戦気は急速に満ちてきていました。斥候にでていた若者たちが報告を持ち帰り、それをいくつかの村の計算ができる者が数え、地の龍たちの人数を二千と割り出しました。
 一方、わたくしたちの側では、近隣の村々からも戦える者たちが合流し、三千に届くほどの戦士が集まっていました。数の上では優勢ですが、柳也さまは不安のようでした。
「向こうが鉄の武具を使っているとなると、これでも優勢と言えるかどうか……」
 それだけでなく、戦立場(いくさたてば)に出た経験があるとはいえ、一介の兵としての参陣であり、将として兵を率いた経験がないのも、柳也さまの悩みどころのようでした。戦の経験がない人々にそれを説く姿は、なかなか堂に入っているとわたくしなどは思うのですが。


カノンコンバットONE シャッタードエアー

外伝 空の史劇

第四話 結びつくもの



 あの占いの日から一月。いよいよ、恐れていたものがやってきました。荒野との境にある大きな峡谷を、地の龍の軍勢が越えたと言うのです。"夏空のオオワシ"さまの館で、各村の長たちも集っての大軍議が催されました。
「いよいよじゃな。地の龍どもは後数日のうちには、この地へと寄せて参ろう。それを討ち倒し、皆を守らねばならん」
"夏空のオオワシ"さまの檄に、おおと言うどよめきが広がりました。それが収まるのを待って、別の村の長が言葉を続けました。
「柳也どのが言われたように、既に食料の大半と、女子供、それに老人は、山のほうへ避難させた。村には戦えるものと、傷の手当てをする者しか残っておらぬ」
 長たちが頷きます。それが、少しでも被害を食い止めるために、柳也さまが徹底した事でした。今から三十年以上も前、地の龍が攻めてきた時には、こうして村同志が連携する事がなく、しかも村に拠って迎え撃ったため、勝ちはしたものの、多くの村が焼かれ、死人手負いも少なからず出たと言うことです。
 それを避けるために、柳也さまは長たちと語らって、戦えない者たちを全て近くの山に避難させ、村の周りには柵を築き、堀をめぐらして砦と為していました。残っているのは長たちと戦士たち、そして、わたくしのように手負いの者たちを治療するために残った、少数の女たちです。

 実は、こうなるまでには一悶着も二悶着もありました。それは、神奈さまのことです。
「お前は皆と山へ逃れるんだ」
 柳也さまが話を切り出すと、神奈さまは顔を真っ赤にしてお怒りになりました。
「何と言うことを申すのだ、柳也どの! 余一人でそなたたちを残して逃れられると思うか!」
 そのお言葉には、本心から柳也さまとわたくしを案じてくださっている気持ちが篭もっていました。ですが……だからこそ、神奈さまに残ってもらうわけには参りません。
「わたくしたちならば大丈夫です。柳也さまの策が決まれば、地の龍はかならず退きます。無事にまた会う事が叶いましょう」
 わたくしがそう言うと、神奈さまはますますお怒りになりました。
「じゃが……もしもの事があったらどうする! そのような事になれば、余は……」
 声を詰まらせる神奈さま。すると、柳也さまはぽんぽんと神奈さまの頭を軽く叩くようにして撫でられました。
「案ずるな。神奈が後ろについている俺は、天下無双だぞ。だからじっと待っていろ」
 柳也さまが良く神奈さまをなだめるのに使われていた手です。ずいぶん久しぶりに見ました。
 その時、思いがけない事が起こりました。神奈さまが、柳也さまに抱きつかれたのです。
「か、神奈?」
 狼狽する柳也さまの声。それに覆い被さるようにして、神奈さまが言葉を続けられます。
「柳也どのはいつもそうじゃ……何時までたっても余を子ども扱いする。余とて……いつまでも小さい子供のようではおらぬのだぞ……」
 切ない気持ちのこもった声。
「じゃから……此度の戦が容易ならぬ事も分かっておる。そこへ征く柳也どのを思えば、笑って送るなどできぬ」
「神奈……」
 柳也さまが神奈さまの名を呼ばれました。ですが、もうそこに戸惑いの色はありません。
「笑って送る事はできぬが……迎えることはできよう。じゃから……必ず無事で……」
「神奈。わかった。約束する……」
 そこから先は、わたくしは聞いておりません。まだ馬に蹴られて死にたくはありませんからね。
 それにしても、わたくしのいる前であのような振る舞いをされるとは、本当に益体もないお方たちでございます。情けなくて涙が出てまいります。
……ええ、情けなさのためですとも。

「ともかく、何としてもこの戦いに勝つのじゃ。皆、死を恐れず戦おうぞ」
「おう!」
 気が付くと、軍議は終わっていました。長たちの叫ぶ鬨の声が夜の村に響き渡ります。彼らは一斉に立ち上がり、それぞれの一族の者たちが待つ陣屋に帰っていきました。残されたのは、柳也さまとわたくし、そして"夏空のオオワシ"さまです。
「明日はいよいよ出陣じゃ……頼むぞ。柳也どの、裏葉どの」
 わたくしたちは頭を下げました。そうです。神奈さまに笑っていただくためにも……わたくしたちは勝たねばなりません。そのためには余計な雑念は捨てなくては。わたくしはそう自分に言い聞かせました。

 翌日、わたくしたちは村を出立して西へ向かいました。斥候の者たちの調べでは、地の龍たちはこの地へ通じる谷間の手前で陣を張っている、との事でした。先んじてこの谷を抑えるのが、柳也さまの立てられた軍略の眼目です。
 槍合わせとなれば、翼の民は鉄の刀や槍を持っている地の龍には敵いません。しかし、地の龍にも弱点はあります。地下に暮らしているためか、彼らは飛び道具をあまり持っていないのだそうです。
 それに比べて、翼の民は狩人であり、弓矢の扱いに熟達しています。幼い子供でも、ウサギをしとめるくらいはやってのけます。遠間の戦であれば、翼の民は地の龍には決して負けません。
 柳也さまが戦立場に選んだ谷は、両脇を切り立った崖に囲まれ、幅は十人ほどがようやく横に並んで通れるほど。この出口を包囲して弓を浴びせ、さらに崖の上から岩を落せば、槍合わせに持ち込む事無く、相手を打ち倒す事ができます。仮に抜かれたとしても、それまでに地の龍たちは相当な死人手負いを出しているだろうから、数の力で倒す事もできるだろう、と柳也さまは仰られました。
 素人のわたくしにも、なかなかの軍略と思えるのですが、柳也さまは浮かない顔をされていました。
「何か、気がかりでもおありですか?」
 わたくしは思い切って聞いてみました。すると、柳也さまは首を横に振られました。
「いや、策の方はうまうまと破られはしないと自負している……ただ、これを実行したら、恐ろしい数の死人手負いが出るだろうな。神奈への約束は守れそうもない」
 そういえば、柳也さまは神奈さまに「できるだけ相手を殺さずに済ませる」という約定をしておいででした。となると、あれは神奈さまを宥める為の方便ではなく、本気だったという事でしょうか。
「無論だ。俺があいつに言うことは、全部本気だ」
 そう言って、柳也さまは照れくさくなったのか、頭を掻かれました。わたくしとしては、溜息をつくしかありません。
 その時、見張りの者が大声をあげました。
「地の龍が見えたぞ!」
 皆が一斉に谷間の方を見ました。そして、そこに翻る彼らの旗や、煌く刃の森を見て取ったのです。
「迎え撃つぞ! 手筈どおりに動け!」
 柳也さまが刀を抜き放ち、それで配置を定めていきます。谷の出口を三日月形に包囲し、戦士たちが一斉に弓を引き絞りました。これだけが、地の龍に勝る唯一の攻め手です。
「よし、そろそろ間合いだ。放て――」
"柵間のカラス"さまが命じようとした時、突然不気味な風切り音と共に、何かがこちらの陣に降り注いで来ました。
「うわっ!」
「がっ!?」
 次の瞬間、あちこちで苦鳴の叫びをあげて倒れる戦士たちが続出しました。彼らの身体には、何かが深々と突き立っていました。
「矢だと……!? あいつらも弓を使うというのか!!」
 誰かが叫びました。その通り。それは確かに地の龍から放たれた矢でした。心もち、翼の民が使う矢よりも長く、太い感じがします。
「これは……弩の矢だ。こんなものまで作っているのか……」
 柳也さまが唸りました。弩は唐の国では良く使われる、機械仕掛けの弓矢です。普通の弓と比べると矢の準備に時間がかかりますが、威力や間合いの長さは恐ろしいものがあると聞きます。
 その間に第二波の矢が降り注ぎ、またしても何人かが矢を受けて倒れました。自分たちの方が優れている、と思っていた弓矢の戦いで先手を取られたことで、翼の民の戦士たちは激しく動揺していました。早くも逃げ腰の者すらいます。
「うろたえるな!」
 そこへ、柳也さまの叱咤の声が響き渡りました。
「敵の弓はそれほど数は無い! 百にも届かん。見張り、何か見えるか!?」
 柳也さまの言葉に、一族の中でも特に遠目が利くことから見張りの長に選ばれた、"立ち端のフクロウ"どのが叫びました。
「三十……いや、五十だ! 頭に赤い布を巻いた連中だ!!」
 わたくしも遠目をこらしてみました。良くは分かりませんが、確かに赤い点のように見えるものが、敵陣の中に見え隠れしています。柳也さまは頷いて、刀を振り下ろしました。
「聞いただろう! こちらはその何十倍もの弓矢を持っている!! 相手にそれを届かせればこっちの勝ちだ!! みんな、進め!!」
 おおうっ、というどよめきが上がりました。柳也さまが率先して敵陣めがけて進み始めたからです。なんと言う無茶をなさるのか、とわたくしは思いましたが、戦士たちはその柳也さまの振る舞いを見て、戦人の気概を取り戻したようです。
「柳也どのを死なせてはならん! みな、進めぇっ!!」
"夏空のオオワシ"さまも石の斧を振りかざして叫び、三千の戦士たちは怒涛のように進み始めました。進みながら放たれる矢が、地の龍の頭上から降り注ぎます。鎧や盾を持っている彼らは、鏃に石を使っているこちらの矢では、あまり大きな傷を受けていないようで、一度に千本近い矢に晒されても、あまり倒れるものはいないようです。
 しかし、こちらの勢いには驚いたのか、地の龍たちに怯みが見られました。それでもなお、刀を振りかざし、槍をそろえてこちらを迎え撃つ姿勢は崩しません。両者は真っ向から打ち合いました。ところが、ほんの僅か揉み合ったところで、唐突に戦いは終わりを告げたのです。

「!?」
 突然、空が金色の輝きに覆われました。その異変に、そこにいた五千からの軍勢は、誰もが手を止めて、その輝きの元を見つめました。
 そして、わたくしと柳也さまは同時に叫んでいたのです。
「神奈(さま)!」
 そう、それは神奈さまでした。何時の間に着替えたのか、正装を身にまとい、その背中から翼人の証たる翼を広げ、神々しい輝きと共に、神奈さまは空に舞っておられました。
「戦を止めよ」
 神奈さまが震えるほどの威厳を持って仰られました。
「余は神奈備命の名の元に命ずる。戦をしてはならぬ。弓を捨て、刀を収めよ」
 その堂々とした言葉に、呆然と立ち尽くしている軍勢の中には、手にした得物を取り落とす者さえいました。ですが、それを拾うことすら思いつかないようです。
 ですが、それも後でこの時の事を思い返してみて、ああそうだったな、と思うだけで、その時はわたくしも、主の堂々たるお姿に、ひれ伏したいほどの感動を覚えていたのですが。
 やがて、誰かが「神様だ……」と言う声が聞こえ、やがて「神様だ」「精霊さまじゃ」という声がさざなみのように広がっていきました。そして、何時しかほとんどの者がひれ伏し、神奈さまのお言葉に服していました。
「こうして空から見るとわかる。この地は広い。何もせせこましい所を争うて血を流す事は無い。より広き地へ向かえば良いのじゃ。余がそなたたちを導こう」
 おお、と感動の声が漏れました。"夏空のオオワシ"さまが立ち上がって口を開きました。
「そうじゃ……ここは確かに父祖の代より我らが大地。しかし、父祖の父祖は精霊のお導きに従い、この地へ来たのではないか。何故そのような大事な事を忘れていたのか……」
 また一人が立ち上がります。格好から言って、地の龍の長の一人のようです。肌の色を見ると、元は翼の民と同じ人々であったように思われます。後に聞いたところでは、方々から罪を得て荒れ野に追放された人々が入り混じって、地の龍と言う集団ができた、との事でした。
「うむ……我らは豊かな地に帰らんとして戦いつづけてきた……が、まだ手付かずの新天地を目指そうとは思わなんだな」
 既にあるものを守る。既に持っているものから奪う。それは、楽な道ではあるでしょう。しかし、神奈さまはそれが甘えである事を喝破し、翼の民と地の龍の者たちに諭されたのです。
 やがて、二人の長は頷き合うと、神奈さまに改めて平伏しました。
「神よ、我らはあなた様のお導きに従いまする」
「精霊よ、我らに新たな道をお示し下された事を感謝いたします」
 その誓いを聞いて、神奈さまは満足げに微笑まれました。この瞬間、奇跡が起きたのでしょう。
 長年にわたって相争い、血で血を洗ってきた二つの民族が融和し、新たな目的のために進むと言う道を選ぶと言う、まるで夢のような出来事が。 
「神奈さま……なんとご立派になられて」
 わたくしが呼びかけますと、神奈さまはすっと大地に降り立たれました。
「裏葉、ご苦労であったな。柳也どのは詰めが甘いゆえ、このような仕儀に至っているのではないかと思っておった」
 そう言って神奈さまが人の悪い笑みを浮かべられると、何時の間にかわたくしの後ろまで来ていた柳也さまが、むすっとした顔で答えられました。
「……つまり、神奈は最初から俺の軍略など信じていなかったと言うことか?」
 すると、神奈さまは首を横に振られました。
「そうではない。余が人を殺めてはならぬと申すは、余の勝手。ゆえに、柳也どのにそれを守らせるには、余も動かねばならぬであろ?」
 わたくしは、その言葉を聞いて嬉しくなりました。わたくしが神奈さまに向けた言葉……

「柳也さまは……神奈さまを好いておられるからこそ、刀を手に取るのです」

 この意味を、神奈さまは汲み取ってくださったのです。そして、その力を持って戦を収めることを決意なされたのでしょう。わたくしは、改めて神奈さまにお仕えしていた事を、このような主にめぐり合えた幸運を神様に感謝いたしました。
「しかしだな……無茶をする。もし、誰かがお前を弓で射ていたら、どうするつもりだ?」
 柳也さまがまだ愚痴るように文句を言っています。全く益体も無いお方です。
「何を言う。射手が三十も五十も待ち構えておる所に猪突する柳也どのの無茶には負けるわ。のう、裏葉?」
「そのとおりでございますね」
 わたくしが同調しますと、柳也どのは世にも情けない溜息をついて、刀を鞘に収めました。
「わかった。悪かった。俺の負けだ。だから……もう二度とこんな真似はしないでくれ。正直言って、お前が空に現れた瞬間、俺は寿命が十年は縮んだ」
 柳也さまがいうと、神奈さまは微笑んで頷く……のかと思いきや、首を横に振りました。
「それはできぬ約束じゃ。柳也どのが無茶をするなら、余は何度でも助けるぞ。まぁ、内助の功と言うものじゃな」
 その言葉を聞いて、柳也さまは怒りとも恥じらいとも付かぬ表情で顔を真っ赤にしました。
「ば、馬鹿。お前意味がわかって言っているのか」
 すると、神奈さまも顔を赤く染め、拗ねたような表情で答えられました。
「いかぬのか?」
「は?」
 唖然となる柳也さまに、神奈さまは少しもじもじとした仕草を見せながら、言葉を続けられました。
「その……余は柳也どののためなら、何度でも内助の功をしてやるぞ。それではいかぬのか?」
 呆然とした表情で、その言葉を聞く柳也さま。もっとも、呆れていたのはわたくしも同じです。このような事を、女子の方から言うものではありません。はしたないにもほどがあります。
「神奈さま」
 わたくしが叱責の意をこめて名を呼ぶと、神奈さまは真っ赤になって怒り出しました。
「裏葉! それ以上は言うでない。柳也どののような殿方相手では、余から言うしかないではないか!」
 それには強く同意しますが、それならばせめて、歌を贈るとか、もう少し雅やかな方法がありましょうに。やはり、わたくしは神奈さまの育て方を誤ったかもしれません。
「いや、それはいい……俺は歌など贈られても良し悪しが分からんからな」
 そう言って、柳也さまはわたくしを抜いて神奈さまに歩み寄られました。
「俺は戦人だ。戦人には戦人なりの答え方と言うものがある……こんな風にな!」
 そう言うなり、柳也さまは神奈さまをがばと抱きしめられました。一瞬ぽかんとした神奈さまが、真っ赤になってじたばたと暴れだします。
「わ、わ、何をするか、この狼藉者!! はーなーせー!!」
「嫌だ。絶対に離さん」
 そんな騒ぎを繰り広げながら、お二人は村の方へと向かって行きます。わたくしはふと、後ろを振り返ってみました。そこでは、翼の民と地の龍のものたちが、唖然呆然という様子で固まっていました。
 神とも精霊とも思うお方があれでは、戸惑うのも無理は無いかもしれません。ですが……
 驚きながらも、彼らの顔には、さっきまで殺し合いをしようとしていたばかりとは思えないくらいの、和やかさが漂っていました。ですから、きっと心配は要らないのでしょう。
 
 後に、この戦いと、その後の顛末にまつわるお話は、詩になり、曲がつけられて、何かの儀式の折には荘厳に歌い上げられるという習慣ができたそうですが……
 実際にはこのようなものでした。

(つづく)

原作者のコメント

 目前に迫った「地の龍」との決戦。神奈さまたち3人は様々な思いを抱きつつも、戦いを望まないという一点において、彼らの心は完全にひとつでした。
 しかし、事態は刻一刻と戦へ近づいていきます。

>それにしても、わたくしのいる前であのような振る舞いをされるとは、本当に益体もないお方たちでございます。情けなくて涙が出てまいります。
>……ええ、情けなさのためですとも。

 これまた複雑な女心ですねぇ(泣)。
 元ネタでは不幸な終わり方をした神奈さまと柳也は言うに及びませんが、裏葉さんにも是非とも幸せを掴んで欲しい、と願わずにはいられません。

>「これは……弩の矢だ。こんなものまで作っているのか……」
 古代の中国で生まれた投射武器ですね。個人が片手で扱える小さいのもあれば、車輪をつけて数人がかりで扱う、攻城戦用の大きいものもあったそうです。
 確かに発射速度が遅い、という欠点はあるのですが、これは矢の代わりに石を放つ能力もあるので、戦う地形によっては極めて恐ろしい存在でしょう。

>おおうっ、というどよめきが上がりました。柳也さまが率先して敵陣めがけて進み始めたからです。なんと言う無茶をなさるのか、とわたくしは思いましたが、戦士たちはその柳也さまの振る舞いを見て、戦人の気概を取り戻したようです。
 まさに「勇将の下に弱卒なし」の言葉の正しさを証明する光景です。
 浮き足だった自軍が壊走するのを避けるため、多少の蛮勇を見せなければならなかったのでしょう。その意味では、柳也の行動はそれほど的外れとも言えませんね。

>その堂々とした言葉に、呆然と立ち尽くしている軍勢の中には、手にした得物を取り落とす者さえいました。ですが、それを拾うことすら思いつかないようです。
>ですが、それも後でこの時の事を思い返してみて、ああそうだったな、と思うだけで、その時はわたくしも、主の堂々たるお姿に、ひれ伏したいほどの感動を覚えていたのですが。
>やがて、誰かが「神様だ……」と言う声が聞こえ、やがて「神様だ」「精霊さまじゃ」という声がさざなみのように広がっていきました。そして、何時しかほとんどの者がひれ伏し、神奈さまのお言葉に服していました。
 ああ、私もひれ伏したい衝動に駆られています(笑)。
 突然、背に純白の翼を持った高貴な女性が現れたのですから、神か仏が降臨されたと思うのも当然というものです。それに、翼人である彼女は実質的に本当の神様ですし。
 しかし、自らの存在を持って戦を止め、ノーブレス・オブリージ(高貴な者に伴う義務)を果たした神奈さま。日本を離れてから3年余、成長なされたものです。

>後に、この戦いと、その後の顛末にまつわるお話は、詩になり、曲がつけられて、何かの儀式の折には荘厳に歌い上げられるという習慣ができたそうですが……
>実際にはこのようなものでした。
 国の始まりがまさかラブコメだったとは、確かに後の世に言い伝えるのは色々と難しいような(苦笑)。

 神奈さまの偉大なまでのカリスマによって、全面対決は必至だったはずの翼の民と地の龍は一気に和解へと進みました。
 そして彼らを新たなる地へと導こうと仰られた神奈さま。怨讐を越えた彼らに待ち受けるのもは一体? 
 1000年の歴史の始まり。その物語もいよいよ佳境です。



戻る