「……」
「お、お姉ちゃん〜」
「ぴこ?」
「どうしたんだ? ふたりとも、食べないのか?」
「食べられるか!?」
今朝、聖は佳乃の部屋に入って俺たちを呼び覚ましてくれた。まさか俺を殺しに来たのかと思たが、予想と反して聖はあまり大した反応がない。
顔を洗って、佳乃と一階に降ろして朝ご飯をに見ると、食欲はなくなってしまった……
「お前な! なんで赤飯を作ってやがる!?」
「なんだ、おいしくないのか?」
「そういう問題じゃねえ!」
こいつ、絶対にわざとやっただろう?
悔しいが、とてもおいしい……
朝飯後、佳乃は俺に学校へ行こうと誘いた。
「学校?」
「うん、往人くんは一度もあたしの学校に行ったことはないでしょ?」
「けどな、俺はお前の学校の生徒じゃないぞ」
「大丈夫よ、少し変装したらオーケーだよ」
変装……
その言葉を聞いていやな感じがする。
AIR〜夏の終わり〜
第九話 「旅の理由」
作者: 暇の人
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「これで、完壁だ〜」
「ぴっこり〜」
「ほう、なかなかお似合いだな」
佳乃は俺をあの学校の制服に着替えさせた。首筋の傷も、包帯に隠された。
つまり、女学生の偽装のことだ。
だが、男の時と変わらない、悪人っぽい目と、派手な白い長髪と包帯の巻かれた首。
いくらなんでも目立ち過ぎ。制服を着ても救えない。
「往人くん、早く〜」
「ぴこぴこ」
「ああ、わかったよ」
こうなったらどうしようもない、俺は佳乃たちの後を追おうとした。
「国崎君」
聖は俺に呼び止められた。
「佳乃のこと、君にまかせた」
「ああ、」
佳乃の後を追って、俺は診療所から走り出した。
校門には何度も来たことはあるが、中に入るのは今日が初めてだ。
幸い、まだ夏休みだから生徒と教師は少ない。ゆえに思ったほど注目されなかった。
佳乃は、俺を校庭に案内してくれた。そこは、うさぎや鳥、そして金魚のような動物がたくさんがいる。ポテトは鳥どもと会話をしてるが、無視することにしておこう。
「往人くんもやってみようよ」
「俺?」
佳乃は俺にエサ渡した。俺はうさぎにエサをやってみる。
うさぎが静かにエサを食う様子は、本当に面白い。
少し佳乃の気持ちを理解した。
そろそろ飽きたから、俺たちは中に入って教室を見学した。
「かのりん〜」
「あ、かんちゃん」
三人の女生徒はこっちに走り来た。どうやら佳乃の知り合いそうだ。
「あれ? かのりん、この子は?」
「え、えっと……」
「佳乃の新しい友達だ」
ここはやはり無難に自己紹介の方がいい。
「そっか、じゃあんたは四号さんだね」
「四号?」
いきなり四号になった。
「うん、だってわたしはかのりんのながよし一号で、かれんちゃんは二号、そしても
えちゃんは三号だから。」
「ちょっと、一号はぼくだよ」
「違うよ、一号は私〜」
「みんな、ケンカはだめだよ〜」
生徒三人組は争論しはじめている。てゆうか、友達に番号を付けてどうする?
でも安心した。学校でも友達がちゃんといるらしい。
争論の結果が出た三人組は満足そうに教室に戻った。
俺たちもそろそろ帰る時間だ。
「意外に、学校は楽しい所だな。」
「あれ、往人くんは学校に行ったことはないの?」
「旅人には学校はいらない場所だ。」
「そうなのかな……」
昔の俺にとって、学校は一番無縁な場所だ、もし佳乃と一緒でなければ、俺は一生ここに踏み入ることはなかろう。
「ちょっと、君」
「?」
振り返ると、教師のような男が背後に仁王立ちしている。
約束通りだけどな……
「ぴこ!?」
「校、校長……」
校長!? 教師じゃなくて校長の登場かよ!
「君、見たことない顔だな、新入生か?」
学校の校長は、俺の方に厳しい口調で問いた。
廊下のまわりはいろいろの視線がこっちに向けている。
佳乃とポテトは、混乱状態になった。こういう時、逃げるしかない。
できればこんなことしたくないが……
「えっと、わたくしはですね……」
甘い声で女言葉をしながら、俺は少しずつ校長に近寄った。
校長は警戒心がないと確認した。
そして
「なんでやねん!!」
「くはっ!?」
俺は全身の力を込めて校長ののどを猛烈にチョップした。これは人体の最も弱い急所のひとつだから、今の俺でもあいつに大きなダメージを与えられる。
「なんでやねん!!」
もう一丁!
「がっ!」
「うわわわ〜 校長が倒れたよ」
「ぴ、ぴこ〜」
「なんでやねん! なんでやねん!」
「ぐっほ! ぐおお!!」
連続チョップ攻撃を耐えられずに倒れて悶絶している校長に、俺は容赦なくやつを蹴りつづけた。
「きゃあああ! だ、誰か!」
「なんなのあの子は!?」
「いいぞ! やっちまえ!!」
学校の中に生徒たちの悲鳴と応援(?)の声が満ちた。
つい教師たちまでこっちに走っている。
「き、君!校長になにをしている!?」
「佳乃、逃げろ!」
「う、うん!」
「ぴこぴこ〜」
俺たちは全速力で学校を逃げ出した。後ろのポテトは嬉しそうだが、これは遊びじゃない。
そして俺たちは堤防まで来た。
「はあはあ……この辺なら大丈夫だろう?」
「そうだね、でも往人くんが突然校長を殴ってびっくりしたよ」
「....それ以外なにかいい方法がある?」
「でもおかしいな〜 どうしてバレたの?」
バレない方がおかしいと思うがな……
「とにかく戻るぞ」
「うん」
「ぴっこり」
ちょっと疲れたが、今日はずいぶん楽しかった。
ひゅ〜ぱぱん!
ぱぱぱぱぱ!
夜空に、花火の破裂声が響いた。
「あ、花火だ!」
「そういえば、隣町は花火大会だそうだな。」
「あたしも行きたいな〜」
「今行っても、もう間に合わないぞ」
「うぬぬぬ……」
佳乃は残念そうに空にじっと見つめている。当然、そんな佳乃を無視する聖ではない。
「しかたないな……」
「あははは! かのりんロケット、発射!」
「ぴこ!?」
ポテトに向けて佳乃はロケット花火を放った。
とんでもねえ遊び方だ……
聖も線香花火を遊んでいる。
「……おい、いいのかこれ」
「いいじゃないか、佳乃はあんなに楽しそうだし」
「それはそうだが……」
地面は、花火の残骸だらけだ。
「……近所迷惑と思わないのかお前ら?」
いつの間にか、三上が隣に立っている。
「ほら、じじいからのお土産だ」
三上は俺に大きな袋を渡した。
いっぱいの団子がある。
「うわ、 団子だ巫女さんありがとう〜」
「ぴこぴこぴこ〜」
「だから巫女さんと言うな! 毛玉ももう肯定するなってんだ!」
佳乃と聖は団子を食べながら花火を遊びつづけている。
二人の姉妹の邪魔をしたくないから、俺たちは少し遠い所に座っていた。
「なあ、三上、いきなりだが、聞いたいことがある。」
「なんだ?」
「お前、なんで旅をしたのか」
「本当にいきなりだな」
「いいから教えてくれ」
「まあ、強いて言えば、たぶん理由を知りたいからだろう」
「理由?」
「そうだ、旅をやめる理由」
「なんだそれは」
三上は夜空に見上げると、口を開いた。
「例えばな、ストレスの解消ならともかく、普通、人は求めているものを探すのに旅をするじゃないか。お前も、なにかを探すために旅をしてるんだろ? よく考えろ、もしいつか、ずっと探しているものを見つけたら、お前、まだ旅を続ける気か?」
「……」
「もちろん、求めるものは人によってそれぞれ違うが、最終的に、人はなにかを探すために旅をして、そしてそれを見つけたら旅をやめる。その探すものは旅の理由であると同時に、旅をやめる理由でもあるんだと、おれはそう思ったぜ」
「たしかにな……で、お前、その理由を見つけたのか?」
「いや、全然だ。お前さんと違って、おれは一生かけても見つけられないかもしれないさ……」
話してる間、佳乃はこっちに声をかけた。
「往人くん〜 そこになにしてるの?」
「なんでもねえよ」
ゆっくり身を立ち上がって、佳乃の方に足を向けた。
(理由、か……)
俺の旅の理由は、いったいなんなんだろう?
管理人のコメント
二人が結ばれた夜が明けて、何が起きたかと言うと……
>「お前な! なんで赤飯を作ってやがる!?」
爆笑。おおらかな聖も笑えますが、赤飯じゃ意味合いが違う(笑)。
>佳乃は俺をあの学校の制服に着替えさせた。首筋の傷も、包帯に隠された。
いやはや、見てみたいですねぇ。女の子往人君の制服姿。
>「えっと、わたくしはですね……」
>甘い声で女言葉をしながら、俺は少しずつ校長に近寄った。
>校長は警戒心がないと確認した。
>そして
>「なんでやねん!!」
何気に女の子の武器を使いこなす往人君に萌え。それにしても校長は気の毒です。何も悪い事してないのに(笑)。
>「そうだ、旅をやめる理由」
>「もちろん、求めるものは人によってそれぞれ違うが、最終的に、人はなにかを探すために旅をして、そしてそれを見つけたら旅をやめる。その探すものは旅の理由であると同時に、旅をやめる理由でもあるんだと、おれはそう思ったぜ」
意外に深い智也の言葉。往人君も考え込まされます。
>俺の旅の理由は、いったいなんなんだろう?
彼(彼女?)も「空にいる少女」と佳乃の間で迷っているようですね。
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