2003年 11月13日 Kanon領スノーシティー上空


 視界いっぱいに青空が広がっている。故郷であるAir皇国の、どこまでも吸い込まれそうな深みのある蒼とは異なり、この北の空は手を伸ばせば叩けそうな、固さを持った藍に見える。今、川口茂美少尉を含む元Air皇国空防隊のメンバー達は、Kanon北部戦線の要衝、スノーシティーの防衛任務に当たっていた。Airではまだ夏の日々が続いているが、この辺りでは既に秋の最中であった。
 大陸中部の弱体な都市国家群に侵攻し、そこを策源地として南部からKanon国領に侵攻していたTactics連邦軍は、隕石迎撃砲<ストーンヘンジ>の戦力化、及びAir皇国の降伏と言う情勢の変化を受け、遂にKanonの主要部である大陸北岸地域への全面侵攻を開始した。
 この大陸北岸にはKanonの首都ポートエドワーズや北部最大の港湾都市セントアークと言った重要拠点が数多くあり、それらの都市群への交通の結節点となっているのが、このスノーシティーであった。この都市を失うことは、Kanon国を失うのと同義であり、同国を中心として各国の亡命軍を糾合し結成された独立国家連合軍―ISAFが大陸に足場を保てるかどうかの瀬戸際だった。
 Airへ…祖国へ還るためにも、ここから先にTactics軍は通さない。茂美がそう思ったその時、味方のAWACS(早期警戒管制機)からの通信が入った。
『こちらスカイエンジェル!方位192にボギーの大編隊だよっ!ボギーは2群、第一群は高度3000メートル、第二群は高度1500メートルから大挙侵攻中!総数はそれぞれ30〜40機!みんな、阻止してねっ!』
 軍人とは思えない、賑やかで子供っぽいしゃべり方をする<スカイエンジェル>は、その言動に似合わずKanon国防空軍きっての前線航空統制官として有名だ。指示の的確さもさることながら、その独特の言動にはパイロット達の士気を大いに高める効果があるらしい。ISAFに合流してからの元Air空防隊員達の中にも、<スカイエンジェル>のファンは間違いなく増えていた。茂美も、所属基地が違うので会った事はないが、同じ女性の空軍軍人として、ぜひ一度会ってみたい相手だった。
『トレイナー1より各機へ。会敵。全機ACMスタンバイ』
 そして、場を引き締めるように部隊全てを統括するKanon空軍の<トレイナー1>こと石橋中佐が命令を下す。そのコールサインの通り、Kanon空軍でも精鋭中の精鋭と言うべき教導飛行隊…訓練時に敵機役となり、まだ未熟なパイロットたちを撃墜しまくる猛者達のリーダーだ。その飛行ぶりにはまったく隙がなく、一目見ただけで自分などには到底勝ち目がない、と茂美は思った。何しろ、Air空防隊では屈指のエースたる佐久間でさえ同じ事を言っていたのだから。
『エア・リードより編隊各機へ。規定の方針通り攻撃隊を叩く。戦闘機の相手はするな』
「了解!」
 今度は、佐久間の命令が聞こえてきた。一斉に答える茂美たち。このKanon戦線にはTactics連邦軍も最新鋭機を投入しており、Air空防隊の機体では制空戦闘は手に余る。そちらはF-15、16などの強力な制空戦闘機を擁するKanon空軍に任せ、自分達は攻撃機を叩く。それが、事前に定められた協定だった。
 中にはその決定に不満そうな顔をする者もいたが、茂美にとってはその任務は大歓迎だった。敵の目的はスノーシティー防衛線を叩くことなのだから、攻撃機を墜とす方が戦局に貢献するはずだ。
『よし、全機ドロップタンク・ダウン!レッツ・ロックンロール(突撃開始)!!』
 頃合を見計らい、佐久間の指示と共に各機翼や胴体の下に吊るしていた増槽を切り離す。そして、一斉にTactics攻撃隊に向かって突っかかって行った。

カノンコンバットONE シャッタードエアー


外伝 翼の還る処


Mission0.75 運命の交差する刻


 戦闘は定石どおり中距離ミサイルの撃ち合いから始まった。じりじりするような中間誘導時間が過ぎ去り、ミサイルが自力で索敵できる距離に入った瞬間、各機とも次々に回避のために翼を翻す。その中で逃げ遅れた者がミサイルに食いつかれ、断末魔の悲鳴をあげて撃墜されていく。
 茂美たちエア・スコードロンには幸い被撃墜機はなかったが、ホッとする間もなく激しい戦闘が始まった。
『スカイエンジェルよりエア・スコードロン!ボギーはSu-24みたいだよ。気をつけてねっ!!』
 無線からの声に、茂美は敵機の諸元を思い浮かべた。スホーイSu-24<フェンサー>。元はアメリカのジェネラル・ダイナミックスF-111<アードバーグ>に対抗した大型の戦闘爆撃機だ。主にAir戦線に投入されていたMig-27<フロッガー>よりは確実に手強い相手である。
『エア・リードより全機へ!聞いてのとおりだが難しいことは考えるな!何時もの通りにやれば勝てる!!』
 佐久間の声に茂美は頷いた。いくら手強くても爆装した攻撃機は所詮カモでしかない。爆装を投棄して向かってくれば話は別だが、それでも攻撃を阻止すると言う最大の目的は果たせる。
「シャーマン、了解!」
 茂美は叫んで佐久間機の後ろにつけた。彼が攻撃する間、後方を守るのだ。先の戦いで佐久間が茂美をフォローしてくれたように、である。
 その佐久間は、よどみない動きでたちまち2機のSu-24を叩き落した。他の味方機も負けじと攻撃を繰り返す。Su-24の群れは、狼に襲われた羊のそれのように大きく乱れ始めた。
『エア・スコードロン!敵の戦闘機が乱戦を突破、そっちへ向かっているよっ!!警戒して!』
 その時、スカイエンジェルの切羽詰った声が無線から響いてきた。茂美が素早くレーダー・スクリーンに視線を走らせると、4機の敵戦闘機が逆落としに突っ込んでくるのがわかった。
「こちらシャーマン!迎撃に回ります!!」
 茂美は機体を急上昇させた。すぐに上空から向かってくる敵機を視認する。それまでの無骨なロシア機の印象を覆す、優美とも言える曲線主体のライン。二枚の垂直尾翼。間違いない。ロシア新世代戦闘機の第一陣、Mig-29<ファルクラム>だ。
「ストアよりシャーマン!手強いぞ!気をつけろ」
 同じく迎撃に回ってきたらしい<ストア>こと米屋中尉の声が聞こえてきた。茂美は返答代わりにマイクのスイッチを2回鳴らして応え、敵の一機に狙いをつけると横から突っかけるような動きを見せる。彼女の動きに気付いたのか、そいつは降下を中止して水平飛行に移ると、素早く横転旋回して茂みの後ろを取ろうとしてきた。
(さすがに速い!)
 敵<ファルクラム>の敏捷な動きに茂美は舌を巻いた。もともと、Mig-29はアメリカのF-16やF-15を仮想敵とする制空戦闘機で、運動性はそれらのライバルをも超えていると言われる。彼女の<ミラージュV>も悪い機体ではないが、Mig-29と対等に戦えるか?と聞かれればそれは難しい。
(でも、やるしかない!!)
 茂美は意を決して機体を操った。相手にバックを取らせないように機体を小刻みに揺らしながら、基本的には螺旋を描くようにして飛行する。しかし、Mig-29は彼女の背後に吸い付くように近づいてきた。やはり、機動性が断然違うのだ。断続的だったロックオン警報音がたちまち連続音に変わり、次の瞬間「ミサイル!ミサイル!」と言う警告音声が流れた。敵機がミサイルを発射してきたのだ。
 その瞬間、茂美はフレアを放り出して機体をロールさせ、次いでエンジンを吹かし、ほとんど垂直と見間違えるような角度で上昇を開始した。ミサイルがフレアに吸い込まれ、爆発するその衝撃に乗るようにして、彼女の<ミラージュV>は藍色の空へと駆け上がった。
 敵機…Mig-29もその後についてくる。茂美は微笑んだ。相手が冷静なら、自分を放っておいて攻撃隊を叩くエア・スコードロン攻撃を優先するはず。それをしないのは、旧式機と侮ったこちらに攻撃を回避されたせいだろう。むやみにアフターバーナーを吹かし、彼女の後を追ってくる。
(そろそろ…かな?)
 頃合を見計らい、彼女はエンジン出力をいきなり落としながら機体を揺らした。機が失速し、まるで石を落すように重力に引かれて降下し始める。相手は一瞬その対応に遅れた。いきなり落下し始めた茂美の<ミラージュV>の横を駆け抜け、上空へ昇っていく。余程慌てていたのか、上昇を中止してダイブに移ろうとするが、それは上昇の頂点で一瞬機体を静止させるに近い無防備な瞬間を作り出していた。
 既に体勢を立て直していた茂美は、その隙を見逃さなかった。トリガーを引くと、飛び出していったミサイルは狙いを過たずMig-29に噛み付いてその機体を粉砕した。
『グッドキル!』
 佐久間の声が聞こえた。茂美が辺りを見ると、少し下方を佐久間の<グリペン>が飛んでいた。その周りに味方機が集結しつつある。どうやら、攻撃隊に大打撃を与え、これを追い返したらしい。さらに上方で激戦を繰り広げていた双方の制空隊も、凱歌を上げたのはISAF側の様で、かなり数を減らした敵機は西方へ―Tacticsの方へ飛び去ろうとしていた。
『こちらスカイエンジェル!ボギー群は撤退中!ボク達の勝ちだよっ!』
 スカイエンジェルの弾んだ声に、ISAFのパイロットたちが歓声を挙げる。数で上回る相手を押し返したのだから当然だ。しかし、次の瞬間その歓喜は一挙に暗転した。
『ちょっとまって…新手のボギーが出現!数は12機…う、うぐぅっ!?』
 パイロット達の間に緊張が走った。スカイエンジェルの「うぐぅ」は何か抜き差しならない事態が発生したことを伝えるサインだった。
『こちらトレイナー1!何事だ!?』
 石橋中佐の質問に、スカイエンジェルが震える声で叫ぶように答えた。
『き、黄色中隊…!黄色中隊が来るよっ』
 黄色中隊。その名はISAFのパイロット達に電撃を走らせたのに等しい衝撃を与えた。

「パーティーの前座は終わったようだな。これからの主役はオレ達だ。全機、コンバット・オープン」
 黄色中隊の隊長、「黄色の13」こと折原浩平少佐は無造作に命じた。いくら命令とは言え、先に味方をぶつけて消耗した敵をさらに叩く、と言う今回の作戦は、あまり面白くない。彼はどうせ戦うなら堂々と、という働き者ではないが、味方の犠牲の上に実績を積み上げることを潔しとはしない気風は持っていた。
『了解!』
 隊長の思いを知ってか知らずか、部下達が一斉に応える。正式名称をTactics連邦空軍第156戦術飛行隊と言うこの部隊は、Tactics空軍でも指折りのスーパーエースたちを集めた、文字通りの最強部隊である。
 さらに、彼らには恐るべき翼が与えられていた。ロシア、スホーイ設計局が誇る「フランカー・ファミリー」の最新作、Su-37<スーパー・フランカー>。Su-27をベースにカナードを装備し、エンジンノズルを推力偏向式に改めた機体だ。F-15などに匹敵する大型機でありながら、空中で直立したまま前方に飛行する「コブラ」、機体の向きを飛行方向に対して180度反転させる「クルビット」など、常識はずれの機動を可能としている。
 しかも、Tactics軍仕様のSu-37Tは電子機器を国産の新型に変更し、さらに性能向上を果たしていた。その成果は、戦闘開始からわずか数分後に明らかとなる。黄色中隊の長距離ミサイル攻撃により、一瞬でISAF軍側は7機が撃墜されたのだ。一気にパニック状態となったISAF軍に、翼に黄色のラインを走らせた12機のSu-37Tは矢のように突っ込もうとしていた。

『エア・スコードロン!アーマメントチェック!!』
 弾薬残量を申告せよ、という佐久間の命令に、茂美は素早くディスプレイに目を走らせた。
「シャーマン、フォックス・ツー2、フォックス・スリーはフルチャージ!」
 短距離AAMが2発、機関砲弾が全弾残っていることを申告する。他のメンバー達も次々に報告した。空戦の後だけに、それほど残弾の豊富な機体はない。それでも、佐久間は比較的弾数の豊富なメンバーをすぐに選び出した。
『シャーマンとストアは俺に続け!後のものは撤退しろ!指揮はジャッカルに任せる!!』
 佐久間の命令に全員が息を呑んだ。弾数が少なく、疲労は多いと言う状況で、佐久間は最強の黄色中隊と一戦を交えるつもりなのだ。
「こちらシャーマン、了解!」
 それでも茂美は迷わず返答した。Kanon空軍も石橋中佐ら、飛行教導隊のメンバーを中心に黄色中隊に挑みかかり、その間に戦闘能力を失った味方を撤退させようとしている。ここはできるだけ多くの友軍機を脱出させる場面なのだ。
「ストア了解」
 米屋中尉も応え、既にダッシュしている佐久間の<グリペン>を追うように彼自身の<ミラージュV>を飛ばしている。茂美も後に続き、3機は一丸となって空戦域へ突入した。
『エア・リードよりトレイナー1!助太刀するぞ!!』
『トレイナー1。酔狂者はいくらでも大歓迎だ!』
 佐久間の声に、石橋中佐が喘ぐようにして答えた。彼が渡りあっているのは、隊長機と思しき「13」のマークをつけた機体だ。両者の技量はほぼ互角のようだが、声を聞く限り石橋はかなりギリギリの勝負を強いられている。
 茂美も一機のSu-37Tに狙いをつけた。Kanon軍のF-16を追いかけている機体だ。助けに入れれば、と思ったのだが、それより早くSu-37Tの放ったミサイルがF-16を引き裂いていた。
「くっ!」
 間に合わなかった、という悔恨と復仇の念にかられ、茂美はそのSu-37Tのバックを取った。垂直尾翼には「4」の数字が描かれている。十分な手ごたえを感じ、茂美はミサイルを放った。しかし、その瞬間魔法のようにSu-37Tの姿が掻き消えた。
「えっ!?」
 思わず目をしばたたかせた茂美の耳に、耳障りな警報音がいきなり連続音で飛び込んできた。バックミラーに目を走らせると、さっきのSu-37Tが彼女の後ろにつけているのが見えた。
「そんな…バカな!?」
 茂美が愕然とした時、Su-37Tの主翼下に盛大な白煙が湧いた。とっさにフレアを放り出し、機体を急旋回に入れる。その瞬間ミサイルが至近距離で爆発し、彼女の<ミラージュV>は嵐の中の木の葉のように吹き飛ばされた。

「なかなかの腕だね」
 黄色中隊の副隊長、「黄色の4番」こと長森瑞佳大尉はその敵機の動きを誉めた。その<ミラージュV>は他の敵機を追いかけている最中とは言え、瑞佳の背後を取ったし、必殺の確信を込めて放ったミサイルも辛うじて直撃を避けていた。もっとも、まともに飛べないほどの損傷を与えたらしく、煙を吐いて降下していく。まず、撃墜は確実だろう。
「でも、まだまだだよ」
 少なくとも彼女に無視させないだけの技量を持っていた敵手を一瞥し、瑞佳は機体を翻すと別の相手に挑みかかって行った。

「うっ…このっ!」
 茂美は言うことを聞かなくなった愛機の操縦桿を必死に操り、辛うじて体勢を立て直した。高度は1000メートルを切ってしまっている。後数秒遅かったら、機体は地面に叩きつけられて彼女ごと粉々になっていただろう。
「ふぅ…」
 まだ震える操縦桿を抑えながら彼女はディスプレイに目をやった。機体のあちこちに重大なダメージを示す赤いランプがついている。目で確認すると、主翼はあちこち裂けてズタズタになっていた。エンジンに深刻なダメージが行かなかったのが不幸中の幸いだが、もう長いことは飛んでいられないだろう。
「スカイエンジェル、こちらシャーマン。エマージェンシーを申告。RTBできない。繰り返す。RTBは不能」
 無線に呼びかけると、しばらくしてスカイエンジェルの声が聞こえてきた。
『こちらスカイエンジェル。シャーマン、無事だったんだね。レーダーから機影が消えたから心配したよっ!』
 心底嬉しそうな声だ。
「ありがとう、スカイエンジェル。なんとか降りられる場所を探して欲しいんだけど…」
 茂美も微かな笑みを浮かべて言った。口調が思わず普段のものに近くなってしまうが、スカイエンジェルが相手だと堅苦しい口調で話す方が不自然な気になってきた。
『ちょっと待ってね…うん、そこならスノーシティーの空港が近いよ。交信周波数は…だから、あとは向こうのコントロールに誘導してもらって』
「了解。…空戦はどうなってる?」
 茂美が尋ねると、スカイエンジェルの口調に陰りが混じった。
『うん…凄い乱戦になっちゃってて…もう管制もできないよ。それに、相手は一機も落せてないみたい』
「そう…」
 茂美は肯いた。黄色中隊は機体の性能はもちろん、腕の方も凄まじかった。途端に悔しさがこみ上げてくる。あれではとても勝負にならない。
「もっと…強くならなくちゃ…そのためにも、なんとか降りないと」
 茂美は決意を口に出して呟き、もう一度スカイエンジェルに礼を言って、交信をスノーシティー空港の管制に繋いだ。その指示により、茂美は辛うじてスノーシティーに降りることができた。機外に出た彼女を空港のレスキューが迎え、走ってきた消防車が愛機に消火剤をまぶし始める。茂美は暗い顔つきでその光景を見守った。もう、あの<ミラージュV>が空を飛ぶことはできないだろう。
「…あっ!?」
 その時、茂美は思わず声をあげた。一機の友軍機…F-15が、やはり黒煙を吐きながら降りて来る。思わず声援を送った瞬間、その機体の主翼が付け根からへし折れた。機体は錐揉みしながら空港端の緑地に叩きつけられ、大爆発を起こした。主翼の方は鳥の羽のように回転しながら市街地の方へ落下し、煙が上がった。
「いかん、あの辺りは住宅密集地だぞ!」
 レスキューが叫んだ。再び忙しく走り回り始めたレスキューの中で、茂美は負けた事、守りきれなかった市民たちのことを考え、悔しさに身を震わせていた。

 この日…11月13日の戦闘で、ISAF軍はスノーシティーへの第一波の攻撃隊を撃退したが、黄色中隊の参戦により、作戦参加機の40%を失うという大敗を喫した。これ以降、ISAFの制空圏は急速に後退を余儀なくされていく。12月3日、スノーシティー無防備都市を宣言。同17日、ポートエドワーズ陥落。Kanon国政府及びISAF司令部、ノースポイント群島へ脱出。翌年1月6日、南部の要港コンベース制圧。
 冬の終わりが近づく頃、ISAFが確保しているのはヘカトンケイル半島先端の港湾都市セントアークのみとなり、その陥落もまた時間の問題だった。
 Tacticsの大陸制覇は、いまや目前に迫っていた。

(つづく)


 
原作者U−2Kのコメント


 祖国を追われた茂美たち、Air防空隊の面々。夏の街から舞台を移して、冬の街で彼女たちは戦います。

>こちらスカイエンジェル!方位192にボギーの大編隊だよっ!
 この頃のあゆは、とりあえず一人前の管制官に成長していたようで。
 もっとも、彼女は今後さらに経験を積んで、1年後からはISAF勝利の天使となることでしょう。

>『トレイナー1より各機へ。会敵。全機ACMスタンバイ』
 ついにKanon側からも脇役の大物(?)、石橋中佐が登場。
 本編では出番があまりなかったこともあり、こうして活躍の場が描かれることは実に興味深いことです。

>「パーティーの前座は終わったようだな。これからの主役はオレ達だ。全機、コンバット・オープン」
 あゆに続いて、黄色中隊登場。いよいよ役者が揃ってまいりました。
 この時期はちょうど、ストーンヘンジの安全が確保され、彼らはリリーフとしてあちこちに出張っていた頃ですね。

>両者の技量はほぼ互角のようだが、声を聞く限り石橋はかなりギリギリの勝負を強いられている。
 石橋中佐、凄いです。あの黄色の13とまともに戦えるなんて。これは、彼に対する認識をかなり改めなければならないでしょう(笑)。

>「いかん、あの辺りは住宅密集地だぞ!」
 この瞬間こそ、歴史を裏の裏から読めば、ISAFの勝利が決定付けられたその時だと言っても良いでしょう。
 ひとつの家族が崩壊し、ひとりの青年が不幸になり、1年後に初陣を迎えた彼が、さらに2年後にはISAFに勝利をもたらす大きな要因となったのですから。
 Tacticsはこの空戦に勝利したがために、最終的な敗北が決まってしまった、という皮肉なことになってしまいましたが。
 この世界の日本、NHKの番組プログラムに「その時歴史が動いた」があれば、とても良いネタになりそうです(爆)。

 敗北続きで、ついに大陸からも追い出されかけたISAF。クラナド戦争は、ついに第1の転換点を迎えました。
 それでも、己の信念に基づき、戦いを続ける茂美たちの次の戦場は、一体どこになるのか。そして大陸の命運は……。


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