翼持つものたちの夢

霜月天馬

第14話 どたばた文化祭 2日目後編



『治子さん・・・この下着心して使わせてもらうよ・・・』
 私は更衣室で以前治子さんと一緒に買い物したときに購入した下着を着用していた。
「へ〜。直子〜。随分と派手でセクシーな下着じゃあないのいつもなら白か淡い色の実用本位の下着なのにね・・・」
「まあ、私もせめてこのとき位はきっちりとしておかないとね」
 そういいつつ私は黒のブラにショーツ、ガーターといった。下着を着用していた。私なりにここぞというチャンスが今と判断したのであったが・・・。
「直子〜。その下着何処で入手したのか教えなさいよ」
 勇希はそういうなり私の肩を掴んで前後左右に揺さぶっていた。
「わ、判った。わかったから揺するな勇希。酔いそうだ・・・」
「わ、ごめん。直子だけじゃあないわね。直子だったらその手の店は知らないから・・・もしかして」
「察しのとおり。治子さんに場所を案内してもらったんだよ。さてと、戦闘になるかもしれないからアンダースーツを着るか。ほれ、勇希」
「ん。これ薄いけど、本当に大丈夫なの」
「まあ、一応ケプラー繊維で作ってあるし、一応テストしておいたけれど大丈夫だったよ。惜しむらくは夏休み前に完成していれば怪我しなくて済んだかも知れなかったなあ・・・」
 私が遠くを見るような視線をしながらつぶやくと勇希が頷いていて、切り返してきた。
「確かにそうかもしれないけれど、でも既に済んだことをとやかく言っても始まらないよ。遅くなるといけないからさっさと着替えよ」
 勇希がそう締めくくり、私達は下着の上からインナーを着込みその上に例のドレスを着用した。ちなみに私は黒を基調とし、勇希は白を基調としたドレスである。
「あ、直ちゃんに勇希。来ていたのね。どうかな似合う・・・」
「ああ、委員長のモノトーンのドレスもなかなか似合うよ」
「まあ、デザインコンセプトは二人のいいところを掛け合わせたデザインだから、一歩間違えば駄作になるかもしれなかったけれど、この着こなしをみると製作者冥利に尽きるね」
「直ちゃんにそう言ってもらえるとなんかうれしいよ。あ、そうそう警備担当者からブリーフィング行うから来てくれって」
「判った。それじゃあ勇希いってくるよ」
「いってらっしゃい〜。さて、委員長私達も会場にいこ」
 そんなこんなで私達はそれぞれの場所に散った。
「ようやくお出ましね。遅いわよ深山直子さん」
「一応、5分前までには来たけどね・・・。薙刀部部長、藤原 雅さん」
「な、なぜ。私の名前を・・・」
「ん。簡単さ。貴方は委員長とならんで有名人だからね」
「あなたも結構有名よ。あの一件は私達の間でもうわさになったわね」
「そう。ブリーフィングを行うんでしょ。そろそろ始めないとやばいんじゃあない」
 そんなこんなで私達は警備の打ち合わせを2、3行って。ペアを組んで会場内で警備を行う事になった。
「まさか、貴方と組むことになるとは思わなかったわね。ところで、貴方、武器はあるのかしら」
「心配しなくても用意してある」
 私はそう言ってスカートの中から棍棒を取り出していた。
「もう一種類は本当に生命のやり取りをやる場合の非常用だよ。おそらくあいつらは光物を持ってくるはずだから。藤原さん実戦経験は・・・無いわね」
「確かに経験は無いわね。でもやるしかないわよ」
「そう。もし、戦闘になったら他の警備の人と勇希に知らせて。それまでの時間は私が稼ぐから」
「判ったわ。でも大丈夫なの」
「大丈夫。一応、防刃用装備もあるし、かなりの修羅場を潜り抜けているよ。さて、行きますか」
「ええ」
 そんなこんなで私達は会場の出入り口付近で警備をしつつ、会場内を見回すと意外な格好の人たちがゴロゴロいたのをみて私はある種のショックを感じていた。
「先輩〜。待っていましたよ〜」
「お、桜花か。いやはやこの格好でくるとはね。てっきり軍装でくるとばかり思っていたけど、まさか巫女装束で来るとは驚きだよ・・・」
 ちなみに警備関係である薙刀部の連中は活動しやすいように薙刀で使用する装束もしくは巫女装束にたすきがけをした格好をしていた。
 私が桜花にそう言うと、桜花もまたにやけた表情で答えていた。
「先輩のドレスもなかなかの出来ですよ」
「そうか、それじゃあ私はここの見回りがあるからこれで行くよ。しっかり楽しんでらっしゃい」
「ええ、お兄ちゃんと勇希先輩によろしく」
「判った」
 そう言って私は桜花と離れて各所の見回りをしていた。傍でみていると勇希と疾風の奴もいい感じになっているみたいだし、委員長の方も言い寄ってくる男どもをなで切りしている様子が手に取るように見えた。
「どうやら取り越し苦労になりそうだね。藤原さん」
「そうね。でも油断は出来ないわ。それに私は籠の鳥・・・このイベントだけはなんとしても完遂させなきゃ・・・」
 それを聞いた私は藤原さんに次のような提案をした。
「ここは私に任せて貴方は楽しんで来なさい」
「良いの。本当に・・・」
「ああ、別にいいさ。その代わりしっかりと楽しんで来ればいいさ。他の連中も合間をみては楽しんでいる様子だしさ」
 私達がそんな会話をしているときに突然イヤホンから緊急用の通信が入った。
「「!」」
「どうやら外のほうでトラブルが起こったようだな。様子を見てくる」
「まって。私も行く。それに実戦経験をつむチャンスだし・・・」
「判った。怪我してもしらないよ」
「覚悟の上よ」
 そんなこんなで私達二人は会場の外に出て様子を見た私は大いに驚いた。
 薙刀部の連中が数人倒れていた。見たところ怪我はなさそうであったが、それを見て私が口を開く前に部長の藤原さんの方が口を開いていた。
「貴方達、なぜこのような乱暴狼藉・・・許しませんわ。絶対に許すことなんて出来ません。この贖いとってもらうよ・・・」
「うるせー。生徒会の連中を一発やらねーと、腹の虫が収まらないんだよ」
「あ〜あんた達。本来の警備するはずだった柔道部と剣道部などの格闘系運動部の連中か。本当にあんたらは脳みそ筋肉だな・・・。このまま引き下がるならよし。そうでないなら深山直子が相手になるよ」
「薙刀部部長。藤原雅も相手になるわよ」
「まったく。あんた達もみずくさいやっちゃね。この木瀬歩も相手になったるで〜それに可愛い後輩を可愛がってくれた落とし前をつけてやらなきゃ、あたいの気持ちがおさまらへんわ」
 私達3人がそれぞれ詰め寄ったが逆に火に航空用ガソリンを注いでしまったようであった。
「おもしれ〜。まえまえから貴様らを犯して見たかったんだやろうどもやるぜ」
 そういうや否や矢が10数本私達の元に飛んできていた。私達はとっさに避けるか薙刀などで矢を叩き落していた。
「ちっ。これが宣戦布告ってわけね。直子、歩やるわよ」
「「合点承知(や)」」
 雅がそういうや否や私が先陣を切って運動部の連中の懐に飛び込み急所を安全靴で思いっきり蹴っ飛ばした後、鳩尾と延髄に棍棒の一撃を加えてKOさせていた。雅と歩もまたそれぞれの武器の特性を生かしてある程度の距離をとって鳩尾などの急所をついてKOさせていた。
 それから10分後・・・運動部の連中は8割ほどが戦闘不能に陥ったところで私は奴らに降伏勧告をした。すると奴らの方から次のような提案が来た。
「これ以上無益な戦いは俺達も望むところじゃあない。サシの勝負で行こうじゃあないか。誰が出るのかそっちで人選してくれ」
「判った。それじゃあ私が出る。藤原さん、木瀬さん。二人は見届け人になって」
「わかったわ。直子さんも・・・」
「なんか釈然とせえへんけれど、あれだけの敵を殆ど打ちのめしたんは直子はんやし任せるで〜」
 私は二人の声援を受けつつ奴の待つ場所に行った。
「あんたの名前は私は深山直子・・・」
「俺は立川雄蔵だ。深山直子・・・そうか。『黒天使』と立ち合せできるとはな・・・」
「へえ〜。私の昔の通り名を知っている人間がいたとはね。あんたのうわさも聞いたことがある『世紀末覇王』とやるとはね。得物なんて無粋なものはやめて、ゴロマキで勝負と行こうじゃあない」
 私が提案するとすんなりと受け入れたのであった。
「よかろう。得物なんぞ無用の長物」
 そういってお互いの得物が地上に落ちた音と同時に、私達は飛び掛ったのであった。
『ドカ。バキ。ボカ』
「す、凄い・・・。直子さんって本当はこんなにも強かったのね」
「ホンマや。うちらのやっている事がまさに餓鬼のお遊戯に見えるで」
 二人が私達の立会いを見て思っていた感想を述べていた。打撃力は勇蔵がまさり、機動力は私の方が勝っていた。
「っち。このままじゃあ私のほうが不利だ。こうなったら関節技を使うか・・・」
 私は捨て身の覚悟で奴の首筋に腕を回して奴を締めようとしたが、逆に一撃を食らい吹っ飛ばされた。
「どうやら俺の勝ちのようだな・・・」
「まだだ。まだ終わらないわよ」
 私はそう言って気を込めた拳を鳩尾に叩きつけ、そしてひるんだ隙に奴の頚動脈を一気に締め上げて落とした。
「ふう。ようやく落ちたか・・・。それにしてもかなり手ごわかった。まともに戦ったらたぶん私の方がやられていたね。さて、親分を倒した以上あんた達の負けだ。倒れている連中を起こして撤退しな。先公には言わないで置くから。安心して」
「すまない恩に着る」
 そう言って奴等は残っていた連中が倒れている連中を担ぎ上げて引き上げていった。もっとも雄蔵だけははこの場に残されていたが無理も無いだろう、彼を引っ張るのはスタックした大型トレーラーを軽自動車一台で引き上げるようなものだからだ。
「さて、私達も気を失っている連中を介抱してやらないと駄目ね」
 そう言って私は、気を失って倒れている連中に気を入れて目覚めさせていた。
「ここは私にまかせて貴方方は戻っていいよ」
「直子はん。あんたもしかしてこいつに惚れたんか」
「一応、死力を尽くして戦った相手だ。それなりの敬意をはらうのが筋ってものでしょ。木瀬さん、藤原さん」
「ん。歩でええよ」
「私も雅って呼んでかまいませんわ。判りましたそれじゃあ直子さん貴方にこの場は任せますわ。私も人の恋路を邪魔して死にたくはありませんから」
「ありがとうね。雅」
「ほな。あんた達ごゆっくり・・・」
 そういって薙刀部の連中が去った後わたしは奴を膝枕していた。そしてそれから約小一時間経過した頃・・・。
「う、うう。あ、あれ・・・。直子、君が介抱してくれたのかそれにしても膝枕とは君も大胆なことをするものだ」
「ああ、気がついたようね。決めるためとはいえ鳩尾と頚動脈を絞めたからね気がつくまでは見てやらないと私の気がすまなかったからね。戦いが終われば敵も味方も関係ないよ」
「そうか。さて、負けた以上長居は無用だ引き上げるか」
「待った。どうせなら貴方も参加しない。どうせ他の連中は逃げ散ったから問題ないよ」
「良いのか、俺はその女性とそういうことをしたことが無いがそれでもいいのか」
「ん。私だってそういう経験は無いわよ。それに私はあなたのことが・・・」
 そんなこんなで私達二人は月夜の中で回るように踊っていた。
「はあ〜案の定やね。藤原はん」
「そうね。でも、羨ましいわね。私も一度でいいからあんな燃える様な恋がしたかったわね・・・」
「直子ったらちゃっかりと相手見つけて楽しんでいるんじゃあない」
「おいおい。直子と踊っている相手って立川雄蔵だぜ。まさに”美女と野獣”だな」
「はう〜。直子先輩もしっかりと彼氏を作っていたなんて・・・」
「でも、あの二人の踊りを見ているとなんていうか、ある種の剣舞にみえない」
「確かにそう見えるな」
 私と雄蔵が踊っている間、まわりでそんな会話があったことなんて露知らず私達二人は夢中になって踊りを踊っていた。そして楽しかった宴も終わる。
「ありがとう。そして、無理やり誘ってごめん。でも、どうしても思い出が欲しかったから・・・」
 私がそういうと雄蔵は神妙な表情をしていた。
「別にかまわない。俺には病弱な妹がいるが、君と踊っていたときは本当に楽しかったぜ」
「そう。貴方には妹がいるのね。だったらもう、こんな不良稼業から足を洗いなさいよ。妹さんを悲しませてはだめだよ。私や勇希みたいに肉親がいなくなるのは本当に辛いから・・・」
「そうだな。『黒天使』と異名を取った奴とはいえ女性にやられたわけだから俺の名もかなり落ちるだろうからこの辺が潮時かもしれないな」
「貴方、それだけの腕力があるなら自衛官か警察官になったらどうだろうか。もし成績がよくないなら私が手取り足取り教えてあげるから・・・」
「良いのか本当に」
「構わないわよ。それに手合わせしていて私の胸がこんなに高ぶるなんて貴方が初めてだよ」
「そうか、その話を受けよう。くわしい話は今日はむりだから明日でいいか」
「ん。明日?それはいいけれど。明日午後からバイトだから午前中でいいなら構わないよ」
「わかった。それじゃあ明日学校で会うことにするぞ」
 そういうや否や雄蔵は頭を深々と下げていた。それを見て私はとっさに制した。
「ああ、頭上げて。それじゃあ明日学校待っているから・・・」
 そんなこんなで私は会場に戻ろうとすると・・・。
「いよ〜。このこの。憎いねえ〜直子にもようやく春がきたかしら・・・」
「ちょ、一寸勇希からかわないでよ〜」
「いやはや、藤原たちから話は聞いたぜ。直子すげーよ。俺だったらあいつを倒せるかどうか難しかったろうな」
「たぶん。あの人もも私と同じように立合っている最中に何かを感じたのだろうね。でなかったらあの当身を食らうはずが・・・」
 私がそう言うと疾風や勇希もうなずいていた。
「たしかにあの『世紀末覇王』とも言われる人が捨て身とはいえあっさりとチョークされるとはおもわないもんね」
 私たち三人がそう言い合っていると雅と歩が不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「なあ、なあ。あの人ってホンマに凄い人なんか」
「私も不思議でたまりませんよ」
 私は正直に彼の凄さを教えてあげた。そう、不良や893の連中をも震え上がらせた『世紀末覇王』のエピソードを・・・。
「あれ、でもあの人も直子のこと『黒天使』って呼んでいたみたいだけれどこれって一体どう言う意味なんだろう・・・」
「ああ、それは私が昔やんちゃしていたときの通り名だったよ。まあ、勇希の両親にはかなり悪いことをしてしまったと悔やまれるがな」
「確かに、でもあたしも一緒にやんちゃしていたしね」
「俺も結構悪やっていたな。まあ万引きやカツ上げはしなかったけれど喧嘩はしょっちゅうしていたな」
「確かにね」
「貴方達凄いことを事も無げにいうわね・・・。私は貴方達だけは敵に回したくないわね」
「ウチも藤原はんの意見にさんせいやな」
 そんなこんなで私達は意気投合していた。
「それじゃあ帰るか。ああ、勇希明日、疾風とデートするならうちは駄目だぜ」
「判っているわよ。はあ〜お暑いことで」
 そんなこんなで宴も終わり皆それぞれ帰っていった。
 帰り道の道端で・・・。
「これで、もうバカやることも無くなるんだよなあ。まあ思いっきり楽しんだからそれでよしとしないとね。なあ勇希」
「そうね。あたしもやるわよ」
「その意気だよ」
 そんなこんなで私達は明日の希望に向かって歩き出していた。


                                                 (続く)


管理人のコメント

 後夜祭の警備を引き受けた直子。なにやら準備をしているようですが……

>黒のブラにショーツ、ガーター

 何に使うんだ、何に!(笑)


>本来の警備するはずだった柔道部と剣道部

 何故こんな連中に本来の警備を頼んだのやら……


>俺は立川雄蔵

「こみパ」より郁美兄の登場。原作では暴走気味でも悪い人ではなかったんですが、その後の展開を見るに担がれただけの様子。


>「良いのか、俺はその女性とそういうことをしたことが無いがそれでもいいのか」
>「ん。私だってそういう経験は無いわよ。それに私はあなたのことが・・・」


 少年マンガなんかでは戦った後には友情が芽生えるものですが、何か違うものが芽生えた模様。


>「そうか、その話を受けよう。くわしい話は今日はむりだから明日でいいか」
>「ん。明日?それはいいけれど。明日午後からバイトだから午前中でいいなら構わないよ」


 おっと、いきなり急展開です。果たして明日二人はどうなるんでしょうか?


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