翼持つものたちの夢

霜月天馬

第12話 どきどき文化祭 二日目 前編


「いやはや、俺たちの苦労もたった一日でパーになるとはな」
「あれ、疾風。何でそれを知っているの」
「ああ、委員長から聞いた。それにしても鍾馗の奴め俺たちのところ行かないで隣の所に行きやがって。あの裏切り者達め。今度あったら粛清してやろうか……」
疾風が妙な気合を上げた炎を上げているのを見て私と勇希は目を合わせていた。むろん疾風のことを止める為である。
「疾風、もういいじゃあない。すでに終わったことよ。そりゃあたしだって悔しいわよ。でもあたしはある意味うれしいとおもっているのよ。疾風以外の男に珠の肌みせるなんて本当はかなり恥ずかしいんだからね……」
「勇希……。そこまで俺のことを……俺は猛烈にうれしいぞ勇希〜」
「あん。はやて〜」
「はい。はい。二人ともそこまでだよ。場所をわきまえなさいよ。委員長もあきれているよ」
「ねえ、直ちゃん。もしかしてこの二人って普段からいつもそう?」
「そのとおりで。まあ、今までの反動から万年ラブラブカップルになったね」
「以前、先輩から聞いた伝説があったけれど、もしかしたら彼女達なら新たな伝説を生み出すかも」
「確かにそうだね。ああ、委員長は今日は鷹乃先輩と一緒に見学?」
私と委員長は、疾風たちのラブラブぶりに半分以上あきれながらも内心羨ましくおもったりもしていた。
「ん〜。そうよ。それがどうしたの」
「ええ。実はこんなチケットを持っているんですよ……」
そう言って私はスカートのポケットから2枚のチケットを取り出した。そう、それはこの学園祭の最大のイベントである、アイドル歌手の森川由綺のコンサートチケットである。
それをみた委員長は目の色が変わっていた。
「直ちゃん。そのチケットどこで入手したのかしらね」
「ん。蛇の道は蛇ってね。先輩と一緒にどうです」
「私よりか勇希ちゃんたちにあげたほうが喜ぶと思うけれどね」
「ああ、勇希たちなら既に自分らでとっくに確保しているよ。どうです委員長。やるのかやらないのかはっきりしてください」
委員長は少し瞑目したのちに一気に返事をしていた。
「貴方の誘いを受けるわ。あの森川由綺には私も少し興味があるから」
「そう、それじゃあ頑張ってね〜。私は応援しているからね」
私はそう言って委員長のところから去っていった。
「なかなか心憎いことやるじゃあないの直子も」
「直子って意外と尽くすタイプなんだな。たとえそれが叶わないとわかっていたとしても」
「ああ、疾風に勇希。どうした」
あたしは直子の態度に少しカチンと来ていた。
「どうした。じゃあ無いわよ今日はあたし達と巡るって言ったじゃあない」
「ああ、確かにそうだったね。それじゃあ何か良い出し物であればいいね。まあ疾風のおごりだよ……」
「ちょ、一寸待て。勇希ならわかるが俺がなぜ直子の分までおごらにゃならんのだ」
私は半分勝ち誇った表情で疾風に言ってやった。
「ん〜。この前の借りまだ返してもらってない」
「む、たしかにそうだな。そういわれると返す言葉もないな。判ったぜ直子の分もだしてやるよ」
「いやった〜。これで少し楽になる……」
とまあ、そんなこんなで私達3人はあちこちの出し物を見て回った。ついでに私と勇希の二人もまた腹いっぱい食事を食べていた。
「うーん食べた、食べた。ありがとうね疾風……」
「直子、勇希……。あんたらの胃袋は化け物か。まさか5キロも食費に消えるとは思ってもいなかったぞ」
疾風は半分灰になりながら呟いていた。ちなみに私達ふたりが食べたものはクレープ24枚、焼きそば4皿、タイヤキ16個、カキ氷2杯他が私らの胃袋に納まった勘定である。
「うーん。腹ごなしに一発撃つか……」
「あたしは射撃よりダーツの方がいいわね」
「じゃあ両方やろうか。どうせ疾風のおごりだしね」
「そうね。それじゃあ行こ疾風……」
私達二人がそんなことを言いながら疾風のうでを組んであるいていた。まあ、傍から見たら美女二人に囲まれた色男とみられているのだろうなと半分灰になっている疾風をみてそう思った。
そして……
「直子、疾風……。あんた達やり過ぎだよ。商品根こそぎ持っていくなんて。射撃部の連中灰になっていたわよ」
「そういう勇希だってダーツで高得点とって高額商品ごっそりゲットしたじゃあないか。あいつら真っ白に燃え尽きていたぞ」
私達はまるで同人誌即売会帰りの婦女子のごとく山のように商品のはいった袋をもってあるいていた。
「それにしても直子はともかく勇希にこんな才能があったとは俺もおどろきだったぜ」
と疾風も勇希の分のにもつを持ちながら校舎のところを回っていた。
「そういえば、もうすぐメインイベントが始まるなそれじゃあ荷物を一度教室において行こうぜ勇希」
「うん。疾風と一緒にみれるなんて思ってもいなかったわ。それじゃあいこ」
そういって二人の足取りはうきうきしていた。一方、私は堂々と昼寝が出来る。なんて思っていたりしていたが、結局のところはそうはならなかったのであった。
誰もいない教室に荷物を下ろした私は私の机の上に突っ伏して睡眠に入ろうとしたところにとんでもないものが一直線に私の元に飛び込んできたのであった。
「直子さ〜ん。一緒に行きませんか」
『ごちーん』
「んぎゃ。誰だこの私の寝込みを襲う不届き者はって桜花か……」
「はい。桜花です。あのですね直子先輩、私と一緒にイベントに行きませんか」
「ん。あれ桜花ちゃんは確か橘花ちゃんと一緒に行くんじゃあなかったの」
「えへ。実は橘花ちゃん彼氏と一緒に行くっていわれて私あぶれてしまったんです。それでお兄ちゃんから直子先輩が暇そうにしているって聞いて誘ったのですよ」
私はせっかくの睡眠タイムを妨害された事に腹を立てつつも桜花の話を聞くことにした。
「そう。疾風の奴が気を利かせてくれたんだ。それじゃありがたく申し出を受けさせてもらうよ」
私がそういうと桜花の表情はパッと明るくなった。
「先輩と一緒になんて桜花うれしいです」
そんなこんなで桜花と一緒にイベント会場である体育館に向かうことになった。私はふと周りを見ると見知らぬ女性がキョロキョロと挙動不審な行動をしていた。
「あの〜。何処のどなたに用事なのかな。ここは女性の一人歩きには少々ヤバイ場所だよ」
私が問いかけるように言うと、女性は驚いたような表情をして私のほうに振りむいた。
そして、その顔をみて驚いたのが桜花であった。
「あ〜。先輩この人森川由綺ですよ」
「何。するともしかして楽屋を探しているのかな。さて、困ったぞ楽屋に使えそうな場所と言えばステージの袖の用具庫だとおもうがとりあえずそこへ連れて行くか」
「あら、あら。こまった。あたしって完全に迷ったようね。どうしよう弥生さんにいっぱい言われるよ……」
私はそんな狼狽している女性にとある提案をしていた。
「とにかく体育館に行けばいいんでしょ。案内するからついて来て」
「あ、ありがとうございます。ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。あたしは森川由綺です。今日一日精一杯歌うのでよろしく」
「ああ、私は深山直子。そして隣にいるのが……」
「白菊桜花です」
「とまあ、そういう事だ。あまり時間も無いから急ぐよ」
そんなことを言いながら私は足早に体育館の用具庫付近まで足進めていた。
「由綺さん。ああ、何処に行ったのか心配していました。貴方達が由綺さんを連れ出したのですか」
私達が用具庫近くにつくと一人の女性が私達の元に駆け寄ってきた。そしてその言い方に私は少々気分を害した。
「別に私達が連れ出したわけじゃあない。あの場所にいたら不良どもの餌食になりかねなかったから私が護衛をかねて案内して上げただけなのに……」
「そうでしたか。それは失礼しました。私の誤認でしたね。それについては謝ります。それでは由綺さん参りましょうか。ああ、貴方の名前を聞いていませんでしたが私はこういうものです」
そう言って女性は名刺を私に渡してくれた。
「篠塚弥生さんですか。私は深山直子です」
「そうですか。送ってもらって感謝します。このお礼は後ほど……」
「べつに礼なんて良いよ」
「そうですかそれではごきげんよう」
そういって由綺と弥生さんの二人は楽屋へと消えていった。私は彼女達の出会いはこれ限りとは思っていたが、後になってまた再び会うことになろうとは判らなかった。
「あ〜。せっかくサインもらえるチャンスだったのに〜」
一方桜花はそう言って燃え尽きていた。私は.桜花を抱えて、体育館正面入り口に向かった。
まあ、折角の貴重な体験ができるチャンスだ。食わず嫌いはよくないと思いどんなものなのか経験するべく行くことにした。
そう、ある種の狂気の釜をのぞく事を決めたのであった。

(続く)

管理人のコメント

 文化祭も二日目。今日はクラスの出し物には付かずに、他のところを見て回る事になった直子たち一行ですが、このまま平穏には終わらないだろうなぁ(笑)。
 
>あの裏切り者達め。今度あったら粛清してやろうか……

 既に使われている単語がヤバ過ぎです。何だ粛清って。
 
 
>「勇希……。そこまで俺のことを……俺は猛烈にうれしいぞ勇希〜」
>「あん。はやて〜」

……いや、もはや何も言いますまい。


>私と委員長は、疾風たちのラブラブぶりに半分以上あきれながらも内心羨ましくおもったりもしていた。

 直子の場合は、まず相手を見つけるのが先決か……
 
 
>ちなみに私達ふたりが食べたものは(後略)

 太るぞ。
 
 
>ここは女性の一人歩きには少々ヤバイ場所だよ

 どういう学校なんだ……。
 
 
>あたしは森川由綺です

 大物ゲストキャラ登場。「WHITE ALBUM」のメインヒロインですね。しかし、こんなアイドルを呼べる高校の文化祭と言うのも珍しいですね。
 私の母校では一度アイドル声優(確か丹下桜)を呼んだことがありますが。
 
 
>私は彼女達の出会いはこれ限りとは思っていたが、後になってまた再び会うことになろうとは判らなかった。

 まさか……直子、芸能界デビューの予感!?(笑)

 強力なゲストキャラ登場により、またも混迷の予感漂う文化祭。果たしてどうなります事やら。


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