りばーしぶるハート〜しおさい女子寮物語〜 異聞

彼女達の日常



ACT.3  新たな学校生活の始まり(後編)


   始業式を終えて、教室へと戻った私たち。

 沢渡先生も間を置かず教室に姿を見せ、そのまま何事も無くホームルームが始まるはず………だったんだけど………。

 しばらく教室を見渡していた先生は、何事か思いついたのか、急に机を言う通りに移動させて欲しいと言ってきた。

 ニッコリと、子悪魔チックな笑みを満面に浮かべて。

 その笑みがこれからの私の運命を現しているようで、私は一気に不安に駆られる。

 後から後から湧き上がる不安に必死に絶えながら、自分の机を言われた通りの場所へ移動させた私は、自分の不安が現実のものになったことを悟った。

 先生は、机を何かの会議でも行うかのようにコの字型にし、その上で私の机をみんなが見える黒板の前に配置したのだ。

 ここまでお膳立てされてしまったら、もう逃げられない。

 諦めて、最後通告を受け入れた私は、それでも最後の抵抗とばかりに、チラリと恨みがましい視線を先生に送った。

 その視線に気付く先生。

 私が視線に込めた意味に気付いたのか、額に大きな汗を浮かべながらも、やっぱりあの子悪魔チックな笑みは消さずに話し掛けてきた。


「こらこら、長瀬さん。そんな顔してると、可愛い顔が台無しダゾ♪」

「先生、仕組みましたね………?」

「や、やぁねぇ。別に、面白そうだからーとか、長瀬さんが困る姿が見たいなーとか思ってないってば♪」

「思ってたんですね………。」

「うっ………。ま、まぁ、ちょっとしたオ・チャ・メということでぇ………許して、ね?」

「はぁ………分かりました。」

「そうこなくっちゃ♪」

「でも、こういうことはこれっきりにして下さいね?」

「オッケー、オッケー。 それじゃあ、これから自己紹介と長瀬さんへの質問会を始めるわよ!」


 ウインクを1つして、先生はみんなの方へ向き直ると、高らかに宣言した。

 波瀾に満ちるであろうホームルームが、幕を開ける………。



***


「はぅぅ………。まさか、今時テレビのドラマでも見ないようなシュチュエーションを体験するとは思わなかったよ………。」

「あははは。すごかったもんねぇ、男子の質問攻め。まるまる1時間、ノン・ストップだったもん。」

「笑い事じゃないよ、雪奈ぁ………。本当に大変だったんだからね。」

「うふふ。ひろのさん、タジタジになってましたものね。見てる方は、結構面白かったですけど。」

「真奈までぇ〜。」


 時刻は、すでにお昼過ぎ。

 伸びに伸びたホームルームもようやく終わり、先ほどのことを振り返りながら、私たちは帰途へついた。

 時間が時間ということもあって、既に生徒の数もまばらな学校内を抜け、校門を出る。

 そこで、今の時刻を確認した雪奈は、急に慌て始めた。


「いっけない、バイトの時間に遅れちゃう! 真奈、ひろの、また明日ね!」


 それだけ言い残すと、雪奈は私たちが帰る方向とは反対方向へ走っていった。

 彼女の姿が見えなくなるまで見送り、私たちも歩き始める。

 途中、真奈の要望で商店街に立ち寄った私たちは、そこで1人の女性と出会った。


「あれぇ〜? 真奈ちゃんとひろのちゃん、今帰り〜?」


 この女性は、折原美紗緒先輩。

 いつも元気で明るい、しおさい寮のムードメーカ的な存在の女性だ。

 大の話好きで、何時間話をしていても飽きない、とても面白い人なんだよ。


「折原先輩? どうしたんですか、こんなところで?」

「む〜、この先のパン屋さんへお昼を食べに行こうと思ってね〜。ひろのちゃんたちも行く〜?」

「そうですね………ご一緒します。」

「決まりだね〜。じゃあ、早速行こうよ〜。」


 折原先輩に案内されて、私たちは件のパン屋さんへと向かった。

 評判のお店というだけあって、広い店内ではたくさんのお客さんがパンを選んでいる。

 みんな美味しそうなのでどれにしようか迷っていると、ちょうどパンを買い終えた1人の女性が私たちの方へ近づいてきた。


「あら? あなたたちもここのパンを買いに来たの?」

「あ、こんにちは、皐月さん。」


 こちらの女性は、宮田皐月さん。

 商店街の外れに店を構える、骨董品店「五月雨堂」の店主さんだ。

 優しいお姉さんといった雰囲気の人で、よく手料理をお土産に寮へ遊びに来てくれる。


「皐月さんは、よくこのお店に来られるんですか?」

「ええ。朝食はここのパンと決めているのよ。」

「そうなんですか? じゃあ、ここのオススメとか、教えてもらえません?」

「そうねぇ………。ここのはどれも美味しいけど、私的はフルーツ・パイなんかがオススメかな。」

「フルーツ・パイ………これですね。わぁ、本当に美味しそう………。」

「味も女性好みだし、サッパリとしていて食べやすいから、私は好きよ。」

「それじゃ、皐月さんを信じてこれにします。」

「お役に立てたみたいね。じゃあ、私はこれからお客さんと商談があるから、これで。また、寮の方にも顔を出させてもらうわね。」

「あ、はい。さようなら、皐月さん。」


 皐月さんは手を小さく振ると、パンが入った袋を抱え直してお店を出ていった。

 私も会計を済まして、お店の中の喫茶スペースへと足を運ぶ。

 そこでは、既に自分の分を買い終えていた真奈と折原先輩が私を待っていた。


「遅くなってすいません。選ぶのに、手間取ってしまって。」

「む〜、そんなに待ってないから大丈夫だよ〜。それじゃ、食べよっか〜?」

「そうですねぇ。」

「ええ。早速、頂きましょう。」


 折原先輩に促され、遅めの昼食会が始まった。

 評判通り美味しいパンに会話も弾み、楽しい時間があっという間に過ぎていく。

 気が付けば、空の頂点で輝いていた太陽が、西のほうへ傾き始めていた。

 どうやら、だいぶ長居をしてしまったらしい。

 軽く後片付けをしてお店を出た私たちは、ようやく寮へ向かって歩き始めたのだった。



***


 その夜、夕食とお風呂を済ませた私は、昼間届いた教科書を整理するため、早々に部屋に戻った。

 ダンボールから1冊ずつ取り出し、落丁や乱丁が無いことを確認して、机の上の本立てに収めていく。

 30分ほどで作業を終えた私は、引出しの中から1冊の日記帳を取り出した。

 向こうの街を発つ時に芹香先輩から餞別にと頂いたもので、新学期が始まったらこの日記帳に思い出を刻んでいこうと、今まで大事に仕舞っておいた日記帳だ。

 とめ具に付けられた鍵を外して日記帳を開くと、真新しい紙の匂いが鼻腔をくすぐる。

 その匂いを胸いっぱいに吸い込み、今日の思い出を日記帳へ綴り終えた私は、窓から見える夜空へ目を向けた。


「キレイな星空………。どうか、明日も晴れますように………。」


 都会とは比べ物にならないほど多く輝いている星々に願いを込めて、私はベッドに入った。

 素敵な夢が見れること夢見つつ…………。


続く



あとがき


 PCの不具合が続く中で、ようやく第3話を発表することが出来ました。

 ひろのの転校初日のストーリーの後半部です。

 波瀾に満ちたホームルームの状況など、拙い文章力でどこまで描写できたか不安ですが………。

 とりあえず、第4話はひろのたちの休日を描こうと思っています。

 誤字・脱字等、また感想なんかはRXF−101まで。


 RXF−101

管理人のコメント

>ここまでお膳立てされてしまったら、もう逃げられない。

転校生のお約束、質問タイム!(笑) 一体どんな事になるかと思いきや…

>あははは。すごかったもんねぇ、男子の質問攻め。まるまる1時間、ノン・ストップだったもん。

1時間ノンストップ…それは厳しい。まぁ、男子たちの気持ちはわかりますが(爆)。

>この女性は、折原美紗緒先輩。

自分で設定したとは言え、やっぱり美紗緒がひろのに「先輩」と呼ばれてたり、女性と表現されるのは違和感がありますね(笑)。
いつまでたっても「少女」でもなく「女の子」という感じのキャラですから。

>ええ。朝食はここのパンと決めているのよ。

美紗緒に続き皐月さんも登場!しかし、朝食って…時間的にはもう昼過ぎなんじゃ。それに「HONEY BEE」には行かなくて良いのか…?

>引出しの中から1冊の日記帳を取り出した。

おお…日記帳。こういうものに思い出を刻んでいく…乙女にしか成し得ない技ですね(爆笑)。

さて、次回は休日の過ごし方ですか。しおさい寮のある町は田舎で娯楽は少ないのですが、果たして彼女たちがどんな風に過ごしているのか注目されますね。


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