AIR〜夏の終わり〜

 第ニ話 「霧島 聖」
 
 作者: 暇の人
 
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 小さい時、母さんが死んた。
 あの時から、わたしはずっと佳乃を守って来た。
 すこし退屈だが、幸せな日常。

 しかし、数年前のあの夜、祭の後、神社で不思議な羽を触ってから、佳乃はおかしくなってしまった……

 いつも一人でわけのわからない独言をしたりとか、無意識に神社へ行ったりする。そのせいであの時から佳乃は友達が少なく、同年齢の子達から苛められたこともある。ついに、佳乃は無意識の間に自分の手首すら切るようになった。しかも、一度だけではない……

 それを止めるために、わたしは黄色いパンダナを佳乃の右手首に巻いた。そうしたら、もしまた手首を切ろうとしたら、パンダナを見て正気が戻るように。
 あれはただの病気に過ぎないかもしれないと思って、父さんはいろいろな精神の病気に関する本を捜して、佳乃を治すために、わたしも一所懸命医学を勉強しはじめた。

 そして、その父さんも数年前に死んだ。わたしは父さんの診療所の医者になった。
 医者をしながら佳乃の世話をするのは、決して楽なことではない。しかし、佳乃のためだと思ったら、どんな困難でも耐えられる。

 ある日、診療所に、奇妙な生き物が来た。
 外見は毛玉と変わらないが、意外に佳乃はすぐにそいつと仲良くなってしまった……
「ぴこっ」と言う奇声しか出さないのに、なぜか佳乃はそいつの言葉がわかった。
 佳乃の話によると、ポテトという名前をつけたらしい。
 とにかく、佳乃と一緒に遊んでくれるなら、誰でもかまわない(人間じゃないが)。わたしはさっそくポテトをここで飼うことにした。

 ここに住むようになってから数日、ポテトも佳乃のことがよく理解できるようになった。
 そして、ポテトは親が自分の子供を守護するように、毎日佳乃のそばにいる。顔はちょっと可笑しいが、わたしにとって、ポテトは心強い味方だ。

 それでも、わたしは不安だった。

 ――もし、現代医学では佳乃を助けられないなら?

 佳乃の事情はあまりにも特殊過ぎる。普通の方法では佳乃を助けられない。わたしがどんなに医学を学んでも、ただの人間だ。不思議な力でなくては……

 ついに、わたしは不思議な力を使う人と出会った。
 おととい、診療所の門外に、一人の青年が座っていた。
 なにをしてるのかわからない。少し覗いてみたら、彼は人形芸をしていたようだ。しかし、人形の動きは、糸で動かす人形ではできない。それに、わたしの
 視力でも、あの人形芸の仕掛けを見つけられない。
 残念ながら、前の商店街には通行人はない。彼はどんなに頑張ったって、客がいなかったら芸をしても無駄なだけ。

 疲れ過ぎたか、彼は地面に倒れた。ぐう〜〜〜〜〜という腹の音が、診療所内でも聞こえた。このままだと、彼は餓死してもおかしくなかった。病院の前で人が死んたら大変だし、少しだけ彼に興味が湧いてきた。軽い自己紹介をしたあと、わたしは彼に中を誘って昼ご飯をご馳走した。

 国崎往人、旅人で大道芸人。口はちょっと悪いが、悪人ではなさそうだ。
 彼からは、言葉では言えない、予感を覚える。
 彼なら何かができる、そんな予感がした。
 自分でもよくわからないが、わたしは、彼に何を期待しているのだろう……


 昨夜、わたしの予感が当たった。

 いつも通り、わたしは神社で佳乃を探していた。やはり、佳乃とポテトは神社にいた。しかし、もう一人がいる。この街では見た事の無い人だった。
 佳乃と同年代らしい。古い服を着た、長い銀髪の美少女だった。見た目はこの時代の人には見えない。なんでここにいるのか、と言う疑問を抱いたまま近寄った。
 突然、強い光が彼女からすごい勢いで放たれた。その後、目の前にいた人は変わってしまった……

「国崎……君?」

 不思議過ぎて夢でも見ているのかと思ったが、起こったことは全部現実だとわかった。


「あれ……? お姉ちゃん?」

「あ、佳乃、大丈夫か」

 いつものように、佳乃は意識を失う前のことは記憶がない。もちろん、わたしも佳乃に話す気はない。ちょっと誤魔化したあと、わたしは国崎君を背負い、診療所へ帰った。途中、佳乃とポテトは楽しそうに会話をしていた。大体の内容は知らないが、どうやらポテトは国崎君を神社まで連れて行ったらしい。もしかして、ポテトもわたしと同じ予感を感じているのだろうか? 
 佳乃は国崎君に興味があるみたいだ。わたしも昨日昼間のことを佳乃に教えた。そして、佳乃は「な〜んだ」と残念そうな顔をした。

「お姉ちゃんにも、安心できる男性が見つかったと思ったのに」






 目を開いたら、一人の女性が視界に入った。

「起きたか」

「……聖?」

 霧島 聖。
 おととい、この町に来た初日、餓死寸前の俺に飯を奢ってくれた人。その後は診療所の掃除を強要したが。一応、命の恩人と言ってもよい。
 しかし、昨夜は神社で倒れたはずだが…….

「俺、なんでここにいる?」

「知らないのか? わたしは君を神社からここまで運んたぞ? 君、意外に重いな。運んた時はすごく大変だったぞ」

「そっか……?」

 つまり、昨夜のことは夢でも幻覚でもというわけだ。だが、自分をよく見たら、いつもとなにも変わらない。
 ならば、毛玉と、黄色いパンダナに巻いた少女と、金色の海にいる女の人は?

「とにかく、朝食にするか。君の分まで作ったぞ」

「いいのか?」

「ああ、後で掃除をしてくればいいのさ」

「……やっはりな」

「なに?」

「なんでもねえよ……」

 しかたない、今は食事をするのが優先だ。
 俺は聖の後に続いた。

「お姉ちゃん〜 ご飯まだ〜?」

「ぴこっぴこっ」

「……え?」

 いきなり、人形を奪った毛玉と、神社の少女が、俺の目の前にいた。




 
あとがき:

なんの進展もない一話です。


管理人のコメント


 神社でのイベントから一転、今回は佳乃の姉、聖の回想から始まります。
 原作と変わらない設定ではあるんですが、なんとなくこの作品の聖は、原作よりも語り口調がしっとりしていて、なかなかイイ感じです。
 
>古い服を着た、長い銀髪の美少女だった

 どうやら、往人の変身は現実世界でも起きていたようです。しかし……
 
>その後、目の前にいた人は変わってしまった……

 元に戻りました。この辺も、この作品の大きな謎です。
 
 
>「お姉ちゃんにも、安心できる男性が見つかったと思ったのに」

 往人は佳乃を知りませんでしたが、彼女の方は彼を見ていたようですね。
 
 
>「知らないのか? わたしは君を神社からここまで運んたぞ? 君、意外に重いな。運んた時はすごく大変だったぞ」

 往人はけっこうガタイが良いので、実は聖ってすごい力持ちなのでは? と思います(笑)。
 
 往人は変身の事は夢かと思っているようですが、佳乃との正式な顔合わせによって、今後どうなるか、また他のヒロインの出番はあるのか、と興味は尽きません。
  


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