精霊獣奇譚

―異界童話―

―闇夜に咲く花と魔物―


 むかしむかし、ある所にのどかな村がありました。

 その村には食べ物である穀物を育てる人やお乳を分けてくれる角のある動物を育てる人、薬になる草木を育てる人、そして、神の教を説く神父さんなどが暮らしていました。

 しかし、その村は少しおびえて暮らしていました。
 何故なら、その村の周囲の森、特に岩山には恐ろしい魔物が住んでいるとされていたからです。

 その魔物は顔はまるで悪魔のようで、牛のような角を持ち、体は鋼鉄のような筋肉で覆われ、その体を黒く長い体毛で覆われた化物とされ、曰く、人を浚って食らうとされていました。

 ですが、

 それはある意味あっていましたが、ほとんどは間違っていました。

 魔物は確かに恐ろしい顔と姿をしていましたが、その心根は優しく、森の動物を殺さず、何時も森の木の実等でお腹を満たしていました。

 しかし、魔物の姿を恐れて誰も彼に近寄ってきません。

 誰もが彼を恐れ、忌避していました……。

 彼は孤独でした。

 それでも彼はその優しさを失いませんでした。



 そんなある日、月の無い全くの闇夜にて魔物は森を何となく彷徨っていました。

 すると、闇に覆われた森の一角が光っているのが見えました。

 彼が其処に近づいてみると、其処には光り輝く花がありました。

 魔物はその花の美しさに見惚れ、一晩中そこを動く事はありませんでした。

 ですが、次の翌朝、その花の姿は何処にも見当たりませんでした。

 不思議に思った魔物はその場所を覚えておいて、また夜に来て見ようと思いました。

 ですが、薄っすらと月が顔をのぞかせ始めた夜にはその場所に訪れても花は影も形もありませんでした。

 更に不思議に思った魔物はくる日もくる日も同じ場所で待ちつづけ、再び月の無い夜、その花は魔物の前に現れました。

 その時、魔物はその花が月の無い夜にのみ咲く花である事を理解しました。

 それからというもの、魔物は月の無い夜に毎晩花の元を訪れ、嵐の日には花を守り、雪の日には雪を優しく取り除き、花を守りつづけました。

 そして、そんな日が何十年も続いたある日、

 魔物が花のある場所を訪れると、其処には花の姿が無く、その代わりに小さな少女のような花弁のような羽の生えた妖精の姿がありました。

 魔物は驚きましたが、妖精は魔物の姿を見るとニッコリと微笑み、魔物の周囲を嬉しそうに飛び回り始めました。
 当初、魔物は妖精の姿に驚きはしましたが、それ以上に自分の姿を見て脅えない妖精に驚かされ、そして、凄く嬉しく思いました。

 そして、妖精は自らを「月の無い夜に咲く花」の精であり、魔物が守りつづけてくれた御陰で妖精に成れたと感謝を示し、魔物も自分を恐れない妖精の存在を非常に嬉しく思いました。

 そして、妖精と魔物は何時しかともに暮らすようになりました。

 妖精は自分を守ってくれていた魔物が大好きで、魔物も孤独を癒してくれた妖精を掛け替えの無い存在として大切に思いながら互いに助け合いながら暮らしていました。


 そして、幾つかの季節のめぐりを経たそんなある日…………

 魔物が何時もどおりに自分が植えて育てた果実のなる木に果実を取りに来たそんな時、

 妖精が慌てた様子で川辺の方をさすので除いてみると、そこには……

 なにやら慌てた様子の村の子供達がいました。

 そして、川の方を見ると、一人の少女が溺れているのが見えました。

 それを見た魔物は一瞬にして川に飛び込み、瞬く間に少女を助けて川辺に連れ帰りました。

 ですが、魔物の姿を見た子供達は泣叫び、非常に恐れるような様子を見せました。

 魔物はそれを見て、寂しく思いつつも少女を優しく下ろし、そのまま森に返っていきました………。

 そして、その魔物の様子を見た子供達はちょっぴりの罪悪感を感じ、魔物を気の毒に思いました。

 
そんなある日、魔物が妖精と共に森の中を歩いていると籃に入った食べ物が切り株の上に置かれて捧げられているのを見つけました。

最初は怪しんだ魔物でしたが、罠と言うわけで無さそうだったので、近づいてみると近くの木の陰から先日助けた少女が顔を出して除いているのが見えました。

魔物は最初、少女が何を見ているのかと思いつつもそっと其処から立ち去ろうとしましたが、少女の表情が曇ったのを見て立ち止まり、切り株の所まで来ると少女の表情が何かを期待するような不安そうなそんな表情になっているのが見え、そこで魔物は食べ物に手を伸ばしてみると、少女の表情がやや嬉しそうなものになり、そして、食べ物を食べてみると少女は嬉しそうな表情をしているのが見えました。
そして、また数日後には少女と少女の兄と思われる少年の姿……
そのまた数日後には少女と兄、そして、他の子供達の姿があり、それが何度も繰り返される内、魔物と妖精と子供達は何時しか仲良くなり、時には子供達が魔物と妖精に食べ物を持っていき、時には魔物が森の珍しい果実を子供達に分け与え、仲良く遊んでいました。

 ですが、そんなある日、子供達がパタリと来なくなりました。

 魔物は嫌われたのかと思いつつも、子供達と遊んでいた場所で待っていると、子供達の様子を見に行っていた妖精と、少女の兄が走ってきました。

 何事かと思い、魔物は妖精に尋ねると、

 村では疫病が流行っており、そのせいで子供達が苦しんでいるそうでした。
 そして、少年は村の薬師が病気を治すためには「聖なる山」の薬草が必要だと言っていた事を魔物に伝えました。

 ですが「聖なる山」は非常に険しく、普通の人間では麓に行ってとても生きて返ってこれるかどうかも判らない程の危険な山でした。
 その危なさは魔物でもどうにかできるか判らないほどで、魔物自身もそれを理解していました。

 そして、少年の話を聞いた魔物は立ち上がると、そのまま「聖なる山」に向かって歩いて行きました。


 それから数日後……

 村では疫病が流行ったのは魔物せいだと騒ぎ始めており、神父や少年が止めるのも聞かずに各々武器を持って森へと赴こうとしていました。

 ですが、村人たちが村の出口まで進んだ時、森より両手に一杯の薬草を抱えた傷だらけの魔物と魔物を気遣う妖精が姿を表しました。

 少年がその姿を見て大人達が止めるのも聞かずに魔物に駆け寄ると、魔物は少年の前に薬草を降ろし、そして持っていた無数の種を少年に渡しました。
 そして、村の薬師は魔物が持ってきた薬草を見たとたん非常に驚いた表情をしました。
 そう、その薬草こそが「聖なる山」の薬草だったのです。

 その後、魔物が持ってきた薬草と薬師の御陰で病人達の数はどんどん少なくなっていきました。
 ですが、魔物は全身の傷が元でどんどん弱っていきました。
 魔物が善良である事を知った村人や神父、薬師の治療の甲斐も無く魔物は弱っていき、そして、月の無い夜、自分の最後を知った魔物は森の奥へと消えようとしましたが、子供達に引き止められ、村の広場でお別れが行われる事になりました。
 魔物の死期を知って泣きじゃくる何時も一緒にいた妖精と、魔物を怖がっていた村人や子供達に見守れながら魔物は安らかな気持ちで最後の時を迎えようとしていました。

 と、その時、
 突然、魔物を優しい光が覆い、その光が消えた時には魔物や妖精の姿がありませんでした………。

 それから月日は流れ、

 少年は大人になり、少女は大人になって母親に成っていました。
 村では魔物の持ち帰った薬草の種より薬草が作られるようになっており、今では街からも薬草を買いに人が訪れるようになり、ほんの少し豊かになっていました。それと、村では心優しい魔物の話が伝えらて子供達の子供達へと伝えられていました。
 そして、魔物が最後の時を迎えそうになっていた月の無いその夜、村人たちは集まって祈りを捧げる事が慣わしとなり、その日も村人たちは祈りを捧げていました。
 すると、何処からとも無く、優しい光が村の広場の到る所から溢れ出し、その中央から美しい二人の何かが姿を表しました。
 一人は魔物と共にいた「月の無い夜に咲く花の精」に似ており、
 もう一人は水晶のような角と翼を持った何処かの貴婦人を思わせる姿でした。
 そして、その姿に何処となく魔物の面影を見た少年だった村人は、その魔物の面影のある貴婦人に名前を聞くと、
 貴婦人はにこりと微笑んで「闇夜の妖精」であると名乗り、自分が嘗ての魔物であると村人に伝えました。

 その後、村では再会を祝して夜通しで宴が行われ、
 何時しか、隠れ住んでいた邪妖精も集まり、誰もが楽しめるお祭へと発展していきました。


 それから後、村は何時しか街となり、そして、大都市へと発展していき、大都市となった今でも「闇夜の妖精」と「月の無い夜に咲く花の精」が妖精の国より降り立ち、幻想的な豊穣の宴を披露する祭が伝わっています。

                                                おしまい
                                    出展「都市群世界「ファー」のお祭」より





「………おわり、と……あらあら、よく寝てるわね」

 そう言って足元まである長い髪の眼鏡の女性が童話の本を閉じ、畳敷きの床に敷かれた布団の上で寝ている子供達の寝顔を嬉しそうに覗いている。

「……正美様」
 すると、隣の伏間が少し空き、濡羽色の長い髪といった大和撫子風の巫女服に似た着物姿の一人の女性が顔をのぞかせる。
「あら、琴葉?どうしたの?」
「えぇ、あの子達の様子は……」
「ん、よく寝てるよ。ま、この調子なら明日の朝には風邪も良くなっているでしょうね」
「そうですか」
 ほっとした表情で
「大丈夫大丈夫、年老いてからできたとはいえ、『私と琴葉』の子供なんだから♪」
…………聞き流しそうでは在るが、二人の姿は『列記とした女性』である。
「(///)そうですね」
 そういって頬を紅く染めながら嬉しそうに琴葉は正美に微笑みかける。
 だが、そのすぐ後、
「さて……今日は久しぶりに一緒に寝ましょうか?」
「え……(///)、あ、あの正美様……」
 等とバカップル同然の遣り取りをしながらその夜はふけていくのであり、
 これ以上は禁止事項に関わりそうな展開となって来る為、ここで中断することこととする。

                                                    今度こそおしまい。



『後書き、という名の懺悔室』

 ども、お久しぶりの「ナイトメア」改め、「悪い夢の夜」です。
 そして、どうもすいませんでした。
 何度か新作を書こうとしたのですが、中々纏められず、その上、仕事やらで書く事ができず、こんなにも間が空いてしまいました orz
 その上、掲示板にも何度か書こうと思ったのですが、中々投稿できない事が引き摺って投稿できないでいました、本当にスイマセン OTL
 後、言い訳にしかなりませんが、自分の文才の無さにほとほと嫌気が差す毎日です。

 それと、今回の話なのですが、精霊獣奇譚シリーズの世界観で、様々な世界の事を取り扱った童話風な短編として構成しました。
 そして、これからもこういったタイプの短編で少しづつ投稿していきたいと思っています。
 それでは、これからもよろしくお願いいたします。


 追伸:
 ハンドルネームを変えた理由なのですが、他にもちらほらと「ナイトメア」というハンドルネームを見かけるようになったため、思い切って変えました。





おまけ

「闇夜の妖精」
名前     : 名前は人間では発音不可能。
容姿     : 水晶のような翼と角、そして、蒼銀の長い髪を持ち、闇夜を表したドレスを纏った貴婦人のような姿。ただし、性別は不明。
生息世界 :「在と無の狭間に在りし妖精界」
「詳細」
元々は魔物であった邪妖精たちを束ねる存在で、本当は「闇夜の妖精王」。
「在と無の狭間に在りし妖精界」に体を運ばれた後に死亡し、そのまま妖精へと転生。
非常に強大な力を持つが、本人の性格はいたって温厚である為、発揮する事は少ない。
「月の無い夜に咲く花の精」を自らの伴侶とする。


「月の無い夜に咲く花の精」
名前     : 名前は人間では発音不可能。
容姿     : 花弁のような羽を持ち、まるで清純な女神の如き容姿の人間大の妖精。
生息世界 :「在と無の狭間に在りし妖精界」
「詳細」
魔物により守られる事で「月の無い夜に咲く花」より昇華する事ができた妖精。
「月の無い夜に咲く花」は、元々は「在と無の狭間に在りし妖精界」に存在していた高位植物。
「闇夜の妖精」の妃。



管理人のコメント

 ナイトメア改め「悪い夢の夜」さんから、オリジナル作品「精霊獣奇譚」の外伝をいただきました。今回は童話風のハートフルなお話です。
 
>その魔物は顔はまるで悪魔のようで、牛のような角を持ち、体は鋼鉄のような筋肉で覆われ、その体を黒く長い体毛で覆われた化物とされ、曰く、人を浚って食らうとされていました。

 ドラクエのアークデーモンとかメッサーラとか、あの辺を想像するとわかりやすいかもしれません。
 
 
>それからというもの、魔物は月の無い夜に毎晩花の元を訪れ、嵐の日には花を守り、雪の日には雪を優しく取り除き、花を守りつづけました。

 うーむ、良い話です。それだけに魔物の孤独が際立ちますが、善行には必ずいい報いがあるもので。
 
 
>魔物が花のある場所を訪れると、其処には花の姿が無く、その代わりに小さな少女のような花弁のような羽の生えた妖精の姿がありました。

 孤独だった魔物にも、ようやく伴侶と呼べる存在が。これを機に、魔物は子供たちとも知り合い、孤独ではなくなりますが、禍福はあざなえる縄の如し……
 
 
>魔物が善良である事を知った村人や神父、薬師の治療の甲斐も無く魔物は弱っていき、そして、月の無い夜、自分の最後を知った魔物は森の奥へと消えようとしましたが、子供達に引き止められ、村の広場でお別れが行われる事になりました。

 他者のために命を散らせてしまう事になった魔物。でも、彼はこれで幸福だったのかもしれません。そして、最後まで善良だった魔物には天からのご褒美が。
 
 
>貴婦人はにこりと微笑んで「闇夜の妖精」であると名乗り、自分が嘗ての魔物であると村人に伝えました。

 魔物は新たな姿を手に入れましたが……何気にTSネタだったのですね、この話。えー話や(雰囲気ぶち壊し)
 
 という事で、童話調の外伝でした。「闇夜の妖精」と「月の無い夜に咲く花の妖精」が正伝に絡んでくることはあるのでしょうか。なかなか魅力的なキャラなので気になるのですが……




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