翼持つものたちの夢

霜月天馬

第16話〜生徒の本分 前編



「だから、勇希。ここにXを代入すれば、この式は解けるんだよ」
「そっか。なるほどね。どうやらあたし難しく考えてみたいね。そうかそうか。公式をそのまま入れると良かったんだ。ありがと疾風」
「ああ、別にいいぜ。それにしても俺と同じところを目指すならばもっともっと、勉学に励まないとな」
「あう〜。やるしかないわね。あたしは直子みたいに才能があるわけじゃあない。けれど才能が無くても才能のある奴の倍以上努力すれば凌ぐ事も可能だってことを証明してやる」
「その意気だ勇希。そしたら次の問題もやろうな」
「は〜い」
「八幡製鉄所の設立っていつだったかな」
「1901年だ。直子」
「ありがと。雄蔵」
「別にかまわんさ。しっかし、直子は歴史が今ひとつだな」
そう、私達は2学期の期末試験に備えての勉強会を私達の家の居間で行なっていた。
ちなみに前回の中間試験の順位は・・・。

白菊疾風・・・486点 学年2位  男子の中では最高位。巻き返しを狙っているようだ。
深山直子・・・469点 学年8位  もともと頭は悪くは無いのである。
深山勇希・・・449点 学年12位 直子につられて努力していたらそうなった。
舞方香菜・・・490点 学年1位  ある意味、直子をしのぐ人である。

とまあ、意外とこの4名が上位を占めていたのであった。ちなみに私達の知り合いの成績は・・・。

立川雄蔵・・・478点 学年4位 意外ではあるが、まあ、目標を持った故ともいえよう。
藤原 雅・・・481点 学年3位 委員長と並び晴空の2大巨頭は伊達じゃあ無い。
木瀬 歩・・・398点 学年40位 他の連中に比べれば劣るもののそれでもかなりの上位である。。

まあ、私達の知り合い達は8クラス320人中ではトップクラスの人間達なんだが、逆に自己主張が強すぎる為に、教師達からにらまれている連中でもあるのだ。
まあ、私や勇希、疾風の3人は無断でバイトしてそれがばれて査問会で私が教師をぶん殴って停学を食らった訳だが、その上さらにとんでもない条件が加算されていた。私達3人が次の期末試験で総合10位以内に入るのが条件であった。
なお、その条件に一人でも入らなければ3人とも冬休みの特別補習を受けねばならないのであった。
まあ、少なくても疾風はそれほど苦労はしないが、問題はかなりヤバイ勇希と一寸ヤバイ私である。
その勇希を助けるため、私達の冬の稼ぎ時を確保するべく私達は奮闘していた。
「センセももなかなかキツイ条件を出してくれるわね」
「勇希。無駄口叩く暇があるなら、手を動かせ。頭を動かせ。時間は少ないのだぞ」
「判ったわよ・・・」
「直子。ここはどうすりゃいいんだ」
「ああ、この問題はねここに、Yを掛けるのさ。疾風」
「おお、そうか。ありがとな」
と、まあ。お互い判らないところを教えあいながら効率よく濃密な勉強を行なっていた。なお、今回の
期末試験は数学1,2.英文法、英語。物理、化学。国語、古典、歴史、地理の10科目1000点
満点で競われる試験である。もちろん結果は掲示板にでかでかと貼り出されるので、成績は一目瞭然
と言うしだいである。
なお、私たち4人はそれぞれ得意分野を使って教えあっていた。まあ、成績優秀な連中がお互いに
補完しあいながら勉強をするので、その相乗効果たるや・・・。
「わ、もうこんな時間。2時間ほどやっていただけなのに8時間以上勉強したような感じだよ」
「た、たしかにそうだな。直子も凄いぜ」
「それを言うなら雄蔵も、初めてなのについてきたね。というか、本来ならば体力ではあんた達のほうが上だもんね」
「そうだよな。しかし上位の比率が女子のほうが上なんだから一寸癪だけれどしかたないな」
「あんた達、もう遅いけれど晩飯食っていくか」
私がそういうと、疾風と雄蔵は同時に答えていた。
「「もちろん(だぜ、だ)」」
「判った。それじゃあ勇希。いこ」
そんなこんなで、私と勇希は晩飯の支度をするために台所へと消えていった。一方残った男連中は・・・
「いやはや、直子って凄い女性だぜ。俺もうかうかしていられないぜ」
「たしかにそうだな。まあ、直子達も考えてみれば悲惨な境遇でな。直子の母親はあいつが幼い頃に
死んで、親父さんもあいつが小学生の頃に飛行機で行方不明になっちまってな。その後勇希の両親に
引き取られたが、その両親もこの春に事故でな・・・」
「疾風。なぜそんなことをしっているのだ。それが疑問だな」
「ああ、簡単な話さ。俺の親父とあいつらの父親とは親友だったのさ。そんで親父が勇希たちの身元引受人をやっているわけさ。それに俺も勇希たちとはガキの頃からの付き合いでな」
「ほう。それで疾風。君は勇希に惚れてしまったわけか」
「そういうことだな立川。君は直子と遣り合っているうちに一目惚れか」
「そうだな。そうなんだろうな。ところで、疾風。俺のことは雄蔵でいい」
「そうか。雄蔵よ。直子をものにしようとするなら”北風と太陽”だぜ」
「そうか。貴重な意見をありがとうな。まあ、お互い尻に敷かれないようにしないとな」
居間で男達が駄弁っている最中台所では・・・。
「直子、下拵えできてる。出来ていたらあたしのところ手伝って」
「出来ている。この鍋を振ればいいんだな」
「ある程度具に火が入ったら隣の鍋のスープ入れてくれる。あたしは盛り付けをするから」
「判ったよ。飯食ったらまた勉強だから簡単なものでいいな。っと出来た」
「こっちもOKね。それじゃああいつらを呼ぶか」
「そうね。あんた達ご飯出来たよ〜」
「わかった」
「おうよ」
そんなこんなで私達の食事となったのである。なお、今回の献立は野菜スープと飯という完全なありあわせであるが、皆腹が減っていたのでもくもくと食っていた。そして食事も終わり、10分ほど休んだ後に再び勉強をはじめたのであった。なお、バイトは勇希は既に受験のために辞めたが、私は受験をしくじって浪人が確定している上に生活費を稼がねばならないため継続している。
店長代理の治子さんに頼んで試験期間中は特別に休みを貰ったので試験期間だけはバイトの憂いも無く勉強に励むことができたが、冬休みは年末年始の休み以外フル出動の条件を貰った為になんとしても勇希を10位以内に入れなければならなかった。まあ、私も一寸やばいので渡りに船としてガンガン勉強した。
そして時計の針が23時近くになった頃・・・。
「ん〜。勇希。これ以上続けてやっても、効率が落ちるから今日はこの辺にしておくか」
「そうね。直子、疾風。それに雄蔵さんありがとうね。あたしの為にこのお礼はきっとするから」
「礼なんていいぜ。体で・・・ぐは」
疾風がそう言い終わる前に私が一撃を食らわしていた。
「雄蔵。あんたバスでしょ。バスが終わったけれど、どうするの」
「ああ、歩いて帰る。30キロほど離れているが5時間あればなんとか帰れるだろう」
「それなら私が送るよ」
「良いのか。でも、どうやって」
雄蔵の質問に私はにやけながら答えていた。
「ん。くれば判るよついてきて」
私はそう言って母屋を出て農機具の格納してある倉庫へと向かい。そして、被せてあるシートをめくりあげて、黒光りする物を彼に見せていた。
「直子、こいつは・・・。V-Maxじゃあないか。J仕様か」
「まさか。US仕様さそれも初期型で、リミッターカットとボアアップしているから220馬力はでるよ。こいつであんたを送ってやるよ」
「すげーな。んで、免許はあるのか」
「もちろん。大型自動二輪を持っているよ」
「無許可だよな。二輪は規定で禁止されているからな。しかし、なぜ4輪はOKで2輪は駄目なんだ。暴走族は2輪よりか4輪のほうがよほど質が悪いのにな」
「そうだよね。そこが納得いかないよ。後は免許としては普通車、大型特殊、けん引もあるよ。お金がないから試験場で直接ね」
「そうか。さて、それじゃあ俺の命。直子に預けるぞ」
「ん。判った。じゃあこれを被って」
私はそう言って彼に鉄製のヘルメットをわたしていた。ついでに私もジェット用ヘルメットを装着し、手にはライダーグローブを装備し、バイクのエンジンを始動させた。そんでもって雄蔵があたしの後ろに乗り込んでのを確認してから一言言った。
「雄蔵、私の腰のベルトを掴んで良いよ。胸掴んだら張ったおす・・・」
「おうよ。しっかし、狭いな。ん。それじゃあお手柔らかに・・・うぉ」
雄蔵言うや否や私は豪快にアクセルを開けて納屋からカタパルトで射出された飛行機の如く飛び出していた。
そして20分後・・・・
「ついたよ。雄蔵。ここで間違いないわね」
「あ、ああ。間違いないぜ。ありがとう。帰り道事故るなよ」
「じゃあ。あした学校で。ありがとう」
「そうだな。お互い試験でいい成績を残すだけだな。じゃあな」
そういって彼はふらつきながら家へと消えていった・・・。その様子を見守った私もまたバイクを始動
させ、アクセルターンさせて家路へとつくのであった。
 

                                                        (続く)

あとがき
 前回のあとがきで避けては通れないイベントとは学生をやっている以上一番嫌なイベントでもある
定期試験前日の勉強会をえがいてみました。今後のシリーズとしてとりあえず一部を25話前後で
完結しようと考えていますね。その後第二部を構想といったところでしょうか。それでは・・・。


管理人のコメント


直子たちも平凡ではありませんが学生なわけで、当然試験も避けて通れないイベント。今回はその話です。

>自己主張が強すぎる為に、教師達からにらまれている連中でもあるのだ

 まぁ、一筋縄ではいかない連中ばかりですしね。教師側としても頭の痛い事でしょう(笑)。


>その条件に一人でも入らなければ3人とも冬休みの特別補習を受けねばならない

 もともと成績優秀な人間が補習を受けてもつまらない事は明白。確かにこれは嫌な条件です。


>「勇希。無駄口叩く暇があるなら、手を動かせ。頭を動かせ。時間は少ないのだぞ」

 雄蔵……なんか重くていいなぁ。


>「そうか。雄蔵よ。直子をものにしようとするなら”北風と太陽”だぜ」

 役に立つんだか立たないんだか、いまいち良くわからないアドバイスです。


>お互い尻に敷かれないようにしないとな

 もう無理ぽ(笑)


>V-Maxじゃあないか

 ヤマハのバイクで、0-400の加速度はF-1マシン並みと言う怪物。男でも乗りこなすのは大変なじゃじゃ馬バイクです。こんなの何時買ったんだ直子よ……


 というわけで、次回はいよいよ試験。まぁ、あまり心配なさそうな感じではありますが、直子たちは冬休みバイト権を勝ち取れるでしょうか?


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