翼持つものたちの夢

霜月天馬

第15話 恋の予感?



「ふんふん〜ふ〜ん」
「直子ったらいつに無く張り切っているわね……」 
「まあね。でも、勇希だって疾風のデートの時には浮かれていたじゃない。お互い様よ」
 私は勇希に言いながら、制服に袖を通していた。まあ、本来ならば勝負用の一張羅を引っ張り出すところであるが、下手な格好をしてもヤバイので無難な路線で行くことにした。
「勇希それじゃあ行ってくる。直行するからPiaで会おう」
 私はそう言って、勉強用のノートやらテキストが詰まった鞄を肩に掛けて家の扉をあけて集合場所である晴空高校の校門前に向かうことにした。
「うーん。一体どんな顔して待ち合わせしていようかな……」
 なんて考えながら歩いていくとすぐさま目的地に着いていた。そして、ふと見てみるとすでにあいつは来ていた。私は腕のクロノグラフを見てみたがまだ予定時刻の30分前だった。
「やあ、早かったな」
「一つ聞いていいかな。貴方、一体何時からこの場所にいたの」
「ん、大体90分前って所かな。それにしても、この前のドレスもよかったが制服姿もなかなかなものだな」
「そう。そう言ってくれるのって雄蔵,貴方だけだよ。さて、それじゃあ行こうか」
「ああ。そうだな」
 そう言って私達二人は図書館に向かって歩いていた。そして、そこの自習室で私は彼に勉強を教えるつもりでいたが実際は……。
「だからここにYを入れるといいんだよ」
「ああ、なるほど。なるほど。難しいと思っていたけれど見方を変えてみてみるとあっけなく回答できたよ。私が教えてあげるつもりだったけれど、これじゃあアベコベになっちゃったようね……」
 私は彼に勉強を教えてあげるつもりであったが実際は逆に教わる破目になっていた。
 私は申し訳なさそうに雄蔵にいうと雄蔵は笑ってこたえていた。
「まあ、俺も医学部を目指すつもりだからな。それに直子。君の発想は斬新だよ。お互いに鍛えられるからよしとしようではないか」
「そうね。そういうことにしておくわね。あ、いけな〜い私、昼からお仕事があるんだった。いかないと」
 ふと、私が時計を見るとすでに12時近くになっていた。それをみて私はすぐさま鞄に勉強用具を詰め込んで席を立とうとすると彼も手伝ってくれた。
「そうだったな。わざわざ教えてくれて感謝するぞ。なんなら送ってやる」
「いや、別にお礼なんかいらないよ。それに私のほうこそ新たな考え方を教えてくれたから私の方こそお礼を言わないとね。でも、折角だから貴方のエスコートを受けるよ」
「そうか。それじゃあ場所を教えてくれるか案内するぞ」
 そんなこんなで私は雄蔵と一緒にバイト先であるPiaキャロット3号店へとむかっていた。私はその時、強力な護衛機に守られた爆撃機の如く安心しきっていた。そして、私にとってなんとも言えないような幸福感に包まれたひと時が終わった。
「ほら、ここで良いのか」
「ええ、良いわよありがとう。じゃあまたね。私、貴方のこと嫌いじゃあないから……
また勉強教えてほしい。それじゃ」
「ああ、俺でよければいつでも相手になってやるぞ。ま、しっかり稼ぎな」
 そんな会話をしながら彼は去っていった。去っていく姿を見て私はなんともいえない喪失感を感じていた。
「直子……。何惚けているのよ。ほら、仕事だよ。仕事。仕事しないと飯の食い上げだよ」
「あ、ああ。そうね。そうだったねそれじゃあ行こうか勇希」
 そんなこんなで私は半分ぎこちない様子で勇希の後について仕事の準備をすることになったのであるが、まあ、本日の結果は散々であった。
 そして、バイトが終わってそれぞれが家路に着く頃。
「それじゃあ。治子さんお疲れさんです」
「ええ、それじゃあね。ああ、そうだ勇希ちゃん一寸いいかしら」
「ん。何ですか治子さん。直子先に行っていて」
「判った。それじゃあ勇希、私、先に行っているから」
 そういうわけで私は勇希達と別れて先に家路についていた。一方、勇希たちは……。
「ねえ、ねえ。直子ちゃんの今日の様子がおかしかったけれど勇希ちゃんは何か心当たりがあるかしら」
「ん〜。まさかとはおもうけれど、あの様子だとあの娘たぶんお医者様でも草津の湯でもって奴を患っているね」
 あたしがそういうと治子さんは意外そうな表情をしていた。まあ、そういう反応をするのが普通なんだけれどね。
「へ〜。あの直子ちゃんが恋わずらいねえ。私もそんな体験をしてみたいものね」
「え、もしかして治子さんにはいないの。その、気になるような男が」
「ん。いないというか幼馴染というか腐れ縁な奴はいるんだけれどね。それがものすごくスケベでね。いつも”男の浪漫”を追求している奴なんだけれどなぜか憎めなくてねえ」
「ふーん。でも、意外とそういう関係ってきっかけさえあれば一気に恋愛関係にまでいくわね」
「そうなんだ。こうなったら今度、あいつにアタック掛けてやろうかしら」
「治子さん……貴方も大胆なことをするわね」
「あら、勇希ちゃんに比べればまだまだだよ。だって私や直ちゃんがいる目の前で堂々と告白するなんてねえ。そのあともすごくラブラブしていたじゃない」
「あううう。そうでしたね。でも、疾風に聞きましたよ。疾風を焚きつけたのが治子さん貴方だってことをね。まあ、直子たちの恋が上手くいくといいけど、でもあたし達は……」
 そう、あたしは言いよどんでいた。そう、あたし達は春にはこの地を離れなければならない事になっているからだ。
 あたしが直子のことを思い悩んでいると治子さんが急にあたしの背中を叩いていた。
「だいじょうぶよ。直ちゃんなら。だって、彼女はケースハード処理された鉄のような女性だからね」
「治子さん、ケースハードってまあ、確かに表面は焼きが入っているけれど芯は柔軟だしね」
「でしょ。だからどんな状況になってもきっと大丈夫よ」
「でも、あの娘。恋愛関係に関しては奥手だからねえ。そこが心配だよ」
「そうね。でも、残酷かもしれないけれど私達がとやかく言う領域じゃあないからね。さて、そろそろひきあげようか」
 そんなこんなで、勇希達が引き上げようとしているころ直子は……。
『こんど。あいつの為に昼飯のお弁当を用意してあげようかしらね』
 私はそんなことを考えながら、店の出口を出てしばらく歩いていると、うしろから突然声を掛けられた。そこで私はすかさず護身用の短刀をいつでも抜ける状態で後ろを向いた。
 すると、そこには全身濡れ鼠になっている雄蔵がいた。
「雄蔵。あんたどうしたのこんなに濡れて」
「ああ、直子。君が濡れるといけないと思ってな。これを渡そうとしたんだ」
 雄蔵はそういうと懐から折りたたみ式の傘を取り出していた。
「もしかして、私が雨に降られて困っていると思って、ここで待っていたわけ。雨が降っていたのって2時間前の状況だよ。早いところ帰って風呂に入るか着替えないと風邪引くわよ。あんたが肺炎を起こして死んじゃったなんてことになったら、私はとても寝覚めが悪いしね。これを着て早く家にかえりなさいよ」
 私はそういって彼にごつい布を渡していた。
「すまないな。このマントは明日にでも返す」
 雄蔵がそう言うと私はかぶりをふって返事をしていた。
「ああ、別に返さなくてもいいよ。貴方にあげるよ。これからどんどん気温が下がるからその格好じゃあ凍死するよ。ここの冬の夜は氷点下10℃以下に下がることも珍しくないから」
「そうか。すまないが、一つ聞いてもいいか。もしかしてこれって直子。君の手製か」
「そうだよ。まあ、ベースはトラックの幌と毛布を組み合わせて作った奴だけどね。私には大きすぎて地面をすってしまうけれど、雄蔵。あんたの背丈ならちょうどぴったりだよ」
「そうか。このマント心して使わせてもらうぜ」
「そう、それじゃ。私はこれで……」
 私はそういうと脱兎の如く彼の前から走り去った。

 一方、勇希たちは……。
「そうなんですか。東京か。あたしは航空関係の学校を目指すから合格すれば北陸へ行くことになりますね。直子はおそらく浪人しても航空学生をめざすでしょうね。あたし達貧乏人がパイロットを目指すコースは限られますから。治子さんとは道が別れるけれど、これも運命でしょうね」
「たしかにそうね。でも、生きていればまたどこかで会えるわよ。死なない限りはね」
「治子さん……。まあ、確かに生きてさえいればどこかで会えますがね。あれ、あいつは……」
 あたしはふと周りを見るといかつい男がひとり歩道の片隅で惚けていたのを見かけ、普段ならば無視して通過したけれど、あいつが直子のマントを着けていたのが気になった。
「あれ、失礼ですがそのマントだれから……って。立川雄蔵じゃあない」
 あたしがたずねると彼もあたしに気づいたようであった。
「ああ、勇希だな。このマントは直子から貰った。あいつを待っていて濡れ鼠になっていた俺を思ってかもしれないが、なかなかできることじゃあないな。俺は直子のことがますます知りたくなったぜ。直子にあったら言っておいてくれ。これが俺の連絡先だ。連絡待っているってな」
 彼はあたしに連絡先の書いたメモ紙を渡すと私達の元から去っていった。
「どうやら、直ちゃんの恋の行方は面白くなりそうね」
「治子さん……。まあ、そうかもしれませんね。この二人の恋が実るかどうか判らないけれど、上手くいくと良いですね。さて、それじゃあ直子が待っているからあたしはこれで」
「そう。それじゃあまたね」
 そう言ってあたしは治子さんと別れて先に言っている直子に会うべく駆け足で直子の待つ家へと取って返した。まあ、かつてあたしと疾風の仲を取り持ってくれたお礼を兼ねて、預かったメモを渡すべく急ぐのであった。

(続く)

あとがき

 えーと。今回のお話は14話でタイマンをはった直子と雄蔵のやり取りのエピソードを出してみました。さて、次回からは、学生をやっている以上避けては通れないイベントでのエピソードにスポットを当ててみる予定です。はて、さて、直子達はどんな結果が出てくるのか。
それでは次の物語で会いましょう。


管理人のコメント

 拳の友情ならぬ愛情に目覚めた(?)直子と雄蔵。今日は初めていっしょに行動する日です。

>無難な路線で行くことにした。

 まぁ、直子はどこかセンスがずれてますからねぇ(笑)。とは言っても番長ルックの雄蔵も似たようなものなんですが。


>私は彼に勉強を教えてあげるつもりであったが実際は逆に教わる破目になっていた。

意外にも雄蔵は勉強が出来たようです。医学部志望って言う事は、やっぱり妹のためなんでしょうか。


>強力な護衛機に守られた爆撃機の如く

 その例えは恋する乙女としてどうかと思うぞ直子。


>いつも”男の浪漫”を追求している奴なんだけれどなぜか憎めなくてねえ

 真士の事なのか……この口ぶりだとお友達確定ですね。まぁ、治子は本編でも百合なのでアレですが(暴言)。


>「たしかにそうね。でも、生きていればまたどこかで会えるわよ。死なない限りはね」

 何で無意味にハードボイルドなんだ治子(笑)。

 という感じで、ちょっと二人の仲は前進したようです。


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