船は海流にのって進み、やがて目前に巨大な屏風を連ねたような山々がそびえる入り江に至りました。そこには小さな漁村があり、船長はその前で錨を下ろしました。
「俺もこの先には進んだ事がない」
 船長は言いました。確かに、あの屏風のような山々が直接海に落ち込んでいる辺りは、波も荒く、越えるのに難儀しそうです。
「うむ、しかしこの辺りまでくれば、もう槻の国が襲ってくる心配はあるまい」
 柳也さまが言います。ここまであの砦から海路を十日。地面を歩いてくれば軽く一月以上かかる距離ですが、その間にはあの岩だらけの荒地があります。あれが西の戦乱からこの土地を守ってくれるでしょう。
「それにしても暑いのう」
 神奈さまは目的地に着いた安堵からか、だらしのない格好で顔を扇いでいました。あれは後で叱らねばなりませんね。
 そういうわたくしも、ようやく安全な土地へ着いたと言う安堵から、張り詰めていた気が抜けるような思いを抱いていました。
 ですが……ここにはここなりの危険がある、と言うことにわたくしたちはまだ気付いていませんでした。


カノンコンバットONE シャッタードエアー

外伝 空の史劇

第三話 翼の民と地の龍



 船が着いてまもなく、漁村の方から多くの船が漕ぎ寄せてくるのが見えました。鳥の羽を使った頭飾りをつけた不思議な身なりの人々が、歓声を上げて舟を漕いでいます。一瞬身構えた柳也さまを、船長が制しました。
「おお、武田の喜平どのではないか!」
 先頭きって漕ぎ寄せてきた小船の舳先に立つ老人が叫びます。ここで、わたくしたちは初めて船長の名前を知ることになりました。
「元気そうだな、村長(むらおさ)。”夏空のオオワシ”どの!」
 船長が老人に叫び返しました。彼が村長なのでしょう。それにしても、変わった名前です。そのわたくしたちの疑問を感じ取ったのか、船長が言いました。
「この村の者は、遠い昔に、更に東の大きな大陸から渡ってきたらしい。あの赤い肌はその証だそうだ」
 鳥の羽飾りや、奇妙な名前もその名残だそうです。やがて、船の周りは漕ぎ寄せてきた小船で囲まれてしまいました。小船の人々は、口々に何かを叫びながら、手にしたものをかざしています。それは美しい貝を磨いて作った装飾品であったり、あるいは名も知れぬ奇妙な生き物であったり。この地に来て三年経つわたくしたちも見覚えのない品々です。
「それならこれと交換だ」
 船の水夫たちが、積んできた荷物の中から交換の品物を抜き取って渡していきます。受け取った村人は大喜びして、手にしていた品物を渡してきます。彼らが受け取ったのは、わたくしたちからすればどうと言うこともないありふれたものなのですが、彼らにとっては珍奇な品なのでしょう。
「この村での取引は、大きな額じゃないが実入りは割と良いんだ。それに、こいつらは付き合っていて気持ちのいい相手だぜ」
 船長が言います。確かに、村人の暮らし振りは素朴です。暑さのせいもあるでしょうが、女子でも手足の露出した服を着ていて、同じ女子のわたくしでも思わず赤面しそうな格好をしています。
 ですが、その明るい顔からは、裏表のない気風の良さがうかがえました。神奈さまも、この雰囲気を気に入られたようです。
「お? なんじゃ、これを余にくれるのか? 済まんのう」
 子供たちが差し出す、羽を繋ぎ合わせた首飾りのようなものを受け取り、上機嫌な神奈さま。一方、村人たちは神奈さまの御髪が気になるようで、しきりに触っては、その感触を楽しんでいます。せっかく整えた御髪がたちまちくしゃくしゃにされてしまうのを見て、わたくしは思わず嗚呼、とため息をつきました。
「ここは良き土地のようだ。しばらくここに身を寄せてみるか」
 柳也さまがすっと近づいてきて言いました。その目は、久しぶりに同年代の子供と出会って、はしゃいでいる神奈さまを優しく見つめていました。
「そうですね……この暑さは少し堪えますが」
 わたくしは答えました。

 わたくしたちが住む事になったのは、村長である"夏空のオオワシ"さまと並ぶ長老格の老女、"河口のカモメ"さまの家でした。彼女はこの村では医者であり、また祈祷師でもあるという人物で、異邦人であるわたくしたちが村人にあっさりと受け入れられたのも、彼女の言葉によるものでした。
 というのも、わたくしたちが村に着く数日前、占いをしていた"河口のカモメ"さまは次のような神託をえた、というのです。
「間もなく、村に三人の異邦人がやってくる。その者たちは、この地に救いをもたらすであろう」
 なんとも大げさな予言です。わたくしたちは、一介の逃亡者でしかありません。この地を救う、という大それた真似が出来ようとは思えません。
 ですが、それによって、わたくしたちがこの村に住むことが出来たのも事実です。また、"河口のカモメ"さまは、実に気の良いお方でした。
「ま、ここを自分の家じゃと思って、気楽に過ごすとええ。ワシ一人には広すぎるでの」
 そう言って、快く部屋を貸してくれたのです。
 おかげで、わたくしたちも次第にここでの暮らしに慣れてきました。柳也さまは最初漁の手伝いをしようとしたのですが、船酔いの事を忘れていたらしく、一回だけ手伝いに行った後は、畑仕事の方をするようになりました。この村は漁村のためか、あまり畑でものを作ると言うことを重視していないようで、本職の百姓ではない柳也さまでも、村人に教えることはいろいろとありました。
 神奈さまはと言うと、この地に来た時に子供に好かれたのがそのまま続き、日中は仕事に行っている親たちに代わって、村の子供たちの面倒を見るようになっていました。柳也さまに言わせると
「まぁ、ガキ大将のようなものだ」
 という事になるのですが、それはあまりな仰りようだと思います。
 わたくしはと言いますと、どうも"河口のカモメ"さまに気に入られたらしく、祈祷や占い、施療の手伝いに借り出されるようになりました。これはこれで、なかなか楽しい仕事です。
「お前さんには、なかなか見所があるようじゃ。ワシの跡を継がぬか?」
"河口のカモメ"さまはそう言ってお笑いになります。もちろん、わたくしは神奈さまの侍従です。そのお役目をないがしろにするわけには参りません。ですから、お誘いの言葉には、否と答えておきました。
 ですが……もし、神奈さまがわたくしを必要となさらなくなったら、その時は、それも良いかもしれません。そして、その時はそう遠くないかもしれません。
 一日が終わり、夕餉の後で寄り添う神奈さまと柳也さまを見ながら、わたくしはそんな思いに囚われるのでした。

 そんな平穏な日々が続き……わたくしはその日、"河口のカモメ"さまと共に、次の漁期の吉凶を占う儀式の準備をしておりました。家の奥に設えられた祭壇の前では、香が焚かれています。不思議な香りのするこの香は、占いには欠かせないものだそうです。確かに、嗅いでいると魂がどこか遠くに引かれるような、そんな感じがします。
 そう思ったときでした。突然、わたくしの目の前で、景色が一変しました。
「!?」
 気が付くと、わたくしは高い山の上に立っていました。辺りには、草一本生えていません。そして、無数の岩が転がっています。この景色に、わたくしは見覚えがありました。
(ここは……あの荒地?)
 神奈さまが龍を夢見た、あの砦と村のある地の間に広がる、広大な荒野。それが、今わたくしのいる場所でした。
(なぜ、このような事に……?)
 いぶかしむわたくしの前で、更なる異変が起きました。どこからともなく、多くの人々が荒野に出現したのです。見ると、荒野の所々には洞窟があり、そこから彼らは出てきているようでした。その人の流れは八つの大きな流れとなり、東へ向かって行きます。旗が翻され、刀槍の煌きがわたくしの目を撃ったその瞬間。

「裏葉よ、どうしたのじゃ!?」
"河口のカモメ"さまの声に、わたくしは我に返りました。辺りを見渡すと、そこは荒野ではなく、祭壇の間です。
「……"河口のカモメ"さま、わたくしは今一体……?」
 尋ねると、"河口のカモメ"さまは厳しい声で仰いました。
「香の煙を嗅ぎすぎたのであろう。あれは過ぎれば人を二度と醒めぬ無明の眠りに誘う。気をつけよと言うたはずじゃぞ」
 わたくしは頭を下げました。あまり嗅いだと言う自覚はなかったのですが。
「それで、妙な夢を見たのですね」
 わたくしが何気なく言うと、"河口のカモメ"さまは表情を変えられました。
「なに、夢を見たじゃと? 詳しく話してみい」
 とても真剣な表情です。わたくしは、見た夢の内容を、覚えている限り詳しく話しました。その間に、"河口のカモメ"さまの表情は、見る間に険しく、顔色は蒼くなられました。
「"河口のカモメ"さま、一体どうしたのですか?」
 その様子に、わたくしも不安になって聞きました。すると、"河口のカモメ"さまは一言口にされました。
「地の龍……こうしてはおれぬ!」
 それを最後に、"河口のカモメ"さまは慌てて家を出ていかれました。わたくしはその時になって、不安が黒雲のように胸中を覆っていくのに気が付きました。

 その夜、村の主だった名主たちが皆"夏空のオオワシ"さまの家に集められました。柳也さまとわたくしも呼ばれました。皆が集まった所で、"夏空のオオワシ"さまは沈痛な表情で言われました。
「地の龍が攻めてくる」
 その瞬間、何ともいえないどよめきがあがりました。長老の一人、漁の指揮をとられる"柵間のカラス"さまが身を乗り出されました。
「それは本当か?」
「まことじゃ。この……裏葉が夢占いで見た」
"河口のカモメ"さまが言いました。わたくしは思わず抗弁しました。
「あの、"河口のカモメ"さま。わたくしは香に酔っただけで、そのような」
 しかし、"河口のカモメ"さまは首を横に振りました。
「香に酔い、夢を見る。それこそが夢占いなのじゃ。それが出来る者は限られておる。裏葉よ、お前さんにはやはり素質があったようじゃな。このような形で示されるとは思わなんだが」
 わたくしは絶句しました。まさかそんな事になっていたとは……
「"河口のカモメ"の弟子であれば、ほぼ間違いはないな」
"柵間のカラス"さまが納得されたように頷きます。そのような事を言われても困るのですが……
「ところで、その地の龍とはいったい何なのだ?」
 声をあげたのは柳也さまでした。そういえば、肝心なその事を聞いていませんでした。
「お主たちが船でここへ来た時、広大な荒れ野を見たであろう? あそこに住んでいる連中を、わしらは地の龍と呼んでおる」
"夏空のオオワシ"さまが答えました。地の龍とは、ミミズのことでもあります。あまり好意のこもった呼び方ではないようです。が、話を聞くうちに、わたくしはその呼び方に納得しました。
 地の龍は、かつて訳あって荒野に追われた人々で、地下に広がる洞窟に住んでいるそうです。そこは涼しくて、奥には湧き水もあって、それなりに暮らせないことはないのですが、何と言っても荒野のこと。人が増えてくると、食料が足りなくなります。
 そうなると、彼らは大挙して周囲の豊かな土地を襲撃し、食料や、時には人間もさらっていくのだそうです。大和の国にいた時も、東国には土蜘蛛と呼ばれる、土中に住む荒夷(あらえびす)がいると聞いていましたが、その流れを汲む者たちなのかもしれません。
「しかし、そのような者どもであれば、さほど人数が多いとも思えぬな。なぜ、それほど恐れるのだ?」
 柳也さまが聞きました。それに答えたのは"柵間のカラス"さまです。
「あの者どもは、地下で鉄を掘り出して、それを武器に使っておる。わしらも喜平どのから鉄の武器は買うが、奴等ほどの数はとても揃えられぬ」
 それを聞いて、柳也さまは驚かれました。わたくしもです。この村の人々は鉄の道具を自分で作る事は出来ません。武器と言えば、石の槍や、簡単な弓などです。それなら地の龍を恐れるのも良くわかります。
「我らは父祖の代から奴らと戦ってきた。じゃが、あの者どもは強い……此度もまた多くの死人手負いがでるじゃろうな」
"夏空のオオワシ"さまが沈痛な表情で言いました。ふとその時、わたくしは数ヶ月前の船上での出来事を思い出しました。神奈さまの見た、奇妙な夢。地を這う龍が吐き出す炎に焼かれる鳥たち。
 それが、迫り来る地の龍と、この村の人々……翼を奉じる民の姿に重なって見えました。
「裏葉、どうした。気分でも悪いのか?」
 気が付くと、わたくしは何とも言えない悪寒に襲われ、震えていました。柳也さまがそんなわたくしを心配そうな目で見ています。
「柳也さま、実は……」
 わたくしは長たちには聞こえないように、神奈さまの夢の事を話しました。
「……なんと……」
 柳也さまは驚いた表情で話を聞き終えると、しばらく考え込んでいました。

 結局、長たちの談合により、地の龍たちが今いる場所を突き止めるため、斥候(うかみ)の者が放たれる事と、近隣の村に呼びかけ、地の龍を迎え撃つ準備をする事が定められました。すると、最後に柳也さまが仰られました。
「長殿、俺も守り手の一人に加えてはもらえまいか?」
 すると、"夏空のオオワシ"さまは頷かれました。
「うむ、実はこちらからそれを頼もうかと思っておった。我らには戦に通じた者はおらぬゆえ、様々に指南していただけるとありがたい」
 柳也さまはそれを快諾されました。ですが、わたくしはそれには反対です。万が一柳也さまの身に何かあれば、神奈さまも……そしてわたくしも、もう生きてはおられません。ですが、翻意を促すわたくしの言葉に、柳也さまは首を横に振られました。
「戦わぬのであれば、どうすれば良い? 裏葉。我らはここまで逃げてきた。だが、もう逃げる場所はない。ここで生きていくしかないのだ。ならば、ここが我らの故郷だ。故郷を守るためには戦うしかあるまい」
 わたくしは言葉に詰まりました。確かに、ここは「蓬莱ノ地」の南の果てです。この先にも「菰名島」と呼ばれる島々や、この村の祖先が暮らしていたという大きな大陸があるとは聞いていますが、船長の喜平どのすら知らないそこへ渡るのは、大変な危険覚悟の旅です。
 それに、数ヶ月間を共にして気心の知れた村の者たちを見捨てて逃げるということは、確かにわたくしには出来そうもない事でした。結局、わたくしは柳也さまの言うことに従う事にしました。
 柳也さまの言葉には、千年経っても残りそうな、一つの国の心根まで形作りそうな、そんな想いさえ篭もっていたからです。

 しかし、柳也さまが戦陣に加わられる事に、強く反対する方もいました。神奈さまです。家に帰り、地の龍の話を聞いた神奈さまは、悲しげなお顔をされました。
「戦になるのか……」
 そう呟くように言われると、今度はきっと眉を吊り上げます。
「だからといって、柳也どのまで加わる事はないではないか! 戦となれば、多くの人が死ぬのであろう? そのような修羅場に、余を置いて行ってしまうのか!?」
 柳也さまは頷きました。
「ああ。俺たちがここで安心して暮らしていくには、そうするしかない。安心しろ。俺は必ず帰ってくる」
 神奈さまを安心させるための言葉でしたが、それを聞いた神奈さまは、ぶんぶんと首を横に振られました。
「そういうことを言うておるのではない!」
 そう叫び、気持ちを落ち着けるためか、少し深呼吸をされます。そして、言葉を続けられました。
「戦になれば……柳也どのも刀を振るうのであろう? 例え余のためであっても、柳也どのが人を危めるような事になるのは嫌じゃ」
「神奈」
 柳也さまは困った顔をされました。そうです。柳也さまとて、本当は人を殺めることなど、好きであるわけではありません。ですが、そうする覚悟を辞さない相手に対し、自分もその覚悟で臨む以外、何ができるでしょうか?
「神奈さま、あまり柳也さまを困らせてはなりませんよ。柳也さまは……神奈さまを好いておられるからこそ、刀を手に取るのです」
 わたくしは横から口を出しました。差し出口を叩くな、とお叱りを受けるかもしれない、と思いましたが、神奈さまは黙っておいででした。
 神奈さまもわかってはおられるのでしょう。この戦が避けられないものである事も、それに征こうとする柳也さまの想いも。
「神奈、俺も人を殺めぬよう戦が終わらせられぬものか、考えてみよう。だから、笑って送ってはくれぬか」
 柳也さまがそう仰ると、神奈さまは頷かれました。ただ、顔はどうしても笑顔にはなりませんでした。

 次の日から、慌しく戦の用意が始まりました。"柵間のカラス"さまの下にある若者たちが、斥候のために出て行き、使いのものが近隣の村々へ向けて出発していきました。
 柳也さまは、近くの野山を見て回り、戦に適した場所を探したり、時には長たちと軍略を練るのに忙しく働いておいででした。神奈さまも、親が出かけてしまう子供が増えて、その世話にかかりきりでした。
 そしてわたくしは、"河口のカモメ"さまとともに、戦に出る者たちの無事や、勝利を願う祈祷を続けていました。それまでは補助的な役割しか果たしていなかったわたくしですが、素質ありと認められたせいか、儀式自体を任されることも増えました。
 ただ、そんなわたくしたちにも、一つだけわからない事がありました。
「うーむ……やはり、戦の後の事は見えぬ。良きことになるのか、悪しきことになるのか……このような事は初めてじゃて」
 吉凶を占うため、海亀の甲羅を焼き、そのひび割れを調べていた"河口のカモメ"さまが首を傾げられます。わたくしも、水盆を使って占いをしてみたのですが、先のことは全くわかりませんでした。
 その事に胸のざわつきを覚え、なかなか寝付かれないでいたある夜、わたくしの隣で寝ていたはずの神奈さまが、わたくしを呼ばれました。
「裏葉、まだ起きておるか?」
「……はい、何事でしょうか? 神奈さま」
 わたくしが返事をすると、神奈さまはこう仰いました。
「柳也どのは、余たちを守るために戦う、と言っていたな」
「……? はい」
 何を言いたいのかわからず、わたくしが返事をしますと、神奈さまは「そうか」と頷いて、それきりお眠りになったようでした。
 その時のわたくしには、神奈さまがなにをお考えになっているのか、それを知る術はありませんでした。

(つづく)


原作者のコメント

 危ういところを船長の機転に救われた神奈さま一行。新たな地に辿り着き、そこに待つものは……。

>神奈さまは目的地に着いた安堵からか、だらしのない格好で顔を扇いでいました。
 服が肩からずり落ちていたりするんでしょうか(笑)。
 それはともかく、基本的には厚着をする身分の方ですからねぇ。隠れ社を逃げ出した後は庶民の姿に成りすましていたとは言え、ここは赤道に近く、日本とは全く環境の違う場所。無理もありません。

>「この村の者は、遠い昔に、更に東の大きな大陸から渡ってきたらしい。あの赤い肌はその証だそうだ」
 これは……アメリカ大陸の先住民族、ネイティブアメリカンですね。
 米大陸に残った彼らの同胞は、大航海時代の始まりと共に苦難の時代へと突入します。アメリカ先住民のクラナド移住はそれからが本番となるのですが、ひとりでも多くの人が難を逃れられますように、と願わずにはいられません。

>武田の喜平どの
>“河口のカモメ”さま
>“柵間のカラス”さま
 いやぁ、どこかで聞いたことのあるような名前の人々ですねぇ(笑)。やはりあの人たちの遠い祖先なのでしょうか。

>この村の人々は鉄の道具を自分で作る事は出来ません。武器と言えば、石の槍や、簡単な弓などです。それなら地の龍を恐れるのも良くわかります。
 石器と鉄器では、道具としての利便性も武器としての強さも比べ物になりません。この差はまさに歴然といえるでしょう。
 日本に近い大陸西沿岸では商工業がある程度発達し、鉄の武器や農機具は一般的に普及していたでしょう。しかし原料の問題か、または流通網が発達していないのか、大陸西部と南部との技術格差は大きなものがあるようです。
 それにしても、洞穴に住んで鉄を掘り出し自力で加工する「地の龍」とは……鉱工業の技術者集団なのでしょうか。

>確かに、ここは「蓬莱ノ地」の南の果てです。この先にも「菰名(こもな)島」と呼ばれる島々や、この村の祖先が暮らしていたという大きな大陸があるとは聞いていますが、船長の喜平どのすら知らないそこへ渡るのは、大変な危険覚悟の旅です。
 大陸最南部と言いますと……現代では「シールズブリッジ」と呼ばれる地域のようです。2005年1月にISAFが大陸への上陸を果たしたのが、この半島にある湾でした。
 ここから東へ船を進めれば確かにコモナ諸島があります。
 地形の状況から見て、神奈さま一行がここから逃れられるような場所は柳也の言った通り、見当たりませんね……。

 さて、「地の龍」との戦いを前に、神奈さまも何かしらの重大な決意を固めたようですが……。彼女の真意とはいったい何なのか。
 そして目前に迫った「地の龍」との避けられぬ戦い。その行方やいかに。注目です。



戻る