〜Story of Space 88 Fleet〜
宇宙八八艦隊物語



1「栄光」

 U.C(宇宙世紀)0068、一人の物理学者が事故死した。彼の名はミノフスキー。成功すれば、従来の物理学を根底から覆す画期的な存在となる素粒子を発見できたかもしれない、重大実験の最中の出来事であった。
 しかし、結果として彼は死亡し、その異端ともう言うべき理論は歴史の影に葬り去られる運命にあった。

 U.C0077年、ジオン公国軍大将ギレン・ザビはみずからが主導し、建設に邁進してきた大艦隊に満足の表情を浮かべていた。「グワジン」級戦艦8、「ティベ」級巡洋戦艦8を中心とする通称「八八艦隊」の完成である。優れた砲力、防御力、機動力、そして優秀な技術陣が開発した長距離射撃管制レーダーと猛訓練により、宿敵地球連邦軍の三倍の命中率を備え、彼らが擁する「マゼラン」級戦艦10、「サラミス」級巡洋戦艦6からなる三年計画級戦艦を凌駕しうるものであった。
 U.C0079年、宇宙における覇権を争い、遂に地球連邦とジオン公国の間に戦端が開かれた。その最初の戦いは一年戦争三大海戦の一つ、サイド5のスペースコロニー群沖で戦われたルウム沖海戦であった。
 戦闘は兄とは違い航空主兵主義を掲げるドズル・ザビ中将が擁する航空母艦「ドロス」から発進する史上初の人型宇宙戦闘機「ザク」と、地球連邦軍主力戦闘機「セイバーフィッシュ」による制空権争奪から始まった。小型で強力な動力源が得られないため、防弾の貧弱な「ザク」であったが、120ミリマシンガンの威力と手足を振る事で姿勢を制御するAMBAC機動による格闘戦で「セイバーフィッシュ」を圧倒し、連邦は制空権を失った。
 そして、両軍主力の砲雷撃戦が展開された。連邦軍はキシリア・ザビ少将率いる機動巡洋艦「ザンジバル」の近接雷撃戦でサラミス級からなる第二任務群司令長官のグリーン・ワイアット大将を旗艦「サラミス」ごと葬り去られ、戦力の半分が遊兵と化す惨状をさらした後、ギレン直卒の第一艦隊(グワジン級)とガルマ・ザビ少将率いる第二艦隊(ティベ級)によって主力のマゼラン級10隻からなる第一任務群を包囲殲滅された。司令長官レビル大将は捕虜となり、連邦軍はマゼラン級7、サラミス級1を失う大敗を喫した。
 圧勝し勢いに乗るジオン軍は地球連邦に対し事実上の降伏勧告となる南極条約を突きつけたが、奇跡の脱出に成功したレビル大将の演説「ジオンに兵なし」により戦意を回復、徹底抗戦を決意する。
 以後、連邦軍は戦意高揚スローガン「ジオンに兵なし」を合い言葉に新造艦の建造に邁進していく。


2「暗雲」

 戦力の回復に努める連邦軍。レビルは戦略的後退による体制の建て直しと敵を内懐に誘い込んで退路を断ち、これを殲滅する作戦計画を立案。宇宙最大の拠点ルナ2を放棄した。一方でティアンム提督に新造空母「ペガサス」「ホワイトベース」を預け、ジオン軍の兵站破壊を命じる。
 勝利の勢いで戦線を拡大するジオン軍は、サイド7などの親地球派コロニーと地球本土の連絡を絶つ「地球−宇宙遮断」を唱え、ルナ2を占領。グワジン級、ティベ級それぞれ2を中核とする艦隊をガルマを指揮官として駐留させる。
 しかし、ルナ2は逆にティアンムの快速機動艦隊に補給線を遮断され、孤立に陥る。日々乏しくなっていく燃料と資源。ガルマは何度も撤退と増援を求めるが、慢心した本国からの増援はシャア・アズナブル率いる水雷戦隊のみであった。
 その間にも続くティアンム機動部隊の攻撃は遂にルナ2自体にも及び、艦隊の命綱であった燃料タンクが破壊される。ここに至り、遂にガルマは戦線の放棄を決定。戦艦乗員をシャア水雷戦隊で脱出させ、自らは侵攻してきた連邦軍戦艦部隊に水雷艇で突撃。壮絶な戦死を遂げる。4隻の戦艦はいずれも自爆、自沈した。
 ギレンはこれをも利用し、英雄ガルマの死を悼み彼に続いて地球と戦って行こうと言う大演説をぶつが、場末の酒場にはそれに対し皮肉な意見を吐くシャアの姿があった。
 そして、連邦軍ジャブロードックでは新造戦艦「ラーディッシュ」が進空の時を迎えようとしていた。


3「奮迅」

 ルナ2を奪回し、各地のジオン拠点に追撃をかける連邦軍。そうした中、連邦軍はティアンム機動部隊に新型戦闘機を配置する。ルナ2で捕獲した「ザク」を徹底的に調査し、これに対抗すべく産み出した人型戦闘機「ジム」であった。ジムの強襲を受けたジオン軍拠点5thルナでは迎撃したザクの大半が撃墜され、ザク無敵神話が崩壊する。
 勢いに乗る連邦の進撃は早く、ジオンは本土サイド3と月、サイド6を絶対防衛圏に設定し、残る戦力を集中させる。これに対し、連邦も新造戦艦「ラーディッシュ」級、「レバント」級を投入しジオンの絶対防衛圏打通を図る。
 こうして、サイド6沖を戦場とする「リーア沖海戦」への幕は開いた。サイド6より無数のザクを飛来させ、制空権を確保しようと図るジオン。連邦も新造ペガサス級空母「トロイホース」「グレイファントム」を加えた機動部隊よりジムを発進させ、数百機の機動兵器が乱舞する中、戦艦群の砲撃戦が始まった。
 戦いは両軍が投入した対艦バズーカ装備の機動兵器により収拾の付かない乱戦となった。新造戦艦「サダラーン」で指揮を執るギレンにも、「ネェル・アーガマ」に座乗するレビルにも戦況は混沌として読めなかった。最終的に両雄が撤退を決意した時点でジオンは4隻、連邦は5隻の戦艦を喪失していた。
 戦術的には勝利したジオンであったが、建艦能力の差や、ステルス潜宙艦の攻撃で空母「ドロワ」を喪失し、戦略的には敗北であった。一方の連邦軍は遂に巨大戦艦「バーミンガム」を就役させ、その戦力はジオンを完全に上回りつつあったのである。


4「激浪」

 リーア沖海戦の結果、ジオンの絶対防衛圏はその一画を食い破られた。地球艦隊は遂にジオンの勢力圏である月へと侵攻を開始する。全戦線でジオンの戦力は後退を余儀なくされていた。
 ここに至り、ジオンは艦隊決戦の勝利を背景に地球との講和を探る戦略に切り替え、サダラーン級2番艦「レウルーラ」を投入。一方地球軍はバーミンガム級戦艦、ペガサス級空母を量産しじわじわとジオンへの圧力を強めていた。
 開戦から9ヶ月、地球軍は遂に月最大の要衝グラナダへ侵攻した。月面を舞台に両軍機動兵器の激戦が展開される。これに対し、ジオン軍は本国から出撃する第一艦隊とソロモンから出撃する第二艦隊を分進合撃させ、月近海の連邦軍に決戦を挑む事を決定する。
 その矢面に立たされたのは第二艦隊を率いるドズルであった。ティアンムが放つジム隊の猛攻にエスコート艦艇群を脱落させられ、丸裸になっていく第二艦隊。ようやく月近海へ到達した彼が見たものは、グラナダを背に展開する連邦の大艦隊であった。


5「弔鐘」

 合同に成功したギレン艦隊とドズル艦隊。しかし、連邦軍の戦艦部隊は圧倒的な戦力を有していた。ギレンは強力な砲戦力を持つサダラーン級、グワジン級のみで連邦艦隊をアウトレンジ攻撃する事を目論むが、連邦軍が放った長距離砲戦指揮用の観測ビットとバーミンガム級の熾烈な砲火の前に一隻、また一隻と沈黙を余儀なくされる。特に連邦艦隊旗艦「バーミンガム」では、その卓越した目標補足能力から「ニュータイプ」と噂される主砲方位盤射手、アムロ・レイ少尉がわずか五分間の間の斉射でコンスコン少将指揮下の一個水雷戦隊12隻を壊滅させるなど、その恐るべき砲撃力を遺憾なく発揮した。
  ついに撤退を決断するギレン。彼に対し盲目的な忠誠心を抱く「レウルーラ」艦長エギーユ・デラーズ大佐は艦隊の撤退を援護するため殿軍に立ち、連邦軍戦艦14隻の猛攻をただ一隻で支えきった後、艦と運命を共にした。
 グラナダ沖海戦で再起不能の打撃を負ったジオン艦隊には、もはや戦局を盛り返す力はなかった。ジオン本土に侵攻する連邦艦隊に対し、ソロモンにこもったドズル指揮下の第二艦隊も玉砕し、単独行動中の戦艦「グワバン」はティアンム機動部隊に捕捉され大破、本土へ辛うじて撤退するも航行不能となった。遮るものの無くなった連邦はジオン本土直前の最後の拠点、ア・バオア・クー攻略を開始した。
 もはや残されたただ一隻の稼動戦艦となった「サダラーン」は第二艦隊の旗艦として、司令キシリア中将、艦長トワニング大佐指揮の下、ア・バオア・クー救援のため出撃する。そのア・バオア・クーではアナベル・ガトー少佐率いる343機動戦隊が新型機「ドム」「ゲルググ」を擁して必死の防衛戦を繰り広げていた。
 そして、廃棄されたコロニーの近海で最後の艦隊戦闘、ア・バオア・クー沖海戦が開始された。「サダラーン」は廃棄コロニーの残骸で連邦艦隊の照準を狂わせ、水雷戦隊の突撃と合同して連邦戦艦に「ベルファスト」撃沈、「ラーカイラム」「アルビオン」大破の打撃を与えるも、それが限界であった。艦橋への直撃弾によりキシリア、トワニングとも戦死し、「サダラーン」は撃沈された。出撃全艦がア・バオア・クーを見る事も、ジオン本土へ帰る事も出来なかった。
 12月下旬、ア・バオア・クー陥落。連邦軍はジオンに対し無条件降伏を要求する。黙殺するギレン。そのツケはすぐに回ってくる事になった。
 12月31日、ア・バオア・クーを飛び立った一機の機動兵器が携行していた長大なバズーカ砲の砲身をサイド3のコロニーの一つへ向け、発射した。次の瞬間、凄まじい閃光と共にコロニーは粉砕されていた。
 連邦が開発した史上初の戦略機動兵器「サイサリス」による核攻撃。これによりジオン公国は降伏を決定する。ギレンは徹底抗戦を目論み、クーデターを決起。降伏派の父、デギン公王を殺害するも、ア・バオア・クーより生還したシャア率いる陸戦隊に鎮圧され自決した。
 こうしてシャア・アズナブルことキャスバル・ソム・ダイクン臨時国家主席が全権を掌握したジオン共和国は連邦に降伏、ジオンは自治権こそ残ったものの武装解除され、非武装中立国家として再建が始まったのであった。
 U.C0080年3月、ジオンに残されていた最後の戦艦「グワバン」は暗礁空域において対艦反応弾の実験台となり沈没。八八艦隊最後の艦が散った。

 その後、相次ぐスペースノイドの反抗においてジオンも地球に味方すると言う条件で軍備を再建。やがてザンスカール帝国との戦いでドズルの娘ミネバ・ザビが父の遺志を受け継ぎ、史上初の機動兵器による戦艦撃沈を成し遂げる…という事件もあったのだが、それはまた別の物語である。


あとがき
 実は、この作品は随分前にテキストデータにはしてあったもの。10000ヒット記念のネタが無かったため、急遽HTML化して公開しました。一応「八八艦隊物語」の二次創作にはなっていると思います。
 ガンダムネタに付いては、巨大ロボット兵器嫌いの作者はファーストと0083、あとは戦艦の名前しか押さえていないため、相当アラがあるかと思われますが、あまり突っ込まないでください(笑)。


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