りばーしぶるハート〜しおさい女子寮物語〜


外伝その3 祐香と美紗緒のラプソディ


 さわやかな朝の風を胸いっぱいに吸い込んで、相沢祐香は背伸びをした。
「あぁ〜…今日もいい朝だなぁ」
 そうつぶやき、再び学校への道を歩き出す。周囲には同じ学校へ通う生徒たちの流れができていた。
「このところ、こんなにのんびりした朝はなかったなぁ」
 祐香は昔のことを思い出す。叔母と従姉妹の母娘の家に下宿していたころは、異常なまでに寝起きの良くない従姉妹のせいで、毎朝が遅刻ぎりぎりの恐怖だった。その従姉妹に今はそっくりな祐香であるが、幸いそういう体質までは似なかったらしい。毎朝寝起きはすっきりしたものだった。
 しかし、しおさい寮にも強敵はいた。隣室の仲間でクラスメイトの折原美紗緒。彼女の寝起きの悪さはこれまた天下一品であった。同じ寮生で下級生の長瀬ひろのも寝起きはかなり良くないが、彼女はまだ起きようと努力してくれるだけマシである。
 これに対し、美紗緒は決して素直に起きようとしない問題児だった。ただ起きないならともかく、ベッドには丸めた座布団でダミーを作って、自分は押し入れの中で寝ることで起こしにきた人を誤魔化したり、一度しゃっきりと起きたように見せかけて二度寝したり、芸も多彩である。
 さすがの祐香もこれには手を焼き、ついに今朝は美紗緒を放置して学校に行くことを決めたのだった。
「ふふん、たまにはみさも苦労してしかるべきだわ」
 今ごろは慌てふためいているだろうな、と美紗緒の様子を想像してくすりと祐香が笑った時、彼女は校門に続く道に出た。角を曲がって二、三歩歩いたその時、祐香は校門の近くに見知らぬ男たちが数人たむろしているのに気がついた。
(なんだろ…あんまりお近付きになりたいタイプには見えないなぁ)
 祐香はそう思ったが、典型的なストリートファッションを装備したその男たち…と言うより、少年たち、だろう。どうも祐香とはあまり歳が違わないようだ…は彼女とは別の意見があるようだった。祐香の姿を認めると、すっと立ち上がり、祐香のほうに向かって来た。そのうちのニット帽を被った少年が口を開いた。
「おい、あんた」
「…あたしですか?」
 横柄な態度にちょっとムッとした祐香だったが、できるだけ落ち着いた態度を保つよう心がけて答える。
「おうよ。ちょっと人を探してるんだけどよぉ。ここの女子生徒でよ、あんたと同じ学年なんだが」
「はぁ…」
 祐香は生返事をした。田舎の学校とは言え…いや、そうだからこそ、この学校の生徒はかなり多い。1学年200人は超えるだろう。「同じ学年」と言うあいまいな情報では何も分からない。
 しかし、少年のほうもその辺は心がけていたらしく、しっかりとした特徴を挙げる。
「見た目はあんたよりも子供っぽい感じで、髪はボブカット。『む〜』って言う口癖があったな」
(ぶっ!?)
 祐香は思わずのけぞった。そんなわかりやすい特徴の持ち主は、彼女の知る限り一人しかいない。
(み〜さ〜!あんた何やったのよ!?)
 事情も聞かないうちから美紗緒が悪いと脳内で断言し、祐香はため息をつくと少年を見た。
「ま、まぁ…知らない事も無いけど…その娘が何かしたの?」
 とりあえず事情を聞こうと、祐香は口を開いた。すると、少年の顔が怒りで赤く染まった。
「何かした、じゃねぇよ…あいつのせいで俺は大損だっ!この落とし前をつけなきゃおさまんねぇ!!」
 物騒な事を言う。美紗緒が何をしたのかはわからないが、相当彼らを怒らせるような事をしでかしたのは間違いない。
(まったく、あの娘は…かと言って見捨てるわけにも…)
 祐香は考えた。普通なら美紗緒の首根っこをつかんで引っ張ってきて謝らせるところだが、少年たちも相当頭に血が上っている。対面させたら何かひどい事になりかねない。それに、一応美紗緒の釈明も聞いてやる必要があるだろう。
「…もし見つけたら、あなた達のところに顔を出すように言っておくわ。連絡先教えてくれる?」
 祐香がそう言うと、少年たちはうなずいて携帯電話の番号とアドレスを紙に書いて祐香に手渡した。祐香は頷いて少年たちに礼を言うと、ようやく校門をくぐった。一度は校舎のほうに行きかけ…思い付いた事があってその裏に回る。そこは、祐香たちが通ってくる通学路に面したフェンスの傍だった。
 そこで祐香が待つ事、約五分。聞きなれた騒がしい声が道の向こうから聞こえてきた。
「む〜、遅刻、遅刻しちゃうよ〜!!」
 美紗緒の焦りまくった声が聞こえる。祐香としては痛快な気持ちを味わいたいところだが、今はそれどころではない。タイミングを見計らって、祐香は声をかけた。
「待ちなさい、みさ!」
 その声に、走ってきた美紗緒が急ブレーキをかけ、つんのめって転びそうになる。体勢を立て直してきょろきょろとあたりを見回し、祐香の姿に気がつくと、美紗緒は頬を膨らませて祐香の近くに歩いてきた。
「む〜、裕香ちゃん、起こしてくれないなんてひどいよ〜!」
 今朝の一件について抗議の声を上げる美紗緒。祐香は片手を上げてその声を制し、美紗緒に向かって言った。
「その話は後で。それより、校門の方に行かないで、裏門に回んなさい」
 祐香の言葉に、美紗緒はかわいらしく首をかしげて尋ねた。
「なんで?」
「それも後で話すわ。良いから言う事を聞きなさい」
 祐香が強い調子で言うと、美紗緒は困ったような怒ったような声で反論した。
「む〜、やだよ面倒だよ〜。裏門まで行ってたら遅刻だよ〜」
 この学校の裏門は、学校の敷地を長方形、正門を底辺の真ん中と仮定した場合、右辺の最上部、ほぼ角の位置に存在する。ちなみに、現在二人がいる場所は左辺の上から約4分の3と言ったところ。裏門へ行くには、ほぼ学校を半周する計算になる。確かに面倒くさい。
「面倒でも遅刻でもそうしなさい!正門でなんかあんたを待ち構えている連中がいるのよ!」
 祐香が更に強い調子で言うと、美紗緒はしぶしぶ頷いた…と思いきや、にぱっと笑うと、少し後ずさりした。そして、祐香が止めるまもなくジャンプした。
「えいっ♪」
 伸ばした手をフェンスの上に引っかけ、足を上げてフェンスをよじ登り始める。美紗緒が足を上げる度に、短めの制服のスカートが捲れ、彼女のピンクのショーツがちらちらと覗く。
「ちょ…みさ!何やってんの!!やめなさい!!」
 祐香が顔を赤くして叱責するが、美紗緒は気にもとめない。その様子に、登校途中の男子生徒の足が止まり、「おおおっ!?」と言う歓声が上がった。すると、祐香の怒りの矛先は彼らに向けられた。
「ええいっ!!見せ物じゃないわよ!!散れっ!!」
 祐香の怒号に、男子生徒が慌てて散らばる。その中を悠々とフェンスを登り切った美紗緒は、ひょいっと地面に飛び降りた。スカートがパラシュートのように膨れ、ショーツが完全にむき出しになり、まだ様子を窺っていた男子たちに歓声を上げさせたが、美紗緒はやはり気にも留めず、両手を挙げたポーズを取って
「10点、10点、9点、10点…」
 などと体操競技の採点の真似をしていた。そこへ、祐香が赤い顔のままチョップを振り下ろす。びしっ!と言う鋭い音がして、美紗緒ははたかれた頭を抱えてしゃがみこんだ。
「む〜…痛いよ祐香ちゃん。何すんのさ〜」
 涙目で祐香を見上げて抗議する美紗緒。よほど痛かったらしい。
「うっさい!素直に裏門行けば良いのに、こんなところで朝から不要なサービス精神発揮してんじゃないわよ!!」
 祐香が一喝する。羞恥心の薄い…と言うより皆無な美紗緒に代わって、祐香が恥ずかしがったり怒ったりするのは、すでにこの学校の名物だ。
「む〜、あたしは気にしないのに〜…それより、正門のところの人たちってナニ?あたし覚えが無いよ」
 美紗緒の言葉に本題を思い出した祐香は、美紗緒を連れて校門の見える位置に立った。先ほどの少年たちはまだそこにいて、鋭い視線で生徒たちを威嚇していた。
「あの人たちよ。見覚えはない?」
 祐香に促され、美紗緒は彼らを見たが、首をひねって考え込むばかりだった。
「む〜…覚えがないよ〜」
 美紗緒がそう言った時、予鈴が鳴り響き始めた。祐香ははっとして顔を上げると、すぐに美紗緒のほうに向き直って言った。
「わかった。ゆっくり思い出してちょうだい。その代わり、その後でじっくりと話を聞かせてもらうから」
「む〜、了解だよっ!」
 祐香の言葉に美紗緒が頷き、それから二人は教室に向かって駆け出した。

 美紗緒が全てを思い出したのは、昼休みになってからだった。
「あっ、祐香ちゃん、今朝の人たちの事を思い出したよ〜」
 美紗緒の向かい側で昼食を食べていた祐香は顔を上げた。
「本当に?じゃあ、事情を聞かせてもらえるかしら」
 祐香が聞くと、美紗緒は食べていたうどんの最後の一本をちゅるんっ、と口の中に滑り込ませて答えた。
「あの人たち…っていうかね、ニット帽を被っていた人と、この間一緒に遊びにいったんだよ〜」
 ニット帽…あぁ、あのリーダーっぽい彼か…と祐香は思い出し、それから首をかしげる。
「遊びに行った?みさ、彼は友達か何かなの?」
 祐香は尋ねた。行動派の美紗緒は、しおさい寮のみんなの知らないところにいっぱい友人を作っている。学校での友人も多い方…というより、「一度でも言葉を交わせばもうお友達」とみなすのが美紗緒の性格だ。
 それでもあまり嫌がられないのは、彼女の人徳…と言うものだろうか。あまり美紗緒には似合わない言葉であるが。
「ううん。全然知らない人だったよ」
「は?」
 美紗緒の答えに、祐香は訳がわからず間抜けな声をあげた。
「あのね、街で声を掛けられて、俺と遊ぼうぜ〜、って言われたから一緒に行ったんだよ〜。ゲーセンとかカラオケとか〜」
「…それ、遊びに行ったんじゃないわよ」
 祐香は呆れたように言った。美紗緒が体験したのは、どうみても「ナンパ」と言うヤツだろう。
「それで?」
 祐香が先を促すと、美紗緒は嬉しそうに答えた。
「それで、晩ご飯とかもおごってもらって〜…で、あの人が一休みしよう、って言ってきたんだけど、見たいアニメがあったから、あの人がトイレ言ってる間に帰ってきちゃった」
「はぁ…」
 祐香は溜息をついた。美紗緒のことだから、さぞかし甘えた口調で彼にいろんな事をしてもらったに違いない。だからこそ、ナンパ男の方でも「脈あり」と判断したのだろう。実際には、美紗緒はその彼と「一休み」する事なんてなーんにも考えていなかったのだろうが。
(…つまり、美紗緒に散々おごらされた挙句、最後の最後で逃げられたんで恨んでいる、と…アホね)
 今朝のナンパ男に対し、心中で情け容赦の無い判断を下したあと、祐香はおもむろに美紗緒の頭に本日二発目のチョップを振り下ろした。ずびし、となかなかいい音がする。
「む〜痛いよ祐香ちゃん〜…なんで叩くの〜?」
 叩かれた美紗緒が涙目で抗議するが、祐香は冷たい口調で聞き返した。
「みさ…知らない人にほいほい付いて言っちゃいけないって、学校で習わなかったの?」
「あう…」
 美紗緒は頷いた。
「あのね、あんたのやった事はかなり危ない事だったのよ。もしホテルにでも連れ込まれて乱暴される事になってたら取り返しがつかないよ?」
 祐香の言葉に、さすがの美紗緒も反省したらしく、落ち込んだ表情で頷いている。
「…まぁ、そういうことにならなくて良かったけど、その彼と話をつけないと危ないわね」
「ふぇ?」
 美紗緒の反省を見て取った祐香が話題を変えると、美紗緒は首を傾げて祐香の顔を見た。
「あの彼、相当怒ってるわよ。下心があってやったこととは言え、奢ってもらって礼もいわずに逃げてきたんだから、ちゃんと礼を言って謝らないと」
 祐香が諭すように言うと、美紗緒はしばらく考え込んで、それから頷いた。
「む〜…わかったよ。祐香ちゃんの言うとおりにする」
「よし、えらいよ、みさ」
 美紗緒がわかってくれた事を誉め、祐香は彼女の頭を撫でた。美紗緒が「えへへ〜」と気持ち良さそうな表情になるが、その一方で祐香は話がそう簡単に収まると楽観視はしていなかった。
(もし、相手が納得せずに実力行使に出てきたら厄介ね。こう言うときに頼れそうな人は、皐月さんは一方的虐殺になっちゃうから論外として…)
 万が一に備え、祐香は二人の助っ人を選ぶと、まず今朝のナンパ男に電話をして、美紗緒が謝りたいから話を聞いてくれるように伝えた。そして、助っ人二人のところヘ行き、協力を依頼した。

 そして、放課後。祐香と美紗緒は例の彼らが指定した住宅地のはずれの空き地に来ていた。待っていると、ナンパ男が4人の仲間を連れて現れた。
「約束どおり、この娘は連れてきたわよ。さ、美紗緒」
 祐香がまずナンパ男に挨拶してから美紗緒を促すと、美紗緒は一歩進み出て、ナンパ男に向かって頭を下げた。
「む〜…その…この間はありがとう。それと、ごめんなさい」
 美紗緒は心をこめて感謝と謝罪の言葉を口にした。しかし、ナンパ男は不機嫌そうに顔をしかめただけだった。祐香は嫌な予感がするのを感じたが、それを裏付けるようにナンパ男が口を開いた。
「そんな事を聞きてぇんじゃねぇよ」
 男が言うと、仲間たちがじわじわと前に出始めた。祐香は進み出ると、彼らと美紗緒の間に割って入り、ナンパ男をきっと睨みつけた。
「ちょっと、みさはちゃんと謝ったじゃない。それとも、弁償でもして欲しいの?」
 祐香が言うと、男はますます不機嫌そうに答えた。
「うるせぇ!金の問題じゃねぇって言ってるだろ!こうなりゃとことん付き合ってもらうって言ってんだよ。邪魔すんな」
 すると、仲間の一人がいやらしい目つきで祐香を見ながら言った。
「なぁ、タク。俺はこっちのお姉ちゃんの方がいいんだけど、どうだい?」
 どうやらタクと言うらしいナンパ男は振り向くと、好きにしな、と言った。それに答えて仲間がそうこなくっちゃ、と笑って答える。祐香は状況が想定した最悪のものになった事を悟った。
「くっ…仕方ないわね。麻咲先輩!真奈ちゃん!!」
 祐香が呼びかけると、空き地の入り口に二人の人影が現れた。
「そこまでにしときな」
「うちの店子に手出しは許しません!」
 しおさい寮の腕力担当、伊藤麻咲と相川真奈の二人だった。背後に出現した敵に一瞬動揺した男たちも、相手が女の子二人…背の高い麻咲はともかく、下手したら小学生に見える真奈と見ると、たちまち自分たちの優位を確信した。
「邪魔する気かい?悪いこた言わねぇからやめときな」
 一人が嘲笑と共に言うと、もう一人が手でいかがわしい仕草をしながら言った。
「それとも、こっちのほうで俺たちの相手をしてくれるかい?」
 そう言いながら、麻咲に近づいてその手を握ろうとする。次の瞬間だった。
「ぶふぁっ!?」
 悲鳴をあげて男が身体を折った。よく見ると、みぞおちに麻咲の鍛え上げられた足が深々とめり込んでいる。
「汚い手でさわるな」
 麻咲が言うと同時に、男は地面に崩れ落ちた。それを見て、残る4人は激昂した。
「このアマ!?」
 殴りかかる一人を軽やかなステップでかわし、逆に強烈なパンチを見舞う麻咲。よろめいたところを更に蹴りを叩き込んで撃沈させる。さらに、別の二人には真奈が向かっていた。こちらはどう見ても肉弾戦担当じゃない、と油断しまくっていた男たちだったが、真奈は信じられないくらいに強かった。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
 構えを取った真奈が、踏み込みざまに全力を込めた掌底の一撃を見舞い、相手を轟沈させる。その信じられない光景に目を見張った最後の一人が気を取り直すより早く、真奈は回転しながらジャンプし、相手の首筋に蹴りを打ち込んでいた。物も言わず男が倒れる。
 並みの男よりも遥かにパワーのある麻咲と、見た目に似合わず空手の有段者である真奈にかかれば、ちょっと喧嘩慣れしてる程度の男4人、しかも油断している連中など敵ではなかった。
「麻咲先輩、真奈ちゃん、さっすが!」
 祐香の歓声に親指を立てて応え、二人はタクに向き直った。
「さて、まだやる?」
 麻咲が睨むと、タクは露骨に狼狽した表情になって言った。
「ま、待ってくれ…そんな気はないんだ。俺はただ…」
「ただ、何よ?」
 祐香が言うと、タクは言いにくそうに口をもごもごさせていたが、やがてはっきりした口調で言った。
「俺は…俺はただ、その…みさちゃんに本気でお付き合いして欲しいだけなんだ!!」
『…は?』
 4人の目が思わず点になった。

 しばし沈黙が流れた後、祐香はタクと、倒れている彼の連れを交互に見ながら言った。
「みさの事逆恨みして拉致りに来たんじゃないの?」
 すると、タクは真っ赤な顔になって言った。
「そんなわけねぇだろ。この間、ちょっと先走りすぎて怖がらせたみたいだから、ソフトなお付き合いをしようと思っただけだ」
 どうやら、ホテルに誘った後で美紗緒が逃げたのを、怖がらせたからと勘違いしたらしい。もし「ただアニメが見たかったから」と言う真実を告げたらどうなるだろう、と祐香は思った。
「…じゃあ、なんで仲間を連れて来て脅したりしたのよ」
 祐香が更に聞くと、タクは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いや、こんな可愛い彼女ができたんだぞ、と自慢しようかと」
 再び沈黙が生じた。そして、美紗緒を除く3人はつかつかとタクに近寄ると、手を振り上げた。
「「「紛らわしい言動をするなー!!」」」
 連続した打撃音と共に、タクもまた仲間の後を追って轟沈したのだった…

 それからまた数日後の朝。祐香は美紗緒を起こしに行っていた。眠る美紗緒の横に立ち、ゆさゆさとベッドを揺さぶる。
「ほら、みさ。朝だよ。起きなさい」
「む〜…あと20時間〜」
 なにやら凄い単位を出してゴネる美紗緒に、祐香は溜息をつくと最終手段を行使した。
「早く起きないと、またタクに待ち伏せされるわよ」
 それを聞いた瞬間、美紗緒はがばっと跳ね起きた。
「む〜、それは嫌だよっ!早く行こ、祐香ちゃん」
 祐香は頷くと美紗緒の着替えや準備を手伝ってやり、それから二人で急いで朝食を取ると、通学路に飛び出した。しかし、しおさい寮の丘を駆け下りた瞬間、聞きたくなかった声が聞こえてきた。
「ま、待ってくれ、みさちゃん〜!!」
 タクだった。あれ以来、彼はしつこく美紗緒へのアタックを続けていた。
「む〜、ヤツが、ヤツが来たよっ!!」
「ぶっちぎるわよ、みさ!」
 二人は追いかけてくるタクを引き離すために全力疾走に移った。走りながら、祐香は美紗緒に尋ねた。
「美紗緒」
「はぁ、はぁ…む〜、なぁに、祐香ちゃん」
「知らない人について行っちゃいけないってよ〜くわかったでしょ?」
 祐香の言葉に、美紗緒は何事にもめげない彼女にしては珍しく弱りきった声で答えた。
「はぁ、はぁ…む〜、心の底から反省してるよ〜…」
 祐香は頷いたが、結局美紗緒の起こした厄介ごとの始末と、その結果に今も付き合っているわけで…
 人の良い彼女の災難は今後も続きそうである。

(おわり)

あとがき

 りばハ本編シリーズ第三弾をお送りしました。今回は今まで出番の少なかった祐香が主役です。
 なんと言うか、彼女と美紗緒は同じ歳のはずなのですが、こうしてみると親友同士であると同時に姉妹のようでもあるような不思議な関係です。もちろんお姉さんは祐香のほうですが(笑)。
 さて、ここで裏設定情報。今回は学生組6人の部活について。
 麻咲が陸上部、絵美が美術部と3年生二人が部活を熱心にやっているのは今までにも公開されていますが、実は他の4人も部活に入っています。義務になっていますので。で、何に入っているかと申しますと…
 ひろの:バレー部
 真奈:家庭科部
 祐香:女子陸上部(マネージャ)
 美紗緒:簿記部
 美紗緒が何か似合わない部活に入ってる!とお思いでしょうが、実はここは幽霊部員公認の部なのです(笑)。
 さて、30万までに今度こそ真奈の話を書かねば…ということでまたお会いしましょう。


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