンジンを切った。エンジンの回転がとまり、プロペラの回転が止まったところで私は座席ベルトを外して前に向かった。
「雄蔵、大丈夫か生きているか。生きていたら返事しろ……」
「ああ、俺は大丈夫だ。それにしても最後の着陸は死ぬかと思ったぜ……」
「そうか。無事ならよかった。小型軽量の機体だから悪天候に巻き込まれたらひとたまりも無いから着陸を最優先に考えたんだけれど、ごめんね……」
「別にかまわんよ。なあ、直子。また今度空につれてってくれるか」
「いいわよ。お望みとあらば何度でも飛ばしてあげるよ」
「そうか。ありがとうな。直子」
 それを聞いた私は彼の座席ベルトを外してやって機体から下ろすために手を差し伸べていた。
 彼はその手を握って機を降りていた。
「ん。じゃあまた機体を入れるの手伝ってくれるかい」
「おうよ。俺の力見せてやる」
 そういうと彼は一人で機体を格納庫に押していた。その様子を見ていた私はしばし、呆然としていたが、直に気を取り直して彼にお礼をいっていた。
「雄蔵、ありがとう。あなたにはいつも世話になってばかりだね」
「ん。別にかまわないさ。俺は直子。君のことが好きだぜ」
 その言葉を聴いた私は思わず手に取っていたスパナを落としていた。
「雄蔵、それ。本当。うそじゃあないわよね」
「ああ、本気さ。その証拠に……」
「ん……」
 そう、私達は薄暗くなった格納庫で雄蔵と情熱的な口付けを交わしていた……。
「ぷはっ」
「貴方の気持ちは確かに受けたわ……。でも、私は卒業と同時にこの地を離れねばならない身。雄蔵、貴方それでもいいの」
「ああ、それでも、俺の気持ちは変わらないぜ」
「そう、ありがとう嬉しいよ」
 私はそう言って彼に思いっきり抱きついた。そして彼と再び濃厚な口付けを交わしていた……。
「直子。君のすべてが欲しい。抱くぞ……」
「雄蔵、ごめん今日は無理……」
「何故に……」
「その……月からの定期便……。もう、察してよ」
 私は完熟したトマトのように真っ赤にしながら言っていた。それを聞いて彼もすぐさま察したらしく真っ赤になっていた。
「そうか。それじゃあ仕方ないな。俺は何時までも待つぜ」
「うん。私もあなたの事、好きよ。帰り道送ろうか」
「いや、いい。女の子は腰を冷やしちゃ駄目だからな。体を大事にしろよ」
「雄蔵、ありがとう。それじゃあまた明日」
「おうよ。じゃあな」
 そう言って雄蔵が去っていった。
「今度、あいつに弁当作ってやろうかな……」
 私がそういうと後ろから勇希がにやけながら私のうしろから息を吹きかけてきた。
「んぎゃ。だれ……って勇希かよ心臓に悪い」
「ふーん、結構いい感じに行っている見たいね。どう、あたしのプレゼント使った」
「ん。残念だけど使っていないわよ。もっとも、そう遠くない将来役に立つかもね……。勇希の方は
 今日どうだったのよラブラブだったのか」
「まあね。疾風ったら強引で……って何言わせるのよ……。直子罰としてあんたが今日の晩御飯作りなさいよ」
「はい。はい」
 私はちょっとつつきすぎたことに後悔しつつも、晩御飯の仕度をおこなうのであった。

 それから数日後……
「いよいよ。結果発表ね。なんかドキドキするよ」
「確かに。どんな結果になったとしても私は後悔はしないよ」
「そう。直子は強いのね」
 私と勇希は人だかりの多い掲示板を見て絶句していた。
「勇希。やったぞ。私達の補習は回避されたぞ。喜べ」
「あ、本当だ。やった。やった」
「おう、どうやら。これで無罪放免だな。今度こそ」
「直子よかったな」
「疾風、雄蔵。やったよ。あんた達のおかげだよ」
 そう言って私達4人はお互いに喜んでいた。まあ、それぞれ思惑は違えども、それでもお互いに水いらずなときが過ごせる事に喜びを感じていた。

                                                       (続く)
補足
 彼女達の期末試験の結果は以下の通り
 深山 直子 982 学年5位
 深山 勇希 971 学年8位
 白菊 疾風 995 学年1位
 立川 雄蔵 985 学年4位
  舞方 香菜 992 学年2位
 藤原 雅   990 学年3位
 木瀬 歩   840 学年32位


管理人のコメント


直子たちの冬の予定を賭けた期末試験も本番は終わり、結果を待つ日の話。直子と雄蔵の恋模様は?


>雄蔵を誘ってひさびさにULPをひっぱりだそうかね

こういうことが出来るのが、この話ならではのデートと申しますか。


>これあたしからのプレゼントね

まぁ、皆さん中身は大体想像つくと思いますが。え? わからない? そんなジョークはお兄さん認めません(謎)。


>まさか、薬か。

ULPより先に雄蔵の思考が飛んでます(爆)。


>俺は直子。君のことが好きだぜ

漢らしい直球勝負ですねー。


こうして直子の恋も実り、期末試験も無事突破。彼女たちは冬休みをどう過ごしていくのでしょうか?


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